セブンイレブン、脱・鈴木敏文の井阪&永松体制で〝ユルい職場〟にシフト――1人あたりチェーン全店売上は10年も横ばい、本部営業利益は14%減
「ここ数年は、残業を月20時間までに収めよ、という指示が本部から出ています」(元社員) |
強権的で中央集権型のトップダウン経営に特徴があったセブンイレブンジャパン。ユニクロ・ニデック・オープンハウス等と同じ軍隊系カルチャーに属する代表企業であるが、創業者がまだ現役なこれら3社との違いは、実質的な創業者として38年にわたり同社を独裁的に統治してきた鈴木敏文CEOが退任したことだ。ホワイト化を進めた井阪隆一体制で、1人あたり売上高は4%減り、同営業利益は14%下がるなど、過去10年で労働生産性が下がってしまった。ベテラン管理職からは批判の声も挙がっているという。
- Digest
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- 『ブラック企業大賞』体質からの脱却へ動く
- ①会議体のリモート化
- 1週間の流れ
- 火水木で会議と訪問、金~月がフリー
- ②日報を廃止、15分の「週報」に
- ③残業時間削減「月20時間に収めよ」
- ④代休買取の廃止、有休消化促進
- 欧州「労働=罰」、日本「休暇=罪」
- ⑤加盟店の最終利益もKPIに組み入れ
- 鈴木時代と真逆の「値引き」施策「エコだ値」
過去10年の変化。8年前に井阪体制となって以降も、「OFC1人あたり7店担当」を維持した結果、社員1人あたり生産性は総じて落ち(営業利益はマイナス14%)、いまだ中長期的な将来像は示されていない。店舗の社員数は直営店を半分未満に削減したことにともない減少したが、本部と地区事務所に所属する社員数が膨張、スリム化は進まず。 |
鈴木時代は「有休をとっているOFCなんて見たことがない」「土日のどちらか出勤して代休を買取るのが当り前」。だが、「気合と根性」重視で「24時間働けますか」な昭和の世界観は、この10年で、かなり薄まった。
井阪CEO&永松社長は、「商品畑+人事畑」の体制で、どちらも加盟店オペレーションの経験は浅いだけに、改革に踏み込みやすかったのかもしれない。
「井阪CEOは商品部出身で、社内では『過去にセブンプレミアムを作った人』として知られ、商品力はあるとされています。でも、オペレーションをわかっていなくて、鈴木さんに比べ、オーナーからの人気がありません。永松社長は人事畑出身で、井阪CEOとは1980年の同期入社組です」(元社員、以下同)
『ブラック企業大賞』体質からの脱却へ動く
2015年11月に民間主催の『ブラック企業大賞』を受賞したセブンイレブン。オーナーへの違法な締め付け(値下げ販売の妨害)や、厳しいノルマを背景とした社員の自爆営業などが理由だった。鈴木CEOが退任を表明したのは、その半年後の2016年4月。鈴木氏は、井阪隆一社長を力不足だとして退任させる人事案を出したが、創業家(伊藤家)や社外取締役らの反対にあって通らず、鈴木体制は不信任を突き付けられた。
鈴木氏をもって「(自分は)後継者を育成できなかった」「井阪氏が作り出した新しいものはない」と言わしめた井阪氏が2代目CEOに就任。38年ぶりの〝政権交代〟で覇権を握った井阪氏が進めたのは、鈴木〝独裁ブラック〟体制の変革だった。カリスマ創業者だからこそ現場がブラックな労働環境についていく面もあり、井阪氏にその代わりは務まらない。中東『アラブの春』では、独裁者が倒れた後、混乱や内戦に陥った国も多く(リビア、イエメン等)、独裁体制はトップが天才ならば効率がよいのは確かである。
3年後(2019年)に社長に就任した同期の永松文彦氏とともに、「井阪CEO-永松社長」体制下でリベラルな労働環境へのシフトを進めたが、社員1人あたりチェーン全店売上額は10年間でわずか4%増と横ばい。本部の1人あたり営業利益額は同14%も下がった。生産性が上がらなければ、給料も上がらない(→『コンビニ世界一企業』の割に安い給料)。明るい将来像を描けず、株式市場からの評価も上がらなかった結果、カナダ「クシュタール」に買収提案される事態に陥っている。
覇権を握った井阪隆一CEOは、脱・鈴木敏文の社内改革として、労働環境の緩和を進めた。主なものは、①会議体のリモート化、②日報の廃止、③残業時間削減、④代休買取の廃止、有休消化促進、⑤加盟店の最終利益も人事評価のKPIに組み入れ、などである。
井阪・永松の2トップ体制が続く |
その結果、以前に比べれば、合理的で、タイパ・コスパを重視した労働環境へと変貌を遂げた。
「ほとんどのOFCは、日中、車のなかで寝ていたり、映画を見ていたり、という余裕が出てきました。オーナーからの商品発注さえ順調に受けていれば問題ないですから。鈴木時代に比べれば、ラクになったと思います」
①会議体のリモート化
鈴木時代のOFC会議は四谷に物理的に全員集合(12年前の公式サイトより) |
セブンイレブンといえば、東京・四谷にある本部の1階ホールで、全国各地から2千人規模のOFCを集めて隔週火曜に1日がかりで行っていた「FC会議」が有名。中央集権的でトップダウンの企業カルチャーを象徴するイベントだった。鈴木敏文CEOの講話から始まり、トップダウンの施策が打ち出され、より細分化された集団で行われる午後の「ゾーン会議」や「DOミーティング」では、ノルマ未達者が吊し上げられた。
年間で数十億円規模とされる出張経費と膨大な移動時間をかけてでも、フェイスツーフェイスでのコミュニケーションこそ重要、との鈴木イズムで、創業時から続いていた。これが井阪体制になって、すっかり骨抜きされたという。
井阪体制でリモート化したFC会議(公式サイトより)。かつては四谷に全国から集まっていた。 |
「鈴木時代は、前に立たされて詰められていたのに、今ではずいぶんユルくなりました。FC会議とゾーン会議がリモートになって、対面でやるのはDOミーティングだけ。午前中のFC会議は、発信される情報を聞いているだけなので、車の中でPCを開いて、横になって聞いていたり、寝ていてもOKです」
以前のような緊張感はなくなった。移動時間を減らすタイパ重視、出張経費を減らすコスパ重視。いかにもZ世代にウケがよさそうである。
一方で、鈴木時代のスパルタ軍隊式で育ったベテランにとっては、拍子抜けしそうだ。
「ベテラン管理職は、『こういうこと(リモート会議のこと)になったから、売上が上がらないんだ!』と批判的に見ています。一方で20代の社員たちは、『そもそも、この会議自体も無駄なんじゃないですか』
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同じリーダー職の明細(12年前)。この「職責給」は、事業場外みなし労働時間制によるもので、労働時間にかかわらず一律支給だった。これが「定額働かせ放題」ということで、固定時間外勤務手当へと衣替えした。
このハンドスキャンでOFCの労務管理も行う
現在の給与構成。井阪改革で「固定時間外勤務手当」が約23時間分、文字通り定額で支給され、超えた分は別途支給となった。
欧州で成立しないからこそ、インバウンド観光資源になっている日本のコンビニ。富士山と一緒に写るローソンも観光地になって話題に(FNN)
2024年5月から本部主導での「エコだ値」シール開始。値引きを妨害して公取から排除措置命令を受けたのが15年前。パターナルな統制経済だった鈴木体制からの変化を物語る、実にリベラルな施策である。
「開いててよかった」→「近くて便利」→2023年~「明日の笑顔を共に創る」
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