「日本の論点2025-26」大前研一著/プレジデント社(選者:佐藤優)

公開日: 更新日:

ウクライナ戦争 見えてきたロシア粘り勝ちのシナリオ

 激動する国際情勢を大前研一氏が予測する。特にロシア・ウクライナ戦争に関する分析が秀逸だ。大前氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領に対し、厳しい評価をする。

<ゼレンスキー氏は国内での求心力が低く、今選挙をすれば再選が危うい。結局、政府は戒厳令を理由に選挙を延期した。対戦相手のロシアが大統領選挙を実施したのだから、やってやれないことはなかったはずだ。/国民からの支持を失っているのは、戦況の厳しさも影響している。「ウクライナ軍がドローン攻撃で勝利した」というニュースが盛んに流れてくるが、あれは散発的な勝利を大げさに伝える“大本営発表”であり、第二次世界大戦末期の日本でよく見られた光景だ>

 他方、ロシアについては以下の見方を示す。

<今のロシアは、経済全体も悪くない。輸出の柱だった原油と食料は、インドを筆頭にグローバルサウスの国々が継続して買ってくれる。また、中央銀行が優秀で、侵攻直後に暴落した通貨ルーブルはすぐに持ち直していた。GDP(国内総生産)で見る限り、西側の経済制裁は効果がなかったという評価が妥当であり、ロシアの粘り勝ちのシナリオが見えてきた>

 ただし、大前氏はこの戦争で長期的にはロシアも敗北するとみている。最大の敗因が、中立国であったフィンランドとスウェーデンをNATOに加盟させてしまったことだ。確かに、NATOとの間のバッファー(緩衝地帯)がなくなってしまったことで、ロシアはヨーロッパと構造的に軍事的緊張をはらむことになった。ロシアは中東やアジアとの連携を強めるユーラシア国家としての色彩を一層強めることになる。

 その結果、ロシアは中国への依存度を強める。ユーラシア国家にシフトした結果、ロシアが中国のジュニアパートナーになると大前氏は見ているようだ。

 この点について評者は異論がある。軍事、特に先端兵器に関してはロシアの優位性は当面崩れないので、ロシアが政治的に中国に従属する可能性は低いと思う。いずれにせよ、日本はウクライナに殺傷能力のある兵器を提供していないG7中、唯一の国だ。この戦争に深入りせずにほんとうによかった。 ★★★

(2025年1月10日脱稿)

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