「争いばかりの人間たちへ ゴリラの国から」山極寿一著

公開日: 更新日:

「争いばかりの人間たちへ ゴリラの国から」山極寿一著

 ゴリラはこれまで100年以上も、暴力的で好戦的な動物とみなされてきた。しかし、40年余りアフリカに通ってゴリラの暮らしを体験した著者は、彼らが慈愛に満ちた家族生活を送り、巧妙なルールによって暴力の発現を抑えていることを知る。

 たとえばニホンザルは老いると若くて強いオスに群れから追い出されるか、あるいは控えめな態度で群れに残るしかない。しかしゴリラは、父親が離乳した子どもを育児する。子どもに頼られるようになると背中の毛が白銀色に染まり、暗い森の中で光輝くようになる。息子たちは成長して力が強くなっても、そんな父親を邪険に扱うことはない。外から強いオスがやって来ても息子たちは父親を見捨てることはないという。

 また、自分より優位な者同士のケンカに介入し、どちらにも加勢せず、ケンカを鎮める。勝者をつくって終わらせるのではなく、ケンカそのものをやめさせようとするそうだ。

 人間は負けないことが勝つことと同一視され、自己実現を目標とし、個人の利益ばかりを追求する世にしてしまった。だがゴリラ同様、私たち人類の祖先も平和で平等を希求する社会をつくっていたはずである。めまぐるしく価値観が変わる現代社会を、霊長類学者が「ゴリラの目」で見つめ直す。

(毎日新聞出版 1760円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    早期・希望退職の募集人員は前年の3倍に急増…人材不足というけれど、余剰人員の肩叩きが始まっている

  2. 2

    永野芽郁&田中圭の“不倫LINE”はどこから流出したか? サイバーセキュリティーの専門家が分析

  3. 3

    ドジャース佐々木朗希「負傷者リスト入り」待ったなし…中5日登板やはり大失敗、投手コーチとの関係も微妙

  4. 4

    低迷する「べらぼう」は大河歴代ワースト圏内…日曜劇場「キャスター」失速でも数字が伸びないワケ

  5. 5

    巨人秋広↔ソフトBリチャード電撃トレードの舞台裏…“問題児交換”は巨人側から提案か

  1. 6

    田中圭が永野芽郁と密会していた“妻公認”の仕事部屋…警戒感緩むもバレやすい不倫の痕跡

  2. 7

    朝ドラ「あんぱん」教官役の瀧内公美には脱ぎまくった過去…今クールドラマ出演者たちのプチ情報

  3. 8

    TBSのGP帯連ドラ「キャスター」永野芽郁と「イグナイト」三山凌輝に“同時スキャンダル”の余波

  4. 9

    河合優実「あんぱん」でも“主役食い”!《リアル北島マヤ》《令和の山口百恵》が朝ドラヒロインになる日

  5. 10

    キンプリが「ディズニー公認の王子様」に大抜擢…分裂後も好調の理由は“完璧なシロ”だから