トップ DX事例一覧 機械学習のトップ会議の一つ「ICML」で論文が採択。その舞台裏や想いをインタビュー。 機械学習のトップ会議の一つ「ICML」で論文が採択。その舞台裏や想いをインタビュー。 左から井口 亮(みずほ第一フィナンシャルテクノロジー)、皆川 直人(みずほ銀行)、加藤 真大(みずほ第一フィナンシャルテクノロジー)、池田 祐樹(みずほ銀行) OVERVIEW 2024年6月、みずほ第一フィナンシャルテクノロジー(以下「FT」)に所属する加藤真大らを著者とした因果推論と実験計画に関する論文が「International Conference on Machine Learning 2024(以下「ICML」)」で口頭発表として採択されました。 ICMLは機械学習分野において国際的に権威が認められているトップ会議の一つであり、論文採択は〈みずほ〉の今後の発展に向けた大きな成果です。今回、この論文の筆頭著書である加藤と、上司の井口、研究のきっかけを生み出したみずほ銀行の皆川と池田の4名にインタビューを実施。論文採択の舞台裏や未来への展望を聞きました。 INDEX 狭き門を潜り抜けての論文採択。そのアイデアはどのようにして生まれたか。 理論を知るからこそ、突破力がある。みずほ銀行との協働。 論文採択によって拡がる、金融サービスやソリューションの新たな可能性。 テクノロジーの更なる発展で、お客さまや社会の課題に向き合う。 狭き門を潜り抜けての論文採択。そのアイデアはどのようにして生まれたか。 テクノロジーの進歩で産業構造が大きく変化する中、お客さまや社会に貢献し続けるためにはテクノロジー分野、特にAIやデータアナリティクス領域でのR&D(Research and Development:研究開発)に取り組むことが重要です。 〈みずほ〉でもグループの垣根を超えて様々な取り組みが進められており、2024年6月にはFTに所属する加藤真大、大賀晃弘、小松原航、井口亮を著者とする因果推論と実験計画に関する論文「Active Adaptive Experimental Design for Treatment Effect Estimation with Covariate Choice」が、機械学習分野のトップカンファレンスの一つである「ICML 2024」において、口頭発表として採択されました。 口頭発表できるのは限られた論文のみで、本論文は9,473本の応募の中から144本という狭き門を潜り抜けてその機会を獲得。企業単体で国際会議での論文採択という快挙は金融業界でも例を見ないものですが、この結果はどのようにして得られたのか、筆頭著者である加藤と上司の井口、執筆のきっかけを提供したみずほ銀行の皆川、池田にインタビューを実施しました。 理論を知るからこそ、突破力がある。マーケティングにおけるみずほ銀行との協働。 ─論文着想は、皆川さん・池田さんからの問い合わせがきっかけとなったそうですが、その経緯を教えてください。 皆川:我々デジタルマーケティング部では、これまでも「顧客利便性の徹底追及」を行うべくデジタルマーケティングの高度化に取り組んできました。お客さま一人ひとりに最適なコンテンツを最適なタイミングや方法でご案内するといった「お金のプロとしてのやさしさ」をデジタルマーケティングで実現するにあたって、マーケティング施策の真の効果の測定等の重要性を感じるようになっていました。 池田:そこで、医療や経済学の領域で長年にわたって研究されてきた「因果推論」に着目しました。「因果推論」とは、あるアクションの真の効果を測定することです。様々なマーケティング施策の成果を定量的に推計したうえで、効果があったものを続けていき、効果が出なかったものを改善するというサイクルを習慣づけ、再現性のあるマーケティングを行い続けることをめざしました。 その前段として実際のデータをもとにケーススタディを行ったのですが、実際やってみると論点が山のように出てきて、これらについて以前から業務でアドバイスをいただいていた加藤さん、井口さんとディスカッションを重ねる中で、今回の論文のアイデアが生まれたんです。論文を活用して、コストのかかるキャンペーン等の効果を精度良く検証するのに必要なサンプルサイズを最小化でき、同じ予算、同じ時間内でより効果的な施策を生み出せるようになると考えています。 ─今回の協働において、お互いの印象や印象に残っているエピソードがあれば教えてください。 池田:加藤さんとやり取りさせていただく中で、社会的に貢献したいとか、経済を盛り上げたいというようなホリスティックな観点で物事を見られている人だと感じました。マーケティング業界全体で「因果推論」が注目されていますが、業界で盛り上がっている派手な手法に対して、加藤さんが机上の空論でなく「本当に実務に役立つのか?」という観点で冷静にご覧になっている点が特に印象的で、理論を知るからこそ質実剛健にして、かつ突破力があるのだなと思いました。 加藤:私も、池田さんや皆川さんがテクニカルな所に鋭く質問いただく一方で分からないことに関してもしっかり聞いてくださり、コミュニケーションの取りやすさにとても助かっています。確かな技術に基づく議論を続けられたことで、学術的にも正しい手法で実課題に即した研究開発を行うことができていると感じています。 皆川:加藤さんはグローバルでもトップレベルのリサーチ能力もさることながら、日本経済や社会に貢献することや、ビジネス上でインパクトのあることを達成したい、人の役に立ちたいという想いを内に秘めてお仕事をされているという印象があります。そういう想いがあるからこそコンスタントにパフォーマンスを発揮できるんじゃないかと思いました。 加藤:会社を経営する親の姿を見てきたので、経済問題に意識を持つようになったこともありますし、小さい頃から色々な人に助けられてきたのでそれを世に還元したいという気持ちもあります。中国の古典に「知識は人に使われて初めて意味を持つ」といった意味のものがありますが、そういう想いを会社が買ってくださって、知識を使っていただいているのはとてもうれしいことです。 論文採択で拡がる、金融サービスやソリューションの新たな可能性。 ─続いて、加藤さんと上司の井口さんにお話を伺います。まずは、論文採択に対する率直な感想を聞かせてください。 加藤:技術的にはシンプルなのでそのような高評価をいただけたことは驚きでした。近年では、競争が激しく、論文の内容がより複雑になる傾向がありますが、そのような状況下で高く評価されたことについては、背景として本研究が現場のデータサイエンティストの疑問から始まったことで実務的な課題にしっかり答えていること、さらに社内に向けて説明するために図表をしっかり作りこんだことによって論文の趣旨が明快に査読者に伝わったこと等が影響しているように思います。 井口:実務者と相互にリスペクトを持った上でコミュニケーションをとって、現場の課題に向き合う真摯な姿勢が新しい問題設定とその解法を導いたのだと思います。研究者は自分独自の世界を確立している人が多く、外部とのコラボレーションが難しいことも多々ありますが、加藤さんが持つ金融への情熱と、相手が誰であろうと常に敬意を持ち相手の考えに耳を傾ける姿勢があってこそ達成できたものだと思います。 ─FTでの働き方や今回の論文執筆の協力体制について教えてください。 井口:FTの雰囲気は、大学の研究室のようだと感じています。集中するスペースもあって、皆それぞれの研究に向き合っているけれど、時には後ろを向いて雑談をしたり、専門的なことを立ち話したり等、聞きたいことがあれば誰でも手を止めて聞いてくれるような雰囲気があります。 加藤:井口さんがおっしゃるように、それぞれの専門性を尊重しつつ協力し合って良いものを見出していく環境があって、社内の協力的でポジティブな雰囲気も今回の成果の一因になっていると思います。そもそもこの研究もFTとみずほ銀行のデータ分析の高度化をめざす議論から始まっていますし、より良い技術をグループ一丸で培おうとする意識が共有されていると感じます。経営陣をはじめとした経験豊富な先輩たちが応援してくださるのも大きいですね。 ─どんな人がFTで働くのに向いていると思いますか? 井口:知的好奇心や探求心を常に持っていることがまず重要ですが、自分だけでは思い付かないアイデアやきっかけを生み出す意味では、周りの人たちが考えていることを理解しようとする姿勢も大切だと思います。金融は社会・経済と深く結びついているため、「個人の生活をより良くしたい」「日本の地方や産業をより強くしたい」「世界的な共通課題にチャレンジしたい」等、社会に対してインパクトを与えたいという情熱のある人が向いていると思います。 テクノロジーの更なる発展で、お客さまや社会の課題に向き合う。 ─今回のICMLにおける論文採択は、〈みずほ〉グループにどのような影響をもたらすと考えますか? 皆川:海外から見た今の日本はどこか元気がない印象を持っています。そんな中、加藤さんがグローバルでもトップティアーの人々の集まりで日本のプレゼンスを示すことができているのが純粋に素晴らしいと思いますし、挑戦する勇気をもらえます。今回のようなビジネスとリサーチの「ともに挑む。ともに実る。」を絶やさずに継続することで、「データ分析やAI活用は面白い」「ビジネスに活用したい」と思ってもらえる仲間を増やして、カルチャー形成を含めてグループを活性化できると考えます。また、リサーチと一口に言っても様々な領域があり、〈みずほ〉が有する外部のパートナー企業や有識者の先生方とのコネクションも有効活用することで、日本の企業や経済を盛り上げていく、というさらに大きなスケールまで拡げられるのではないでしょうか。個人の熱意や技術で会社や世の中にインパクトを与えることができるという、一つの指標となったと思います。 井口:FTの研究レベルの高さが、論文採択という客観的な形で外部に評価されたという点は大きいです。テクノロジーへの深い理解をベースに、実際の課題に合わせた新しいデータアナリティクス手法を〈みずほ〉自らが生み出せることを世の中に示すことができました。この評価が、〈みずほ〉内の連携のみならず、産学官を巻き込んだ大きな連携につながる可能性を感じますし、他の領域の専門家とコラボレーションすることで、社会課題に応える新しい金融サービスやソリューション開発に結び付くことを期待しています。 加藤:皆さんがおっしゃるように、今回の採択が会社の技術革新を促進する要因の一つとなればいいなと考えています。今回の採択で国際会議への論文投稿に対する心理的ハードルが下がって、より積極的にR&Dを行う流れを作ることができるのではないかと思います。社員が自己研鑽を進めて、〈みずほ〉の人的資本が高まる。その先駆的な事例になればうれしいです。 ─今後もタッグを組んでどのようなことに取り組みたいか、展望を教えてください。 池田:今回の論文のテーマであるビジネスアクションの効果測定は、あらゆる業種・産業のお客さまのビジネスのど真ん中で役立つ可能性を秘めています。そこで短期的にはFTがこの技術で効果の高いビジネスアクションをお客さまに提案し、中長期的には、そのアクションの実装に必要となる金融領域面において〈みずほ〉が一層お客さまに貢献できるようグループ会社や外部のパートナー企業と一丸となって取り組んでいきたいです。 井口:金融機関として、R&Dを推進する機運が生まれつつあると感じています。自分たちの強みをつくるためにもR&Dを続けて、デジタルマーケティングの実課題とも結びついた知見を企業支援に活用する。そういうサイクルを具体化する第一歩が今回の事例だと思うので、今後もこうした事例を生み出し続ければと思います。 加藤:研究分野の最先端をキャッチアップしつつ、〈みずほ〉が実務で抱えている課題に対して有効な方法を提案できるようになりたいです。また、デジタルマーケティング部の皆さんが実務を通して発見された知見を抽象化・一般化することで、論文や研究として仕上げて、対外的に技術力の高さをアピールできればと思います。 現在進んでいる研究について笑顔を交えながら話をする姿が見られる等、グループの垣根を超えた積極的な交流の様子が伺えた今回のインタビュー。また、言葉の端々から〈みずほ〉だけでなく、お客さまの生活を良くしたい、社会の役に立ちたいというそれぞれの想いを強く感じることができました。 このような良好な社内の関係性やそれぞれの熱い想いが今回の論文採択という結果の一因であり、「ともに挑む。ともに実る。」というパーパスのもと、〈みずほ〉はこれからも一丸となってテクノロジーの力で未来に向けて挑戦していきます。 PROFILE みずほ第一フィナンシャルテクノロジーデータアナリティクス技術開発部 加藤 真大 インターネット広告事業を手がける会社で機械学習や計量経済学の手法の研究開発に従事した後、2023年にキャリア採用でみずほ第一フィナンシャルテクノロジーに入社。現在、データアナリティクス技術開発部門にて、データ分析業務や金融・機械学習に関連する研究開発に従事。著書に「因果推論入門~ミックステープ:基礎から現代的アプローチまで」(「Causal Inference: The Mixtape」の翻訳)。 みずほ第一フィナンシャルテクノロジーデータアナリティクス技術開発部 部長 井口 亮 2008年みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに入社。以来、金融機関・事業会社向けデータ分析業務・コンサルティング業務に従事。現在、同社 データアナリティクス技術開発部長・チーフデータサイエンティスト。金融におけるAI・機械学習やデータサイエンス領域でのコンサルティングや研究開発を牽引する博士(工学)。一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)では、金融業界横断データ連携プラットフォームのワーキンググループ長として活動中。主な著書に「金融データ解析の基礎」(共著、共立出版)がある。 みずほ銀行デジタルマーケティング部 マーケティング開発室データ分析チーム 部長代理 皆川 直人 2011年みずほ銀行に入行。現市場開発部・みずほキャピタルマーケッツNY等で外国為替のクオンツ分析や米州でのデリバティブ規制対応PJ等を担当。公募留学を経て、2020年10月より現職にて、デジタルマーケティング高度化に関わる企画・データ分析、Google連携、データアドバイザリー業務、新規事業開発等に参画。 みずほ銀行デジタルマーケティング部 マーケティング開発室データ分析チーム 部長代理 池田 祐樹 2015年みずほ銀行に入行。現与信企画部にて国際的な金融規制への対応業務等を担当。公募留学を経て、2023年1月より現職にて、デジタルマーケティング高度化に関わるデータ分析、データアドバイザリー業務等に参画。 ※所属、肩書きは取材当時のものです。 文・写真/みずほDX編集部 新しい記事へ 記事一覧ページへ 過去の記事へ 記事一覧ページへ 関連リンク 機械学習分野の国際会議ICMLにて論文採択 最新のAI・データサイエンス理論を活用した分析業務、研究開発業務にご興味のある方はこちら 「みずほ第一フィナンシャルテクノロジー」についてのお問い合わせはこちら [email protected] RECOMMEND 2024年8月29日 上ノ山CDOが語る。〈みずほ〉の新たな挑戦とDXで切り拓く未来。 2024年8月13日 【日経電子版タイアップ】イベント検知におけるエラー・メッセージの監視と対応で98%の精度を実現 2024年6月17日 「量子コンピュータ」で、より良い社会へ。技術を幸せな未来につなげる〈みずほ〉の研究者たち。