WEBリポート
- 2024年7月16日
水難事故 原因は?「飛び込み」に潜む危険 沈み込んだ先の“魔の時間”に何が・・・ 水中検証で迫る
- キーワード:

川や海に行く機会が増える夏。
少しでも早く暑さから逃れたいと、つい水に飛び込んでしまうこともあるかもしれません。
しかし、この「飛び込み」が原因で毎年、重大な水難事故が繰り返されています。
飛び込んだその先でいったい何が起こっているのか、潜む危険を取材しました。
(【潜水取材班】小野木翔太・竹岡直幸・高橋大輔
首都圏局/ディレクター 髙松夕梨子)
川は誰でも飛び込みたくなる誘惑が…

埼玉県長瀞町にある人気の川のスポット。実は過去15年間で3件、川への飛び込みによる死亡事故が起きています。
町の職員が遊泳や飛び込み禁止を訴える立て看板を設置するということで、私たちがその様子を取材に行くと、さっそく目にしたのは多くの観光客でした。
7月初旬のこの日は、県内の最高気温が35度を超える猛暑日。訪れた人たちは、水辺に涼を求めにきたといいます。
川で出会った40代の夫婦に、この場所で過去に水難事故が起きたことがあると伝えると…。
子育て中の40代夫婦
「子どもはこういう暑い日だと冷たい水にワーッと行ってしまいますよね。川に来るとき前もって安全について一緒に考えなければならないと思います」
長瀞町総務課 長谷部洋平さん
「こういった場所で溺れてしまって、水難事故ということが起きているので、水へ飛び込むのはもちろんやめてほしいです」
全国各地で発生している「飛び込み」による水難事故

飛び込みによる水の事故は、全国で後を絶ちません。
今年も、今月(7月)上旬には、神奈川県で、友人らと橋の上から川に飛び込み遊んでいた男性が亡くなる事故が起きています。
過去の事故では…
「友人らと滝つぼでとびこみをしていた高校生が溺れた」
「堤防から飛び込みをして遊んでいた男性が事故」
「同級生らと河岸の岩場から飛び込みをしていた小学生が溺れた」
去年、栃木県の川で起きた事故では、消防にこんな通報が。
『友人が川に飛び込んだあと、浮かび上がってこない』
近くの川底で沈んでいるのを発見された男子大学生。その後死亡が確認されました。
飛び込んだ先の水の中でいったい何が…?

なぜこうした事故がなくならないのか。
飛び込んだ先の水の中で、いったい何が起きているのか、飛び込みによって起こりうる危険を、水難事故の調査研究を行ってきた専門家とともにプールを使って検証を行いました。


1メートルくらいの高さでも、飛び込み方によってはものすごく深く潜ってしまいます。
特に飛び込むときの息のため方で沈み方が大きく変わります。
<検証(1)>
まずは、大きく息を吸い込んだ状態で、どれくらい沈み込むのか。高さ1メートルの飛び板からプールへと飛び込んでみます。
浮上するまでにかかった時間は5秒。
全身が水没したものの、比較的早く水面に顔を出すことができました。

カメラマン
しっかり肺も膨らんでいるので、呼吸も安定感がありました。
<検証(2)>
次に、大きな声を出しながら飛び込んでみます。
すると…
声を出さなかった時と比べると、より深くまで潜ってしまい、深さ3.8メートルのプールの底に足が着いてしまいました。
また、高さのないプールサイドから声を出して飛び込んでみても、同じようにプールの底に足が着いてしまいました。

声を出すことで、肺の空気が失われて、体が沈みやすくなってしまいます。
さらに、飛び込んだあと、水面に顔が出るまでの時間をはかってみると…。
なんと、13秒。5秒で浮き上がったときに比べて、水面に上がるまでの時間が長くかかりました。

川の中だとしたら、かなりパニックになるでしょう。ずっと水面に浮上できないのではないかという、恐怖心も出てくると思います。
『早く呼吸をしたい』と気持ちが焦ってしまうと、水面に上がり切る前に、呼吸をしてしまって、水を飲んでしまうということにもなりかねない。13秒とはそれくらいの時間です。
今回はプールで、底があったため、足を着くことができましたが、もしこれが5メートル、10メートルと、深くなってしまうと、さらに下まで沈むことになり、事故につながるリスクがさらに高まります。
浅いと思っていたら…錯覚が引き起こす思い込み
さらに、水中には「飛び込みたい」と思わせる思わぬ罠(わな)があるといいます。
私たちが斎藤さんと訪れた川は、過去に事故があった現場です。


水が透明で、向こうまで見える。しかも一見すると浅く見える。こうなると「よし、これは行ける」となってしまいます。しかも手前も浅く見えるので、そんなに深くないだろうと思い込んで、飛び込んでしまうんです。
実際より浅く見えるとはどういうことなのか。
プールでも浅く見える現象が起こるというので、検証してみました。

こちらのプール、奥に向かって水深が浅くなっているように見えますが…。
実は深さ3.8メートルでずっと同じです。屈折率の関係で、遠くほど浅いと錯覚してしまうのです。
この錯覚が川でも、「飛び込んでも大丈夫」という思い込みにつながるのです。
水難学会 斎藤秀俊さん
「水を通してみたときに、下にあるものが浮いて上がってくるように見える。例えば、5メートルくらいの水深があっても、1メートル50とか、2メートルくらいの水深に見えてしまう。
プールでも川でも何でも、とにかく飛び込まない。まずは、ゆっくりと足から入水をして深さを確認するということをいつも心がけていただければと思います」
取材後記
「このくらいなら大丈夫だろう」水辺ではこの油断が大きな事故につながることが、今回の検証でわかりました。
専門家は、水辺で飛び込みをする人の多くが、川辺でバーベキュー中にお酒を飲んで気分が高まったり、友達どうしで度胸試しをしたりと、気の持ち方で防げるはずなのに、無くならないのが現状だとしています。
気の緩みや過信で水に飛び込み、大惨事になってしまわないように、どこにどんな危険が潜んでいるのか、まずは知ることからはじめてみてはいかがでしょうか。
水辺での取材の経験が多い、わたしたち潜水班も、改めて水の怖さを知った取材となりました。みなさんも川や海などに行く際は、いまいちど安全について家族や友人と話し合ってみてください。
潜水取材班では、水の中に潜む危険を可視化し検証する取材を続けています。
関連記事もあわせてご覧ください。
水難事故はなぜ繰り返される?子どもが溺れる「川」に潜む危険とは
水難事故 気がつけば沖に・・・ 海に潜む危険「離岸流」の実態に迫る
水難事故は街なかの“身近な川”でも…構造物点在ゆえの隠れた危険とは
