「違法漫画サイト」を摘発せよ!密着“デジタルGメン”
今月14日、巨大海賊版サイト「漫画BANK」を運営する人物が中国で摘発されたことが明らかになりました。日本人向けのサイト運営者が海外で摘発されたのは初めてのこと。この大捕物の裏には著作権団体を中心に結成された「デジタルGメン」の存在がありました。有名作品が次々と掲載され、被害額は去年1年で少なくとも1兆円とされる海賊版サイト。番組ではGメンの追跡調査に半年間密着。海賊版サイトとの知られざる闘いに迫りました。
出演者
- 中島 博之さん (弁護士)
- 桑子 真帆 (キャスター)
※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
「違法漫画サイト」摘発! 密着"デジタルGメン"
桑子 真帆キャスター:
1兆19億円。これは去年1年間、海賊版サイトで漫画がタダ読みされた金額です。正規の販売額を超え、漫画文化が危機に陥っています。
海賊版サイトの被害といいますと、2019年、3年前の「漫画村」事件を記憶されている人も多いのではないでしょうか。これまでは漫画村のように、日本国内の運営者が日本人に向けて漫画を公開する形が主流となっていました。運営者というのは、日本の警察によって摘発されていました。
しかし今、アジアなど海外が発信源とみられるサイトが急増しています。海外から日本人に向けて運営する形というのが主流になり、日本の警察による捜査は難しく、野放しの状態になっているのが現状です。
この状況を打破したいと立ち上がったのが、「デジタルGメン」です。先週明らかになった「漫画BANK」摘発の立て役者になりました。日本人向けの海賊版サイトの運営者が海外で摘発されるのは、史上初めてのことです。摘発に至る舞台裏に密着しました。
違法漫画サイト 摘発までの半年間に迫る
取材を始めたのは去年11月。都内のオフィスビルの一角で、海賊版サイトとの攻防が繰り広げられていました。
著作権団体「CODA(コンテンツ海外流通促進機構)」の最前線の現場に、カメラが入りました。
「海賊版サイトで、侵害コンテンツが上がってないかチェックする作業をしています。24時間365日、全員で監視しています」
20人いる職員は法律やITのスペシャリストたち。これまでに数多くの海賊版サイトの摘発に関わってきました。
そのGメンたちが宿敵とするのが海賊版サイト「漫画BANK」。6万点以上の漫画が違法に掲載され、無料で読み放題の状態になっていました。
読みたい作品のタイトルを打ち込むと…。
「鬼滅の刃が読めるページが、検索結果として表示される状況です。コミックも、その時まで出ているものはすべて出ていますし、"週刊少年ジャンプ"で掲載されているものも全部のページが、すべてのページが見られます」
総アクセスは10億近く。この「漫画BANK」だけで2,000億円以上がタダ読みされた計算になります。
「海賊版サイトもアクセスを稼ぐために、あらゆる知恵とノウハウを蓄積してきますから、新たにすぐアップデートしてくる」
Gメンは「漫画BANK」の運営者を突き止めようとしました。足がかりにしたのは「「漫画BANK」がデータを保管する通信会社。運営者の住所、名前などの情報を開示するよう求めたのです。著作権侵害を認めた裁判所は命令を下し、去年12月に回答が得られました。
「中国、重慶に契約者がいる。番地も電話番号も登録されていた」
「ありがとうございます」
「早めに(中国政府の)文化部と連絡して、ちょっと相談に行ってみたいと思っています」
中国の当局をいかに動かすか。掲載された漫画作品を一つ一つ記録し、被害を受けた証拠を突きつけました。
「ハンター×ハンターですとか、幽遊白書ですとか、僕のヒーローアカデミアとか。本当にこれ一部なんですけれども、改めて見たんですけどすごい数ですね。こういった被害があったということで、客観的な証拠のひとつではあると思う」
さらに現地当局に直接働きかけるため、中国の弁護士を雇いました。
「これはワンピースですね。尾田栄一郎の作品です。掲載されていた箇所を翻訳しました。そうすれば、中国の司法部門で、証拠として認められる」
そして、ことし3月。地道な取り組みの結果、中国の行政当局によって運営者への事情聴取が行われました。しかし…。
「運営者が警戒し、サイトが閉鎖されました。本人が持つパソコンのデータなど、証拠も消された可能性が高いです」
事情聴取を受けたその日、運営者はサイトを完全に消去。中国の行政当局はデータを保存しておらず、証拠は消えてしまいました。残されたのは、日本側が事前に収集した資料のみ。現地当局がみずから証拠を得られない以上、摘発できない可能性が出てきたのです。
「海外から出された証拠なので、中国当局が使うには難しさがある。当局も(調査を進めるべきか)疑問視している」
「なかなか厳しいかもしれないね、時間かかるもんね」
中国当局の事情聴取から3か月後、事態が動きます。Gメンのもとを訪ねると。
「一応処分結果が出たということで、きのうアップされたらしいんですけども」
当局のホームページに「運営者を処罰した」という情報が掲載されたのです。収集した資料から最終的には違法性が認められ、摘発に踏み切ったとGメンは考えています。しかし、処罰の内容は十分に納得がいくものではありませんでした。違法収益とされるおよそ30万円の没収と、60万円の罰金が科されたのみ。被害の実態とはかけ離れていました。
「新たに調査が進められない以上、さらなる罰をあたえることは考えにくい」
「漫画BANK」の運営者はいったい何者なのか。私たちは日本から3,000キロ離れた中国西部の都市、重慶を訪ねました。居住地とされる場所は意外なことに、市街地から遠く離れた山あいの農村でした。
「xxxx(運営者の名前)といいます。年齢はそれほど上じゃないです。30歳くらいです」
「名前を聞いたことがありません。若い人たちは、ほとんど出稼ぎに行っている」
聞き込みを続けていると。
「こんにちは。xxxx(運営者の名前)という人は知っていますか?」
「ああ、彼の家はこの近くですよ」
「え?」
「この近く。ネット関係の仕事をしててよ、一晩中」
住民からの情報をもとに、自宅にたどりつくことができました。そして。
「こんにちは。xxxx(運営者の名前)ですか?」
「そうです」
「突然来て、すみません。私は北京から来ました」
「何の用ですか?」
その人物は、小学生の子を持つ30代の男性でした。
どのように日本人向けの海賊版サイトを運営したのか。
「サイトはすべて1人でやったのですか?」
「そうですよ」
「私は協力者がいるのかと思いました」
「違います」
「お金を、もうけたのでは?」
「ほとんど、もうけはありません。私はそんなにお金を持っていません」
始めたきっかけについては、次のように語りました。
「当時は漫画村というサイトがありました。それが潰れたのです。そのあと一部の日本のユーザーが『避難先を作ってください。漫画を見られる手段がないのです』と言っていました」
そして「これ以上追及されることはない」と言い放ちました。
「あなたたちは状況が分かってますか?彼ら(日本人)が、どのように調べているのか。サイトはもう閉鎖しているので、彼らは追及しようがないのです。彼らは私をどうすることもできないのです」
巨大サイト「漫画BANK」。億単位ともされる収益は、どこに消えたのか。Gメンたちが着目したのが、「広告収入の流れ」です。「漫画BANK」にアクセスした際に掲載される「ネット広告」は、表示回数に応じて広告収入が発生します。広告代理店に情報の開示を求めれば、資金の流れが追えるのではないかと考えたのです。
手がかりは、サイトの設計図に当たるソースコードにありました。
「xxxx(企業の名前)からの広告が掲載されていることが分かります」
「漫画BANK」に広告を配信していたのは、ヨーロッパのIT企業。IT企業のホームページには、目を疑うような内容が記載されていました。
「"漫画がビッグビジネスになります"と紹介するもので、どういった人が漫画のサイトを見る傾向があるかとか、年齢ですとかそういったところの情報を掲載して、まさに海賊版サイトの運用を推奨しているようにも見えます」
さまざまな作品を取りそろえる漫画サイトに広告を掲載すれば、巨額の収益を生むとうたっていました。
私たちはGメンに断ったうえで、IT企業に直接取材することにしました。事前に質問項目を送り、電話をかけると…。
「(電話を)切られた感がありますけど。途中で切られている感じに聞こえます」
「警戒されてるんですかね」
取材の直後、ホームページが削除されました。今に至るまで企業からの回答はありません。
残された"謎"とは
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、Gメンの中心メンバーで弁護士の中島博之さん、そして取材に当たった田畑記者です。よろしくお願いいたします。
まず中島さんにお伺いしますが、今回の「漫画BANK」の摘発は、「海外から日本人に向けての海賊版サイトの摘発」としては初めてだということで、どのように評価されていますか。
中島 博之さん (弁護士)
"デジタルGメン" 専門は知的財産法
中島さん:
日本向けの海賊版サイトが国外で初めて摘発されたので、非常に画期的なことだと思います。この背景には、中国における著作権保護意識の高まりなどがあるのではないかと思います。
桑子:
ただ、今回の処罰が没収およそ30万円、罰金およそ60万円。軽すぎるのではと思うのですが。
中島さん:
被害金額に比べて確かに安いという思いはあります。一方で、出版社のリリースにもあるように、現在民事訴訟を含めたあらゆる対応が検討されておりますので、これだけで終わりではないということです。
桑子:
運営者に対しては、まだまだ法的措置というのが検討されているわけですね。
中島さん:
はい、そうです。
桑子:
なるほど。ただ、まだまだ分からないことがあるということで、田畑さん、現在どこまで分かっているのでしょうか。
田畑 佑典 (NHK記者)
社会部
田畑:
今回「漫画BANK」自体は完全に閉鎖されたということになるので、被害の拡大は止められたということになります。一方で残された謎については、アクセス数などからサイト全体で億単位の広告収入を得ていたと見られていますが、資金の流れの詳細が分からないままになっています。そして、今回運営者は日本語が全く分からないとしていたのですが、「漫画BANK」は明らかに日本人向けのサイトになりますので、ほかに関与した人物や協力者がいないのか、疑問が残る状態になっています。
桑子:
残された謎をどう解明していくのかですが、中島さんは今後どんな対応を考えていらっしゃるのでしょうか。
中島さん:
「漫画BANK」に広告を出稿していたヨーロッパの会社に対して、情報開示命令を取得することを検討しております。
桑子:
協力者がいたのかどうかですが、明らかに日本語が話せないと作れないサイトのような気もします。
中島さん:
運営者が日本語が話せないとなると、あと1人協力者はいるはずですし、情報開示命令によって送金記録などが出てくれば、共犯者の有無、広告収益の全容というものが解明できる可能性はあると思います。
桑子:
まだまだ残された謎が多いわけですが、今回史上初の摘発にこぎつけたGメン。今、その監視をかいくぐる巧妙な海賊サイトも現れています。
日本から監視できない!? 追跡!違法漫画サイト
増殖し続ける海賊版サイトに対応するGメン。あるサイトにアクセスしようとしますが…。
「"This site is closed"ということで、閉鎖しましたと書いてあります。"よい1日を"と」
一見閉鎖しているように見えるサイト。しかし、特殊な方法で海外を経由すると、英語に翻訳された無数の漫画が表示されました。
「さっきは全く表示されてなかったですけど」
「閉鎖を装って、まだ続けてる。よく調査しなかったら、見逃してしまった可能性もある」
日本など、特定の地域からのアクセスを遮断する「ジオ・ブロッキング」という手法。日本の漫画を外国語に翻訳し、外国人に向けて運営することで監視の目を逃れながら収益を上げることができます。こうした外国人向けサイトは800以上あり今、海賊版サイトの8割を占めています。
「よりうまく巧妙に見つからないようにやろうと。もともと海賊版をやる時点で犯罪者なんですけれども、よりさらに悪質」
どう対処していくのか。Gメンたちは、あるIT企業と共同戦線を張ることにしました。ネット技術のスペシャリストで、ホワイトハッカーを抱える企業。ターゲットは、日本からのアクセスを遮断していた海賊版サイト。その運営者の特定です。
ホワイトハッカーたちの経歴は意外なものでした。
「ぶっちゃけ僕は、この会社に入る前、一般的な表現で言うと"ひきこもり"。ずっと家にこもってゲームしてた」
「"2ちゃんねる"に入り浸っていた時期がありまして」
ネットやゲームに没頭していたひきこもりの人などもスカウトし、ホワイトハッカーとして養成しているのです。
当初、サイト上には運営者につながる痕跡は見つかりませんでした。そこで、特殊なソフトを駆使し、調査を始めたハッカー。
「xxxx(サイト名)と打ちまして、探索とかしてくれる」
同じ発信元が、複数の海賊版サイトを運営していたことが分かりました。
「泥臭く、こつこつ何かをチェックする、調べる。そういった部分では、やっぱりたけてる方なのかなと」
数か月に及んだ調査。そして。
「もしかしたら、この数字ってフェイスブックのユーザーIDかもって。当てはめていくと、この時にもう勝利を確信しましたね。出たぞと」
運営者のものとみられるSNSの情報を発見。べトナム人と判明しました。さらに、平均月収の4倍にもなる高級腕時計を購入し、盛大なパーティーを開催していたことも突きとめました。多額の収入を得ていたことを示す、有力な証拠になる可能性があるといいます。
「誇らしいというか、正義のためにちょっとでも役に立ってるんだったら、すごいうれしい。やるからには、もう徹底的にやりたいと。これをいかして、ちょっとでもそういうのがなくなるように」
日本の"文化" 守るためには
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
日本の漫画が世界中でタダで読まれていて、日本からはアクセスを遮断されていて監視すらできない状況なわけです。理不尽きわまりないわけですが、中島さんは漫画を描かれている立場でもあるわけで、どういうふうに感じていらっしゃいますか。
中島さん:
私も漫画原作者として「弁護士・亜蘭陸法は漫画家になりたい」という漫画を週刊連載しております。その中で、漫画家の先生の執筆の苦しみというのを間近で見ていますので、大変な思いをして作られた作品が犯罪者によってコピーされ、お金もうけの道具に使われているということはあってはならないと思います。
桑子:
漫画を描こうと思ったきっかけというか、背景にも思いがあるようですね。
中島さん:
著作権者になれば代理人としてではなく、こういった海賊版サイトと本人として闘えるという思いで、漫画を描こうというきっかけになりました。
桑子:
この実態について、大手出版社は次のように指摘しています。
「注視している4つの英語版サイトだけでも、月におよそ4億のアクセスがある。これまでと桁違いで非常に深刻な状態だ」
また、「闇金ウシジマくん」などで知られる漫画家の真鍋昌平さんは、
「『取材・話を考える・絵を描く』、自分のすべてを漫画制作にささげている。海賊版サイトが広がれば、お金が入らず執筆を続けられない漫画家も出る。利用者は『犯罪に加担している』意識を持ってほしい」
と話していました。
中島さん、漫画は日本が世界に誇るコンテンツで、この産業を守るために今後どう闘っていこうと考えていますか。
中島さん:
もはや日本国内だけの取り締まりでは完結しないので、国際連携が重要になってくると思います。
桑子:
実際に動きはあるのでしょうか。
中島さん:
例として、ことし4月にCODAが設立した「国際海賊版対策機構」というものがあります。
桑子:
そういう機構が立ち上がっているわけですね。あと、私たち「読む側」ですが、やはり「タダで読みたい」という欲求が海賊版サイトを支えてしまっている構図になっているわけですよね。これを解消するために、業界としてできることはどういうことだと思いますか。
中島さん:
ビジネスなので、すべてを無料にすることはできないのですが、すでに出版社の漫画アプリや電子書店では無料キャンペーンや無料で漫画が読めるといった施策が行われています。
桑子:
大手の正規のルートで無料で読めるサービスというのがあるわけですね。
中島さん:
そうですね。こういった正規のサービスをうまく使って漫画を読んでいただき、おもしろかったら著作権者に課金をして還元していただく、こういったビジネスの在り方が重要だと思います。
桑子:
最後に今、どういうことをいちばん訴えたいですか。
中島さん:
軽い気持ちで海賊版サイトを見てしまうと、何の創作の苦労もしていない犯罪者に広告収益が入ってしまい、著作権侵害を助長することになりかねません。絶対に海賊版サイトは利用しないようにお願いしたいと思います。
桑子:
ありがとうございます。大好きな漫画の作者を、自分の行為で苦しめている、悲しませることにつながってはいないだろうか、そんな視点が必要なのかもしれません。
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