「雪辱を晴らす」という言い方は?
2008.05.01
先日、北京オリンピックへの出場が決まった選手について「○○選手には北京で雪辱を晴らしてほしい」という言い方を耳にしました。「雪辱を晴らす」は誤った表現ではないでしょうか。
「雪辱を晴らす」は、「雪辱を果たす」と「屈辱を晴らす」の混用と思われます。このような場合には「雪辱を果たしてほしい」などと言うべきです。
解説
「雪辱」とは「辱(はじ)を雪(すす)ぐこと」で、「試合・勝負などで前に負けた(辱めを受けた)相手に勝ち、前に受けた恥をそそぐ(除きさる)」という意味です。この語を用いた「雪辱を晴らす」という言い方は、「雪辱」の「雪」(「雪ぐ」すすぐ・そそぐ)が、「晴」(「晴らす」はらす)と意味が重なります。これは、同じ意味の語を重ねて使う重言(じゅうげん)つまり重複表現にあたります。この言い方は「雪辱を果たす」と「屈辱を晴らす」の混同から生じた誤用とみられます。ご指摘の場合には、「雪辱を果たす(~を果たしてほしい)」「雪辱する(~してほしい)「屈辱を晴らす(~を晴らしてほしい)」などと言うべきでしょう。
また、同じような「~を晴らす」の誤用で「汚名を晴らす」という言い方も近年よく見聞きします。この言い方は相当広がっているようですが、「屈辱を晴らす」「恨みを晴らす」「ぬれぎぬ(疑い)を晴らす」と混同して用いたものとみられます。NHKも加盟している日本新聞協会の『新聞用語集 2007年版』や通信社の『用字用語集』でも「雪辱を晴らす」と並んで「汚名を晴らす」も「誤りやすい慣用語句」の1つにあげられています。『新聞用語集』は、「汚名を晴らす」の本来の正しい用法として→「汚名をすすぐ・そそぐ」を示しています。
このほか、この欄で以前にも取りあげましたが、×「汚名挽回・汚名回復」は「名誉挽回」などとの混用です。「汚名」は「不名誉な評判」「悪評」であり、「挽回」は「元の状態に引き戻すこと」、「回復」は「元どおりによくなること」です。このため、「汚名挽回」「汚名回復」という言い方は矛盾しています。正しくは○「汚名返上」「汚名をすすぐ(そそぐ)」「名誉挽回」「名誉回復」です。
なお、「雪辱」の語例として国語辞書には「雪辱する」「雪辱を果たす」のほか「~を遂げる」「~を期す」「~戦」が示されています。