スピリチュアリズムの先駆者「フォックス姉妹」

伝説

1848年3月、アメリカ・ニューヨーク州ハイズビルにあるフォックス家で、夜中に「コツ、コツ」と不気味なラップ音が鳴り響いた。

当初は音の原因がわからず一家は数週間眠れぬ夜を過ごしていた。そんな中、3月31日の夜、この家に住んでいたマーガレッタ(当時8歳)とケイト(当時6歳)の姉妹は謎のラップ音との交信を試みた。(年齢については諸説ある)

フォックス姉妹

フォックス姉妹。左からマーガレッタ、ケイト、リア。
出典:Barbara Weisberg『Talking to the Dead』(Harper San Francisco)

ケイトが「オバケさん、私のするとおりにやってごらん」と言って手をたたくと、ラップ音はそれにすぐ応えた。今度はマーガレッタが「ちがうわよ、私のするとおりにしてちょうだい」と言って、手を鳴らしながら数をかぞえると、ラップ音はそれにならった。

交信は続く。今度は母親が「Yesなら二つ鳴らすように」と言ったあと、「音を立てているのは人間ですか?」と質問した。しかし答えはない。「霊ですか?」 二つのラップ音。「殺された人の霊なら二つ鳴らしなさい」。 大きなラップ音が二つ。

質問はその後も続き、音の主である霊は31歳の頃にこの家で殺され、地下室に埋められたことがわかった。

後にはアルファベットも綴れるようになり(アルファベットを読み上げ、正しいところでラップ音を鳴らすという方法)、霊の名前は「チャールズ・B・ロズマ」で当時は行商人だったことも判明した。

名前については、ほかに「チャールズ・ロズナ」、「チャールズ・ハインズ」「チャールズ・ライアン」など諸説ある。

この話は姉妹の死後、1904年にフォックス家の自宅が崩れた際に行われた調査で、人の骨と行商人が使うブリキの箱が発見されたことにより、事実あることが確認された。

また著名な科学者による調査も行われ、物理学者のウィリアム・クルックス卿は「完全に客観的な出来事であり、トリックや機械などによって作り出されているものではない」「才能の点で彼女たちに迫る者はいない」と太鼓判を押している。(以下、謎解きに続く)

謎解き

フォックス姉妹は1848年の霊との交信のあと、長女のリアが加わり、彼女の指導のもとでアメリカ全土やヨーロッパを回るツアーを開催している。各地では霊との交信を希望する人たちの間で大人気を博したという。

リアと次女のマーガレッタとは23歳も年が離れていた。各地での交霊会やツアーを企画していたのは年長者のリアで、入場料を取って商売として成立させたのも彼女。
 
交霊会は大ブームを巻き起こし、1854年には1万人以上の霊媒師と、300万人以上の支持者を生み出す。1859年にはアメリカで関連する500の書籍、30の雑誌が流通していたという。

現在でもスピリチュアリズムを支持する人たちの間で、その人気は高い。スピリチュアリズムの先駆者にフォックス姉妹を位置づける人もいる。

生家の石碑

姉妹の生家に建つ石碑。近代スピリチュアリズムの生誕地だと記してある。
出典:アーサー・C・クラーク『超常現象の謎を解く PART1』(飯倉書房)

しかしそうした人気の高さとは裏腹に、フォックス姉妹には影の部分もつきまとう。彼女たちは後年、自らが行ってきたトリックの告白を行っているからだ。

イカサマの告白

最初の告白は、1888年9月24日付けの『ニューヨーク・ヘラルド』紙上で行われた。この日の記事には前日のマーガレッタのインタビューが掲載されている。以下はその一部。

スピリチュアリズムを最初に始めたとき、ケイトと私は小さな子どもでした。そして年を取っていた長女が、私たちを彼女の道具にしたのです。母は愚かで狂信的な人でした。なぜ彼女のことをそう言うかというと、彼女が正直であのことを信じていたからです。姉は私たちを見世物にして、収入は独り占めにしていました。

さらにマーガレッタによれば、「自分たちが作りだしたものはすべて完全にインチキ」だったという。それを証明するために、彼女は記者の前で様々に反響するラップ音を足の関節を使って再現してみせた。

この関節を使って音を出すやり方は、若い頃から練習を始めて出来るようになることだという。

マーガレッタによる秘密の告白は、大きな波紋を起こした。10月になると、イギリスに滞在していたケイトがアメリカに帰国。彼女は当初、マーガレッタの告白を知らなかったが、詳細を知らされると賛意を示した。

『ニューヨーク・ヘラルド』紙にはケイトのインタビュー記事が掲載された。その一部を以下に引用する。

私はスピリチュアリズムについて何も気にかけていません。(中略)スピリチュアリズムは最初から最後までインチキです。今世紀最大のインチキです。(中略)それでもマギーと私はスピリチュアリズムの創始者なのです。

この、「創始者として自分たちが作ってきたものをすべてブチ壊す告白」は、多くの支持者にとって聞きたくない話だったかもしれない。けれども姉妹の告白はこれで終わらなかった。

1888年10月21日には、マーガレッタが『ニューヨーク・ワールド』紙に署名入りの告白文を送った。この告白文には、姉妹が長年行ってきたイカサマについて詳しく書かれている。

以下は、同紙に掲載された告白文の一部である。

交霊会と称する情けない詐欺行為の真実を皆さんにお知らせしたかったのです。今や世界中に広まった「交霊会」ですが、止めなければ、どんな悪事に利用されるかわかりません。これを誕生させてしまった人間として、私には内情を暴く権利と責任があると思います。

妹のケイトと私は、当時年端もいかない子供でした。私は8歳で妹は私より一歳半年下でしたが、生来私たちは大変ないたずらっこでしたから、母をびっくりさせてやろうといろいろな方法を二人で考えていました。母は大変お人よしでしたので、ちょっとしたことにもびっくりするのです。

私たちは、夜、ベッドに入るときリンゴにひもを結びつけておき、ひもを引いてリンゴを床にぶつけて音を出したり、リンゴを床に落として反動で弾む音を出したりしました。母はしばらくこの音を気に病んでいました。音の原因はわからないし、まさか小さな私たちがそんなイタズラをしているとは考えなかったのです。

そのうち母はたまりかねて、近所の人たちを呼んで相談しました。これがきっかけで私たちはラップ音を出す遊びを思いついたのです。

あまりに多くの人が家にやってきたので、リンゴを使うことが難しくなりました。リンゴの音は私たちがベッドに入っていて、部屋が暗いときしか出せません。それも、いつもできるわけではありません。仕方なく、ベッドの支柱を手で叩いて音を出したりしていました。

指を素早く動かし、握りこぶしと関節を使って音を出す方法を発見したのはケイトです。足の指でも同じことができます。これができるようになってからは、足で音を出していました。最初は片足だけ使っていたのですが、そのうち両足を使うようになりました。私たちは、暗い部屋でなら見つからずにできるようになるまで、音の出し方を練習しました。

私がこの度の暴露に踏み切ったのは、カトリック教会の勧告によるものではありません。私自身の決断によるものです。心霊術は一種のマジックです。ただし、上達するには並々ならぬ努力が必要です。私が多くの人たちに害悪を及ぼしたほどの腕を磨くためには、幼いときからの練習を続けることが必要だったのです。

このインチキを最初に考えだし、最も大きな成功を収めた私の告白によって、これ以上、心霊術者の増加を食い止められることを確信します。私の告白文は、心霊術なるものはすべて詐術であり、偽善であり、妄想以外の何物でもないことを証明するものだと信じるものです。

この告白文には、書いてあることを証明するために、同日の夜、ニューヨーク音楽アカデミーにてトリックの実演会が行われることが書き添えてあった。

実演会には2000人もの人たちが集まり、中には同業者の霊媒師も数多く交じっていたという。こうした中、マーガレッタは有言実行すべく、会場につめかけた観客の前でトリックを実演してみせた。

ニューヨークの新聞は、そのときの様子を次のように報じている。

「マーガレッタは、靴を脱いで右足をテーブルの上にのせた。場内はシーンと静まり返った。間もなく鋭いラップ音が数回聞こえた。それは過去40年間、アメリカとヨーロッパで数十万人を驚かし、惑わした神秘な音に違いなかった。

次いで聴衆の中から、二人の医師が選ばれてステージに上がった。マーガレッタが音を出している間、その足を調べた。そして『その音はまさしく、彼女の大きな足指の第一関節の働きで出るものである』と証言した」

「彼女はまったく動かないままでも大きくハッキリとしたラップ音を響かせた。今、舞台の奥からかと思えば、今度は天井からといった具合に」

この間、ケイトは実演会の会場に用意された席に座り、うなずいて賛意を示していたという。

しかしフォックス姉妹にとっては、この告白はある種の賭けだったのかもしれない。霊媒師としての生業を捨てることになれば、今度は別の手段で生活の糧を得なければならないからだ。

姉妹は他の都市でもトリックの実演会を行ったものの、思うように人は集まらなかったという。マジシャンのジョン・マルホランドは当時の人々について次のように述べている。

インチキには喜んで金を出す人々が、教育を受けるためには財布のひもをゆるめないのだ。

結局、生活に困窮していったフォックス姉妹は、一年半後に再び霊媒に戻ってしまう。『ニューヨーク・ワールド』紙の告白文も撤回したため、今日ではフォックス姉妹を支持する人たちの間では姉妹の告白はすべて嘘だったと受け止められている。

しかし本当にそうなのだろうか。姉妹の話は実演会によって裏付けが取れていることを忘れてはならない。さすがに全部が嘘だと再度ひっくり返すのは無茶だと思われる。

そもそも姉妹がトリックを使っていたであろうことは、彼女たちが告白する以前からずっと指摘されていたことでもあった。

指摘されていたトリック

フォックス姉妹については何度も実験が行われている。以下にいくつか挙げてみよう。

1850年2月、『ニューヨーク・イクセルシアー』紙が、ラップ音はフォックス姉妹の足の下か、彼女たちの足が接触しているものからしか出ないという記事を掲載。
1850年、『ニューヨーク・トリビューン』紙「ラップ音は足の関節で起こせる」という記事を掲載し、同年12月にはニューヨーク州ロチェスターのホールで、足の関節でラップ音を再現してみせるということを実際に行っている。
1851年2月、バッファロー大学の3人の医師たちがマーガレッタとリアのラップ音を調査。「意志の力による関節の動きによって出されている」という結論を報告。
1857年、『ボストン・クーリエ』紙がマーガレッタの霊能力を調べるために実験を開催。新聞社が考えた質問をあらかじめマーガレッタに知らせず、その場で答えてもらうというものだった。結果は正しい答えを出せず、マーガレッタは賞金の500ドルを手にすることことができなかった。
1884年、ペンシルバニア大学のセイバート委員会によって2度のセッションが行われ、判定員がマーガレッタの足を固定すると、ラップ音は突然やんだ。

この他にも、フォックス姉妹は手の指でもラップ音を鳴らすことができたこと、壁や床から音が鳴っているようにするため、反響を利用していた可能性が高いことなども指摘されている。

またインチキを行っていたことについては、次のような話も出ている。

1851年、フォックス家の親戚のノーマン・カルヴァーが『ニューヨーク・ヘラルド』紙に、「姉妹が自分たちの膝と足先でラップ音を出す方法を実演してくれた」と暴露。
マーガレッタは、探検家で夫のエリシャ・ケーンに秘密を告白していた。「彼は最初から、ラップ音は私が練習したインチキであったことを知っていました」「彼に秘密の全部を打ち明けました」と語っている。
ケーンはこの秘密の告白を受け、マーガレッタを更生させようとした。フィラデルフィアの学校で教育を受けられるようにし、「もうこれ以上、決して悪いことはしないでくれ」と手紙を書いている。
他の手紙では、「マギー、この気の重い相変わらずのインチキの繰り返しで、よく飽きないものだね……」。さらにこう諭している。「もう『霊』は避けたほうがいい。こんな悪とインチキに関わっている君のことを考えると、私は堪えがたい思いだ」

さらに姉妹のトリックとは別に、彼女たちの支持者たちによって行われたとみられるトリックも指摘されている。

1904年にフォックス家の壁の奥から人骨と行商人が使うブリキの箱が現れたという話である。これは、アメリカ心霊研究協会(ASPR)のジェイムズ・ハーヴェイ・ハイスロップが現場で調査をしており、イタズラであったと1909年に報告している。

それでも残る逸話に支えられる伝説

このようにフォックス姉妹については、彼女たちの告白以外にも、影となる部分はずっと指摘されていた。一方で姉妹を支持する人たちは現在も世界中におり、いまだに説明不可能だとする逸話も伝えられている。

たとえば、「ラップ音が始まった初期の頃、母親と姉妹が家を出たあとでも家の中から音が聞こえた」、「ラップ音は数キロ離れた場所でも聞こえた」、「ラップ音は時に家を揺らすほどの振動を起こした」などの逸話である。

こういった逸話については私も調べてみたものの、結局、確かなことはわからなかった。本当にそうしたことが起きたのか、実験をしたり、実演してみせてもらうことができない現在となっては、残念ながら逸話を証明する手段もない。

ただ言えるのは、フォックス姉妹はこうした逸話に支えられ、今日でもスピリチュアリズムの歴史の中では、伝説の霊媒として語り継がれているということだ。

10代の頃のフォックス姉妹

人気絶頂だった10代の頃のフォックス姉妹(筆者が購入した写真)

【参考資料】

  • コリン・ウィルソン『コリン・ウィルソンの来世体験』(三笠書房)
  • ジョー・ニッケル『ニッケル博士の心霊現象謎解き講座』(太田出版)
  • アーサー・C・クラーク『超常現象の謎を解く PART1』(飯倉書房)
  • リチャード・ワイズマン『超常現象の科学』(文藝春秋)
  • ローズマリ・エレン・グィリー『妖怪と精霊の事典』(青土社)
  • イヴォンヌ・カステラン『心霊主義』(白水社)
  • 坂本種芳、坂本圭史『超能力現象のカラクリ』(東京堂出版)
  • 田中千代松『新・心霊科学事典』(潮文社)
  • 平田元吉『近代心霊学』(日本心霊学会)
  • Barbara Weisberg『Talking to the Dead』(Harper San Francisco)
  • Reuben Briggs Davenport『The Death-Blow to Spiritualism Being the True Story of the Fox Sisters』(G. W. Dilhngham, New York)
  • Paul Kurtz『A Skeptic’s Handbook of Parapsychology』(Prometheus Books)
  • Arthur S. Berger & Joyce Berger『The Encyclopedia of Parapsychology and Psychical Research』(Pragon House)
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