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100万キロ走った車は車検を通るのか partⅣ

  • 2024年9月19日

総走行距離が100万キロを超えた車が四国、そして全国各地を走り続けている。エンジンの交換などトラブルを乗り越え走行距離を伸ばし続けているが、ことし7月、車検の日がやってきた。何年も走り続けてきた愛車といえど、車検に合格しなければ乗り続けることができない。果たして車検を無事通すことができたのか。

(NHK松山放送局 宇和島支局 山下文子)

特集の内容はNHKプラスでご覧いただけます。

画像をクリックすると見逃し配信が見られます!9/25(水) 午後6:59 まで

100万キロの車

車のオーナーは、香川県高松市在住の鉄道カメラマン、坪内政美さん(50)だ。愛車は、平成9年製の日産セドリック。幼い頃から刑事ドラマをこよなく愛する坪内さんは、スーツ姿でこのネイビーブルーのセダンに乗って17年、全国各地の鉄道写真を撮り続けている。

まるで愛馬のごとく、どんな場所でもどんな時間でも、この車で撮影現場へ赴く。毛布とパソコンをバックシートに乗せた車は、時には宿に、時にはオフィスになることも。坪内さんがこの車に乗り続けるのは、乗り物酔いをするから、だけでないのだ。

その愛車は、去年1月、総走行距離を示すオドメーターが99万9999キロになった。

▼100万キロ達成時の記事はこちら

100万キロに変わるその瞬間。メーターは動かない。明らかに100万キロを超えているにも関わらず、メーターはそれ以上を表示することはなく、999999のまま止まった。

▼100万キロ達成後、トラブルに見舞われる記事はこちら

新たな出会い

今回、車検を任せたのも、この車を通じて出会ったディーラーだった。

去年11月、鉄道の取材で訪れた愛媛県鬼北町で車が動かなくなった。尋常でない量のオイルが漏れていた。対応できる業者が見つからず、ようやく連絡を取れたのが松山市にあるディーラーだった。

レッカーで運ばれたディーラーではひときわ熱心に車を見つめる人がいた。工場長の大下孝次さん(48)だ。大下さんも少年時代、刑事ドラマに夢中になった1人。坪内さんの100万キロ達成をニュースで見て知っていたという。

大下さん(左)と坪内さん(右)

「同じにおいがした」と話す大下さん。大下さんの愛車は、昭和58年製の日産スカイライン。2台の車が2人を引き合わせたのだ。

車を愛する気持ちに同感しただけでなく、自身の父親も同じセドリックに乗っていることで坪内さんと意気投合した。

そして、大下さんの父親の義朗さん(75)もまた100万キロを走ったセドリックとの出会いを果たした。

運転席に座り【999999】のメーターを見た義朗さん。「ものすごい数字ですよね、これ」と思わずつぶやいていた。

そのあと、3台並んで愛媛の海岸線を走り抜ける光景は、刑事ドラマのエンディングさながらだった。

▼3人の出会いについての記事はこちら

車検の日

車が走り続けるために避けては通れない車検。ことし7月、100万キロを超えて初めての車検を迎えることに。99万9999キロ以上をカウントできなくなったオドメーターの代わりに、坪内さんは1000キロまでカウントできるトリップメーターで走行距離を帳簿に記録していた。

このときの総走行距離は110万6373キロ。しかし、車検ではどうしても乗り越えなければならない壁にぶち当たっていた。

ディーラーの大下さんはこう指摘する。

大下さん
「メーターが動かない状態で走行しているというのは、どうしても法律上許されないんです。車検というので今回は交換というのを選択を坪内さんにしていただくしかない」

「つらい別れ」

なんと、100万キロを走破した証でもあるオドメーターを交換しなければならないというのだ。坪内さんにとってつらすぎる別れが差し迫っていた。

坪内さん

「唯一(100万キロ走破の)証明ができる数字だったので、ここだけは残したかったんですけどね、つらいです」

製造から27年経過した車種だけにメーターを交換しようにも新品はない。中古品に付け替えるしかない。実は坪内さん、こんな日が来ることに備えてちょうど10万キロほどのメーターを見つけていた。しかし、それもでまだ未練が残る様子だったが、作業が始まった。そして、整備士がメーターを取り外し、坪内さんに手渡した。

坪内さん

「できたらね、そのまま残して欲しかったんだけど、車検に通らないと言われりゃね。(元のメーターの)重みを感じますね、重みを・・・」

坪内さんは、少しさみしげな表情でメーターの写真をカメラに収めた。そしてメーターを自宅に持ち帰りたいと望んだ。電源をつなげば「999999」の数字はそのまま表示されるという。
自宅でそんな機会はそうないかもしれない。それでも坪内さんは静かに箱の中にメーターをしまいこみ、愛おしそうに抱えていた。

「200万キロ」を目指して

そんな坪内さんを見て、ディーラーから、「メーター交換記念証明書」が贈られた。大下さんとディーラーの店長がオーナーの思いを汲んでの演出である。

『メーターと泣く泣くお別れを決意し、交換されたことを記載させていただくとともに記念書をお渡しさせていただきます』と書かれていた。

藤岡店長

「今回の車検を機に、ぜひ200万キロを目指して安全運転でがんばってください」

100万キロの車は、かくしてメーターをはじめとするおよそ40点の部品交換などを終え、無事車検に合格した。車にかける愛情は、さらに磨きがかかったようだ。

大下さん

「車検の方に関しては問題はありません。これからの付き合い方としてちょこちょこ壊れていくところはあると思いますが、そこはうまく付き合っていってもらって。これからもメンテナンスはお任せください」

坪内さん

「安心して任せられる。私もそうですし、車も安心してるんじゃないですかね。これでまた長くお付き合いできそうな気がします」

2年後の車検は、果たして何万キロで迎えることになるのだろう。坪内さんと愛車のさらなるドラマにこれからも目が離せないと私自身、この取材を続ける覚悟を決めている。

NHKプラス配信後は下記にてご覧いただけます。

  • 山下文子

    山下文子

    2012年から宇和島支局を拠点として地域取材に奔走する日々。 鉄道のみならず、車やバイク、昭和生まれの乗り物に夢中。 実は覆面レスラーをこよなく愛す。

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