愛媛県総合科学博物館 学芸課長は“学びを楽しむ” 達人だった!
- 2024年10月28日
今回ご紹介する久松洋二(ひさまつ・ようじ)さんは、愛媛県総合科学博物館(新居浜市)で「学芸課長」を務めています。
愛媛県総合科学博物館は、ことし(2024年)11月に30周年を迎えますが、開館の半年後に同施設に入った久松さんの学芸員歴は、博物館の歩みとほぼ同じ、およそ30年にわたります。
久松さんは、科学分野などのエキスパートとして活躍してきましたが、そのモットーは「学びを楽しむ」こと。誰もが楽しみながら学べる展示会を心がけてきた久松さんを取材しました。
(NHK松山放送局 田中寛人)
特集の内容はNHKプラスで配信中の10月28日(月)放送「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。
愛媛県新居浜市にある愛媛県総合科学博物館には、これまで全国各地から615万人が訪れています(2024年9月現在)。子どもたちに科学に親しんでもらいたいと、愛媛初の総合科学博物館として30年前の1994年11月11日に開館しました。
愛媛の伝統産業の歴史なども幅広く展示されています。
ひときわ人気の高い展示は「動く恐竜」です。
よりリアルな動きになるよう改良を続けています。
(あまりの迫力に赤ちゃんが泣き出してしまうことも・・・)
学芸課長の久松洋二さんは、博物館の展示を中心になって企画してきました。
博物館にはおよそ30年にわたって勤めていて、2年前からは学芸課長の重責を担っています。
久松さんが20年前に手掛けた展示は、今も現役です。
20年前のものが、いまの令和の子どもたちも遊んでいますね!
そうですね。最後まで立たせられる。見ててよ。思いっきり回すと立つのよ。回ると重い物が上に持ち上がる性質がある。そうすると立ち上がる。
理論的には大学生が学ぶことだけど、実際、目の前でそれが起きているからわかりますね。
細かい理論が分からなくても頭の中でこんな感じかなとは伝わるはずです。それを楽しんでもらえたらうれしいです。
久松さんは大阪の出身です。
子どもの頃から自分が作ったものを友達に見せるのが大好きでした。
進学した大学院での専門分野は物理。
学芸員になる道を模索していたところ、新たな博物館が愛媛にできるという千載一遇のチャンスを手にします。
念願の学芸員になった久松さんですが、オリジナルの企画展を開くまでにはおよそ4年を費やすなど、苦労の連続でした。当時のノートを見せてもらいました。
これ、一部分ですか?全体のどのくらいですか?
1割もないくらい。昔は図面を全部手描きでしたが、パソコンで描けるようになったり・・・。
昔は、図面は手描きだったんですか?
手描きですね。
専門が物理なだけに、久松さんのノートには、計算式がびっしり書かれていました。
四六時中、頭で計算するのが好きで。すぐ割り算をしてアベレージを出して、この作業に、あと何分かけたら、これ全部終わるかとか計算したり。
すごい。(計算式書くなんて)ガリレオだ!
(壁に計算式を書くようなことは)もうやらないですけどね。
もう?!
大学の時は、みんなそういう世界なので・・・。
ドラマの演出かと思ったら、ああいうのは普通なんですか?
普通です!
(驚く私との温度差に、撮影スタッフも大笑いでした)
企画展の準備には、長いものだと数年はかかります。
ところが、久松さんは、ほぼ1年に1回のペースで独自の企画展を実現させてきました。
中でも名物は、手塩にかけた手作り装置です。
それは、鉄のボールが8の字に動き続ける装置です。
行ったり来たりさせるのが難しい。
苦労しました?これにたどり着くのに?
苦労しました。いつも防じんマスクして、ずっと削って。削ってはテストして。削りすぎたところを埋めたり。いろいろやりながら作りました。
ミリ単位で削って調整。
完成までに、なんと半年を費やしました。
この装置、実は・・・
もともとは水素がどうやって作られているかを直感的に感じてもらえたらいいなと(作った装置だけど)むしろそれよりも、ボールを使う展示なんですが、ボールの動きが面白いなと感じて(子どもたちが)楽しんでくれました(苦笑)
装置は話題を呼び、愛媛だけにとどまらず、全国巡回展にもなりました。
全国で22万人以上が触れた、久松さん史上最大のヒット展示になりました。
展示を企画する際には、その分野で珍しい物に遭遇することが出来るそうで、放送ではご紹介出来なかった「レアもの」も見せてくれました。
まずは、家電製品の歴史を紹介する展示会を企画したときに集めた珍品です。
半世紀ほど前、街の喫茶店に置いてあったというゲーム付きの机、いわゆるインベーダーゲーム」です。懐かしい人も多いんじゃないでしょうか。まだ現役で動きます。
さらにビデオデッキ。
半世紀近く前のもので、当時、愛媛県西条市の工場で作られたものです。
地元の方から寄贈されました。
VHSやベータが登場する前のビデオテープを入れるデッキで、当時は相当高価なものでした。
大切に扱われていて、今もまだ動くという逸品です。
ちなみに、こうした懐かしい家電を紹介する展示会をなぜ企画しようと思ったのかも伺いました。
博物館としての役割は、過去から未来まで地域の文化資産を後世に残すという使命があります。その役割についてはこれからも変わらないと考えています。それと、家電製品は技術だけじゃなくて人の生活に入っていますので、人の心とつながっているんですよね。技術と人の心というものをつなぐというのが皆さんの気持ちを揺さぶったりする効果がありますので、そういうものをみんなで共有したいと思って企画展をやりました。
企画展では、懐かしい家電を前に、例えば親子3代で、会話が盛り上がることもあったそうです。
さらにゲーム機ではこんなことも感じたそうです。
今の子どもたちが楽しんでいるゲームよりはるかに操作は単純ですが、昔のゲーム機特有のクセみたいなものがあって、子どもたちも思うように操作できなかったり、逆にお父さんがかっこよく操作したり。それでまた会話も弾んで。さらに今プログラミングを学んでいる子たちなら当時ゲームを開発していた人がたどった道と違うルートを作るかもしれないし、もっとすごいものを作ってくる人たちも出てくるはずですし、何かきっかけになるんじゃないかなと思いますね。
久松さんの展示には、自分もやってみたい、やれそうだというきっかけの扉を、いつも開いている感じがありますね?
今ならいろいろ調べることはできるけれど、じゃあ本物を見たことないとか、知ってはいるけれど体験したことはないとか。人それぞれ記憶に残るものがあると思うんですよ。当館のいろんな展示物が地域の皆さんの記憶に残って、それを自分の子どもや孫に伝えていきたいと思ってもらえたら嬉しいですね。
急速に時代が変化していく中、科学博物館の役割は何か。
愛媛県総合科学博物館では、未来をテーマにした特別展が始まっています。
展示しているのは研究者とデザイナーがコラボして生み出した作品たち。
最先端技術を駆使して作られ、西日本で初めてお披露目されています。
その1つ、蒸気で変形する布です。
ドームなんですが、ドームの形に作られているんじゃなくて、もともとは1枚の布なんです。これにスチームを当てると布の一部分が縮んで、折り紙を折るように、こうしたドームに変わるんです!
すごい。これは服ですよね。これは縫ったりしていない?
ほぼ1枚の布から上着が誕生しています。
もしかしたら、これからの未来は、私たちの着るものは、すべて縫うんじゃなくて、スチームを当てて、こういう形にする?
そうなるかもしれない。そんな未来が来るかもしれませんね。
これからの服は全部スチームを当てるだけ?
そんな未来もくるかも!
新感覚の素材は実際に触われるものもあります。
触っていただいたら固いんですよ。
すごい。これ感触としては、プラスチックくらい固いものなんですが、動くんですよ。簡単に変形しちゃう。
気持ちいいですよ。やってみてください。
え、なんですか?これ?全然力入れなくてもキューッと・・・
やわらかく、形付けたんですね。構造の面白さですね。構造の発明ですね。
久松さんの願いは、最先端の技術が、自由な発想と結びつき、新たな未来につながることです。
けさも小学生が触って、これ作ってみたいと(言ってくれて)ぜひ作ってほしいですね。でもすぐには作れないかもしれないけれど、どうやったら作れるだろうか、これなら作れるかもとか、どんどんどんどん積み重ねていったら、いつの間にか、これよりもっとすごいものを作れる日が来るかもしれない。
すぐには世の中の役に立たないかもしれないけれど、いつか、何かの形で(役に立つかたちに)なるかもしれないですね?
また次の人にバトンタッチして、次の人のアイデアが入ることによって、また次の姿が生まれて、気付けば、それが誰かの役に立つとか、何かの命を救うかもしれないし。科学というのは身の回りのいろんな場所に、いろんな種が落ちているものなんですね。これが楽しいと思うことをずっと好きでいて欲しい。そうすると、ある日いろんなアイデアや何かが降ってきて、さらに発展したことを思いついたりということにつながるんじゃないかと思いますね。
現在行われている開館30周年記念特別展「未来を作る」は、ことし(2024年)12月1日まで行われます。ぜひ、創造性ある作品に触れて、多くの子どもたちの可能性の扉を開いてほしいと感じました。
NHKプラス配信終了後は下の動画でご覧ください。