首都圏情報ネタドリ!
- 2024年11月29日
バス価格高騰 学校に深刻な影響が 埼玉・川口 越谷 部活や校外学習…現場で何が?
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貸し切りバスの価格が、過去3年で3割上昇しています。
深刻な影響が出ているのが、教育現場です。
校外学習や部活動の遠征などでバスの確保に苦慮するケースも。
この問題に対して、教員たちが取り組んでいる苦肉の策とは…。
バスの価格高騰に揺れる現場を取材した「首都圏情報ネタドリ!」の配信はこちら↓
バス代節約のため始めた苦肉の策
貸し切りバスが高騰している背景や影響について、前編の記事でお伝えしました。
埼玉県川口市にある元郷南小学校。
校長の岩本好則さんは、校外学習に利用する貸し切りバスの値上がりに頭を悩ませています。
川口市立元郷南小学校 岩本好則校長
「去年と比べて1万円どころじゃなくて、バス1台単価で3万5千円くらい上がっています」
去年より移動の距離が伸びているものの、値上がり額は予想以上でした。
そこで、バス代を少しでも節約するために苦肉の策として考えたのが、バスガイドを依頼せず、教員たちにガイド役を担ってもらうことです。
今回ガイドさんいないから、各担任が案内しなくちゃいけない…
行きのときに簡単な歌やゲーム、バスレクなどをやって、帰りはちょっと疲れているから、市内見学の流れの車窓見学という予定です。
校外学習の当日。
移動中のバスの中では、教員がマイクを手に取り、車窓から見える景色について説明しました。
左側が社会科で勉強した、工場がいっぱいある新郷工業団地。白地図で調べたところ。
バスガイド代は削減できましたが、費用の総額は去年よりも増加しました。
今後の値上がり次第で、バスでの移動そのものを見直す必要に迫られています。
川口市立元郷南小学校 岩本好則校長
「子どもたちを一斉に目的地まで移動させるのに、観光バスは一番有効です。今後またこの割合のペースで、来年度もバス代が値上がりしていくとなると、本当に違う交通手段を真剣に考えざるを得ない」
部活動にも深刻な影響
さらに深刻な影響が出ているのが部活動の遠征です。
埼玉県にある、越谷市立大相模中学校のソフトテニス部。
県大会の出場を6日後に控えたこの日、顧問の教員は移動のバスを手配できずにいました。
11月7日は、中型バスは空いてないですかね。やっぱりキャンセルは普通出ないんですね。分かりました。
熊谷市にある大会の会場まで、電車では何度も乗り継ぎが必要です。
生徒たちの負担が増えることを心配していました。
ソフトテニス部顧問 佐久間悠輔さん
「テニス部の顧問は10年やっているんですけど、バスが手配できないのは初めてです。待ち続けるよりは、自分で探し続けようという感じですね。子どもたちが被害者になってしまうのは嫌なので、そうならないようにしたいと思います」
バスでの遠征を諦めた部活動もあります。
ほぼ毎週、県内外の学校に遠征してきた、野球部。
バスの値上がりにどう対応するか保護者と共に検討してきました。
その結果、保護者たちの車で手分けして生徒たちを送迎することにしたのです。
保護者たちの負担が増える上、チーム作りにも影響が出るのではないかと顧問の教員は懸念しています。
野球部顧問 安西裕哉さん
「去年、全国大会に行かせてもらったんですけれど、そのときはバスでの移動がたくさんあったので、試合の前の確認、終わった後の反省のミーティングができて、すごく大きかったなと。バスが利用できなくなってしまったというのは大きな痛手だったなと思っています」
バス価格高騰 改善策は…
貸し切りバスの価格高騰の最大の原因となっているのは、運転手不足です(詳しくは前編の記事へ)。
その解消に向けてバス会社も動き出しています。
観光バス100台を運行している大手バス会社で力を入れているのは、未経験者の採用と育成です。
この日、研修を受けていたのは、5月に入社した元ITエンジニアの男性。
会社では、未経験者に対し、入社から最低1か月間、育成担当者がマンツーマンで研修を行うことにしています。
はとバス 観光バス事業本部 中山実課長
「運転したいという方がいれば、どんどん夢をかなえていきます。一人前に育てる指導をしますので、安心して飛び込んでいただければ」
新人社員(40)
「ちょうど40歳になるタイミングでしたので、新たなことに挑戦するのがラストチャンスになるかなと思い転職しました」
会社では2年前からこの取り組みを始め、6名の未経験者が既に現場に出ています。
運転手不足解消のため、若いドライバーに、より高い給与を払おうという会社もあります。
2年前に貸し切りバス会社を設立した、生井正夫さんは、業界の慣例だった年功序列を廃止。
優秀な若手であれば、責任ある仕事を与え、相応の賃金を支払っています。
越谷レイクタウン観光バス 生井正夫代表取締役
「報酬に関しては、長い経験を積んだドライバーと差がないような給料体系にしております」
11月に大手の路線バス会社から転職してきた、バス運転手歴2年の女性です。
新人社員(24)
「両親がバスの運転をやっているので、私もやろうかなという感じですね。普通の乗用車じゃなくて、大きいのも乗りたいと思いました」
運転技術の高さが評価されたことで、女性の月給は前職よりおよそ10万円増加しました。
この会社は2年間で、7名だった運転手を22名に増やすことができたといいます。
バス事業部 細川義幸部長
「この会社の魅力は、まだ新しく若い会社で、いろんなことが決まりきっていない中、みんなでそういったものを作っていけることです」
生井正夫代表取締役
「全てのドライバーが100に近い力を発揮してもらえるような仕事の組み立てを、運行管理者に常に日頃から伝えています」
埼玉県川口市に営業所を持つバス会社では、子育て中の女性が働きやすい職場作りを模索しています。
3年前に入社した女性は、パートタイムのドライバーとして働き、仕事と家庭を両立しています。
両立が実現できている理由は、会社が受注した、学校の児童を登下校時に送迎する仕事にあります。
一日仕事のバスツアーと違って、業務が午前と午後に分かれているからです。
パートタイムの運転手(42)
「一度はバスの運転手を諦めようと思ったのですが、家事育児と両立できる、受け入れてくださる会社だったので選ばせていただきました」
会社では、子育てなどさまざまな理由で働く時間が限られている人たちを積極的に採用していきたいとしています。
新日本観光自動車 佐久間洋行代表取締役
「いろんな角度からチャレンジしていかないと人を集めるのに苦労していますので、少しでも人材を掘り起こして、人手不足の解消に努力しています」
価格高騰 3つの要因とは
貸し切りバス価格高騰の背景には、3つの要因があると、交通経済学に詳しい戸崎肇さんは指摘します。
1点目がコロナ禍によるバス会社の倒産や、運転手の離職。
2点目が時間外労働などの規制を強化した「2024年問題」です。
働き手の健康を守る上で大切な規制の見直しですが、運転手の勤務間を9時間空けることが義務付けられたため、長時間勤務になることが多いツアーバスは、影響が出やすいといいます。
そして3点目が運賃・料金制度の見直しです。
貸し切りバス業界は、2016年のスキーバス事故をきっかけに、安全コストを考慮し運賃の最低価格が決められてきました。
去年10月に、業界の低賃金問題を解決するため制度をさらに改正。
点検や点呼などを行う時間分も運賃に反映されるようになり、さらに運賃の最低価格が引き上げられました。
関東の場合、上がり幅は24%以上にのぼります。
教育現場でバスが利用しづらくなっている状況に対して、どのような対策が必要か聞きました。
桜美林大学 戸崎肇教授
「教育現場では、学校側や保護者が費用を負担するので、価格高騰に対応するのは簡単ではありません。今後も価格上昇は続く見込みで、教育現場でますます利用しづらくなるのではないかと懸念しています。
一方で、バス会社にとって学校などは安定した顧客で、教育現場でバスが利用されなくなると貸し切りバス業界としては不安定要因になります。両者にとって非常に厳しい現状となっています。
解決策として考えられるのが『教育現場への補助金』です。特に、通学や修学旅行などについては、実際に補助金を出している自治体もあり、広く検討されてもいいのではと考えています」
<前編を読む>
貸切バス大幅値上げの理由は 観光以外も意外な影響が
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