<レンジャーズ0-5マリナーズ>◇第2試合◇13日(日本時間14日)◇レンジャーズボールパーク
【アーリントン(米テキサス州)=四竈衛、木崎英夫通信員】新しい歴史が作られた。マリナーズのイチロー外野手(35)が、レンジャーズとのダブルヘッダー第2試合の第2打席に遊撃適時内野安打を放ち、メジャー史上初の9年連続200安打を達成した。シーズン200安打は、昨年までのイチローと、ウィリー・キーラーが1894年から1901年に8年連続を記録していた。108年ぶりに更新し、偉業を達成した。来季は大リーグ最多となるピート・ローズの10度の200安打に挑む。その先に日米通算4000安打、さらには史上最多安打記録へと、夢は続いて行く。
アルコールが染みた両目は、赤みを帯びていた。試合後、シャワー室に入ったイチローは、突然、グリフィーに抱え上げられた。取り囲んだ同僚からは、ビールやジュース、7リットルタンクの水を頭から浴びた。「今年はチームに助けられましたね」。108年の歳月を超える大記録。重みのある数字を、大騒ぎで祝福してくれる同僚の気遣いがうれしかった。
激しい雨でダブルヘッダーの第1試合の開始は大きく遅れた。その試合で左翼線に適時二塁打1本を放ち199安打。第2試合は午後7時54分(日本時間14日午前9時54分)過ぎに始まった。イチローは「1番右翼」。その第2打席、1-0の2回2死三塁、レンジャーズ先発左腕ホランドのカウント2-0からの3球目、外角高めの真っすぐをとらえた。緩い打球が遊撃へ。スリーバウンドで捕ったが投げられない。イチローが一塁を駆け抜けた。
一塁では、右手で静かにヘルメットをかざし、空席が目立つスタンドに視線を送った。「解放された、って思いました。人の記録との戦いが、一応、終わりを迎えることができたかな」。周囲は記録や他の選手と比較しても、イチローは常に自分自身に目を向けてきた。「人と争うことっておもしろくない。そうでなくてはいけないんですけどね。そりゃ、自分の中の何かと戦うことも当然です」。
大記録に到達したイチローの打撃を支えてきたのは、実は鍛え抜かれた肉体以上に、ボールを的確にとらえる目だった。一般的に、打撃には動体視力が必要とされるが、イチローの視力は両目とも0・4前後と決していい部類ではない。実際、メジャー移籍した01年の春季キャンプでは、コンタクトレンズをテスト。結局、効果がなく、着用をとりやめた。今も使用していない。
その一方で、イチローの目は、別次元で優れていた。オリックス時代、専門家の検査を受けた際、イチローは人とは違う力の存在を知った。「止まった状態で動くものを見る以上に、僕は自分が動きながら、動く物体を見る方がいいらしいんです」。ちょうどサッカー選手がドリブルしながら瞬時に前方のスペースを察知するのと同じ「空間察知力」。当時の球界の常識を覆した振り子打法をはじめ、投手方向に動きながら打てるのも、そのたぐいまれな能力によるものだった。
だからこそ、イチローはボールの縫い目や球体の中心を凝視しない。自らも「見てますよ。なんとなくは」と、あいまいさがあることを否定しない。ただ、投手がリリースして打席に到達するまでの約0・4秒間で、ストライクゾーン以外の悪球でもコンタクトできるのは、ボールを点や線でなく、立体的にとらえられるのが理由だ。打者の限界として視力の衰えを指摘する声も、イチローの場合は必ずしも当てはまらない。
04年の年間最多262安打に続く9年連続200本安打。2つの最高峰からの景観も実感した。「ちょっとは楽になるかな。自分と向き合っていけばいいんだもん。すごく気楽な目標になるかも。あくまでも予想だけど」。もちろん、気楽にならないことを、イチロー自身が知らないはずはない。打席に立てば、次の201本目に向かうだけだ。前方の視界にある10年連続200安打やメジャー通算3000安打、そしてその先の1球を、イチローは同じ目で見つめている。