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  • 2024年2月16日

人口減少の町に観光客が押し寄せる理由 千葉県いすみ市・神崎町 注目される「ガストロノミーツーリズム」とは

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人口約6000の町に、年80万人近くの観光客が押し寄せています。 
町に人を呼び込んでいるのが、「ガストロノミーツーリズム」という新たな観光の形です。「料理を味わう」だけでなく「食文化を学ぶ」「みずから作る」などの食体験をするために、その土地に赴くことを指しますが、なぜ人々をひきつけているのでしょうか。 
イセエビやサザエ、日本酒…。首都圏近郊で注目の“美食の町”を取材しました。(首都圏局/ディレクター 韮澤英嗣)

食が地域の宝に! ガストロノミー先進地 千葉県いすみ市

千葉県の外房に位置する、人口3万5千のいすみ市。いま、この町の食を目当てに、年間45万人以上が訪れます。

豊かな海と里山に恵まれたいすみ市は、農業や漁業などの一次産業が盛んです。 
しかし、担い手の高齢化が進み、自治体は強い危機感を抱いていました。

食に注目するきっかけとなったのは、10年ほど前、町を訪れた人がつぶやいた一言でした。

いすみ市役所水産商工観光課 山口高幸さん 
「手に取ったイセエビとかマダコだとか野菜について、『こんなにいいものがあるのだね』という声が聞こえました。それが、食を柱にした街づくりをする出発点でした」

産地としての規模は小さく、知名度はなかったものの、食材の「質」には自信があった山口さんたち。 売り込みをかけたのが「料理人」でした。

東京などで活躍する料理人をいすみ市に招き、「料理コンテスト」や「イベント」を毎月のように開催しました。

転機となったのは、東京でフランス料理店を営む、杉本敬三さんとの出会い。地元では意識をしなかったいすみ市ならではの「食文化」を見いだしてくれたのです。

フランス料理店 オーナーシェフ 杉本敬三さん 
「いすみ市は副業で家族や孫のために、農業している方が多いです。自分の孫や子どもが毎日食べる野菜に、農薬をたくさん入れて形をきれいにする人ってあんまりいないんですね。そういった食文化がすでに根づいていたというところがすごく好きになりました」

頻繁にまちを訪れるようになった杉本さんは、料理人の仲間に自らその魅力を発信。いすみ市を訪れる人が、少しずつ増えていきました。

食材の評価が高まる中で、高い意欲を持った若手農家も育っていきました。

糖度や酸味が増すという、できるだけ水をあげない栽培方法に挑戦してきた、トマト農家の石野篤史さん。

訪れた料理人たちから意見をもらい、味を改良。都内にある高級レストランからの注文も入るようになりました。

トマト農家 石野篤史さん 
「『もっとこういうトマトがいい』とか『ここまでしなくてもいい』とか。料理人さんから直接意見を聞くことができて、実際、取引につながっているので、ありがたかったです」

いま、いすみ市では新たな宿泊施設が続々と開業しています。施設が売りにしているのが、地元の食材を使った料理です。

食のまちを目指して10年。いすみ市の食材は投資や人を呼び込む、まちの宝になりました。

いすみ市 市長 太田洋さん 
「やっぱり食でナンバーワンを目指したい。5年後には(観光客数を)100万人ぐらいまで引き上げて、いすみの魅力をさらに食を中心に発信していければと思っております」

麹(こうじ)の“体験“が人を呼び寄せる千葉県 神崎町

人口6000ほどの千葉県・神崎町に人を呼び寄せているのは、「麹」です。

酒蔵が主催する発酵文化の体験ツアーには、国内外から旅行者が訪れます。 
この日は、国内に住むアメリカ人の一行が参加しました。

参加者

おいしい。

参加者

自分の目でみて、すごく、感激しました。


江戸時代から、酒やみそなどの発酵食品の生産が盛んで、「関東の灘」ともいわれていた神崎町。

麹に可能性を見いだしたのは、10年ほど前。老舗が次々と店を閉める中、伝統を残そうと始めた「酒蔵まつり」でした。

人口6000人ほどの町に、1日2万人を超える観光客が訪れたのです。

創業335年の酒造店 代表取締役社長 大塚完さん 
「始めたとたんに、いきなり人がすごく来るようになりました。これはおもしろいなと」

これをきっかけに、町が未来を託したのが「発酵のまちづくり」。9年前には、発酵をテーマにした全国初の道の駅を建設しました。

その2階で開催される発酵食品を使った料理などの体験講座は、毎回満員。 
参加者の多くが町外から訪れます。

健康志向も追い風となり、道の駅の来訪者は年間85万人を超えるまでになりました。

茨城県からの 
参加者

いい調味料、知らないものとかも勉強できて、よかったと思います。

千葉市からの 
参加者

もう(神崎町)に来すぎていて、第2の故郷みたいになっています。


発酵のまちづくりは、地域で埋もれかけていた食文化の掘り起こしにもつながっています。

町内に11ある飲食店は、地元で親しまれていた発酵食品を使ったメニューを開発しました。

この店で使っているのは、地元特産のピーナツみそ。今ではこの味を求めて北海道や沖縄など、全国各地から観光客が訪れるといいます。

カフェ店長 
千葉貴美子さん

遠くからきた若者がそれを食べて「神崎はいいな」って思ってくれればいいですね。

年間400万人が訪れる三浦市 目指すは“ミウラオリジナル”

三崎のマグロや、三浦大根…。こうした名産品を目当てに、年間400万人が訪れる三浦市。

さらなる進化を遂げようと、市役所を中心に、外国人などの「富裕層の誘致」に挑戦しています。

去年(2023年)の年末、プロジェクトのリーダー、徳江卓さんは、新たに「レストラン」を作る場所を探していました。

三浦市の名産品に、地元ならではの“景色”をかけあわせた「唯一無二の食体験」を作り上げることを目指しています。

三浦市役所市長室 室長 徳江卓さん 
「相模湾越しの富士山が見えるというロケーションの特徴を持っていますので、それらを組み合わせることで優位性が出るのではないか」

1年かけて選んだのは、相模湾が臨める場所。

ここにガラス張りのトレーラーハウスを設置。

海越しの富士山という絶景とともに、三浦市が誇る食材を使ったフルコースを食べてもらおうというのです。

メニューの考案を頼んだのは、東京の第一線で活躍する料理人です。

相模湾でとれた金目鯛(きんめだい)はジャガイモで包み、素揚げに。名産のサザエは時間をかけてだしをとり、スープにしました。

青木伸一郎 
さん

素材のままです。「素材を隠さないように」だけですね。

新井 徹さん

とにかく三浦の食材で、おいしいものを出す、それだけ。


先月(1月)、三浦市の招きで食通の外国人建築家や企業の幹部が訪れました。

天気は曇り。富士山は見えませんでしたが、ロケーションに対する反応は上々です。

 

美しい風景です。よく晴れて雲がない日には富士山が背景になって、すごく美しい風景になるでしょうね。ヨットがあればセーリングを楽しめるし、ファンタスティック!

そして、いよいよ試食会です。

今回のために考案された金目鯛(きんめだい)とジャガイモの包み揚げと、サザエのスープ。 
そして地元のとれたて野菜をふんだんに使ったサラダにも、最大級の賛辞が寄せられました。

 

料理は私がこれまで味わったものの中でもトップクラスでした。三浦市には可能性があると思います

一方で、意外な指摘もありました。

それは、「外国人に向けた料理は、和風で勝負をしたほうがいい」というもの。食材だけでなく、調理法も三浦の伝統や文化などの「三浦オリジナル」を大切にしてほしいというメッセージでした。

その指摘に、徳江さんたちは改めて「食の奥深さ」を感じたといいます。

三浦市役所市長室 室長 徳江卓さん 
「まず食材から入っていますけど、背景は全然掘り下げられてないです。食材1つ1つに必ずストーリーがあると思っていますので、そういったことをしていかなければツアーとして成立させるのは難しいという風には感じました」

身近にあるからこそ、意識できないことも多い地域の宝。専門家は、そうした宝を見いだすポイントは、「文化的なおいしさ」というキーワードにあると指摘します。

美食評論家・コラムニスト 中村孝則さん 
「例えば、ふきのとう。食べると苦みを感じますが、冬を土の中で過ごしてようやく春に芽吹くもので、昔から日本の山あいでは季節の象徴として食べられている、などの情報が加わると、その苦みも感じ方が大きく変わってきますよね。

食材がどう生まれたのか、どういう思いで食べられているのか、想像力を働かせて食べられるストーリーが『文化的なおいしさ』で、いま、需要が高まっています。それを伝えていくストーリーテラーが必要とされています」

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