最新記事

科学

性的欲望をかきたてるものは人によってこんなに違う

2017年5月2日(火)11時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

 インターネットを使えば、ガーゲンの実験より、はるかに大規模な実験が可能となる。インターネットの世界は、ガーゲンの実験の小部屋にそっくりなのだ。素性のわからない何億もの匿名の人たちが巨大な暗い部屋に入っている。インターネットの世界なら、性的欲望を抑える必要もない。そんな世界で、人々はいったい何をやっているのだろうか?

 ピーター・モーリー=スーターは10代のころ、マンガ作りを楽しんだ。そのころの新聞連載マンガ『カルビンとホッブス』の影響を受けたのだ。このマンガは、いたずら好きな6歳の男の子カルビンと、トラのぬいぐるみのホッブスが巻き起こす日々の騒動を描いたもので、家族で楽しめるマンガとして人気を博していた。ピーターが、自分に起きたできごとをもとにしてマンガのストーリーを考え、妹のローズがそれを絵にした。彼らの創作マンガの読者は、主にピーターの友人たちだったが、ピーターがウェブサイトに作品を投稿したこともあった。今では、ピーターはイギリスで、中等学校の教師になるための勉強をしている。マンガ作りは10代のうちにやめてしまった。もう作品のほとんどを思い出すこともできないが、ひとつだけ頭に残っている作品がある。

 2003年、彼がまだシャイな16歳の少年だったころ、友人がカルビンとホッブスを描いたパロディマンガをメールで送ってきた。そのマンガでは、カルビンとホッブスがカルビンの母親と激しいセックスをしていた。ピーターは、「ものすごいショックを受けた」と言う。

 彼はこう述懐する。「ネット上に、セックスの絵がいくらでもあるのは知っていました。でもカルビンとホッブスですよ。まいりましたね」。ピーターは、友人への返信用に一コママンガを描くことにした。そのときの気持ちをこう語っている。「カルビンとホッブスまでポルノになるのなら、もうどんなものだってポルノになると思いました」

 ピーターが描いた一コママンガは、パソコン画面の前でショックを受け、顔をゆがめている彼自身を絵にしたものだ。黒一色の線画なので、いかにも素人の作品という感じで、それほど印象の強い絵ではない。しかしピーターがマンガにつけたキャプションは、当時の時代精神にぴったりはまり、人々の心をつかんだ。彼はこんなキャプションをつけた。「インターネットルール34 どんなものでもポルノになる」

 ピーターは、一コママンガを画像共有サイトに投稿した。サイトに載ったマンガの絵はすぐに流れてしまったが、キャプションのほうはネット上でまたたく間に広まった。ピーターの言葉は、ネット上のコミュニティからコミュニティへと伝播しながら修正され、次のような表現で知られるようになった。「ルール34 人が頭に描けるものすべてに対して、オンラインポルノが存在する」。今では「ルール34」は、崇拝すべき名言として、たくさんのブログやユーチューブの動画、ツイッターのつぶやき、ソーシャルネットワーキングサイト(SNS)に掲載されている。「ルール34」という言葉が動詞として使われることも多い。「『アメリカンアイドル』の審査員席にいるポーラ・アブドゥルとサイモン・コーウェルをルール34しちまったぜ」と言えば、話が通じるのだ。人気ブログ「Boing Boing」が、「ルール34チャレンジ」と称して、たとえばブリトニー・スピアーズを犯すベートーベンといった奇抜なカップルのポルノを、ネット上で見つける早さを競うコンテストを主催したこともあった。

【参考記事】ロシアのポルノ閲覧禁止にユーザー猛抗議

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ECB、緩和サイクル終了し「余地」残すべき=ラトビ

ワールド

公明、消費減税公約化せず 軽減税率「深掘りは必要」

ワールド

米軍が今夏に東アジアで兵站訓練、危機対応巡り同盟相

ビジネス

ムーディーズ、日産の格付けをBa2に引き下げ 見通
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 3
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪んだ認知
  • 4
    壁に「巨大な穴」が...ペットカメラが記録した「犯行…
  • 5
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 6
    女性が愛馬に「後輩ペット」を紹介...亀を見た馬の「…
  • 7
    韓国新大統領にイ・ジェミョンが就任 初日の執務室で…
  • 8
    脳内スイッチを入れる「ドーパミン習慣」とは?...「…
  • 9
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 10
    ガザに向かうグレタ・トゥーンベリの支援船から救難…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 7
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 8
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 9
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 10
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中