震災・原発事故から10年「復興の軌跡とこの先の挑戦」
11月10日(水) 場所:日本青年館ホール(東京都新宿区)
記憶守り次世代に 東京でシンポジウム
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故発生から10年の節目に被災地からのメッセージを発信するシンポジウム「復興の軌跡とこの先の挑戦」が10日、東京都新宿区の日本青年館ホールで開かれた。城南信用金庫と、県内の会津、ひまわり、あぶくま、福島の四信用金庫、東京新聞、福島民報社、日本青年館、ニッセイ、日本青年団協議会の共催。
震災と原発事故の記憶を風化させず、経験を発信し、次の世代に伝えるのが狙い。5月に開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期されていた。県内首長のリレーメッセージとして、いわき市の内田広之市長、矢祭町の佐川正一郎町長、双葉町の伊沢史朗町長、飯舘村の杉岡誠村長が震災後の歩みや課題、今後の展望を語った。福島市の木幡浩市長もビデオで出演した。
来賓の内堀雅雄知事、中井徳太郎環境省事務次官があいさつ。西銘恒三郎復興相もメッセージを寄せた。ノンフィクション作家の柳田邦男氏は「心の再生と地域の発展~絵本の力を見直そう」と題して講演。日本青年団協議会常任理事の伊藤加奈子氏は「震災復興に取り組んだ若者たちの10年」をテーマに語った。郡山市のあさか開成高生は「震災の記憶と福島の今」について活動報告をした。
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復興の思い結集 主催者・東京新聞 菅沼堅吾代表
震災から10年の歩みを振り返り、次なる挑戦、復興に結び付けるイベントを開きたいと、城南信用金庫、福島民報社をはじめとする主催者で考え、コロナ禍の中で開催の道を探ってきた。多くの人々の復興に懸ける思いを結集したい一心だ...▼もっと見る
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各団体代表復興、減災へ連携誓う
シンポジウムの開催に当たり、関係団体の代表らが被災地の復興と防災・減災意識の高揚に向けて連携をさらに強め、力を尽くしていくことを改めて誓った。...▼もっと見る
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連携し帰還を促進 環境省事務次官 中井徳太郎氏
環境省は被災地の住民が安心して生活できるよう、環境再生の取り組みを着実に進めてきた。その一方で10年が経過した今も復興は道半ばだ...▼もっと見る
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気持ち一つに前進 福島県知事 内堀雅雄氏
震災と原発事故から10年8カ月が経過した。全国各地からの温かい支援のおかげで着実に復興を進めることができた。しかし、複合災害に見舞われた本県の復興はまだ完了していない。これからも未来に向かって歩み続けていく...▼もっと見る
県内5市町村 首長リレーメッセージ
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業務変換を後押し いわき市長 内田弘之氏
いわき市は原発事故に伴い多くの避難者を受け入れるとともに、津波、地震で被災し、住民が市外に避難している地域だ。...▼もっと見る
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防災体制強化急務 矢祭町長 佐川正一郎氏
矢祭町は東電福島第一原発から離れている場所にある。当時はさまざまな報道などで多くの町民が不安を抱えていた...▼もっと見る
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企業誘致 雇用確保 双葉町長 伊沢史朗氏
双葉町は震災と原発事故で全町避難となった。10年8カ月が過ぎた今も全町避難を続けている唯一の被災自治体だ。約7000人の町民が...▼もっと見る
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担い手に寄り添う 飯舘村長 杉岡誠氏
原発事故に伴い全村避難になった。今も福島市に約7割の村民が避難している。これまでの10年間は挑戦の日々だった...▼もっと見る
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災難変革のばねに 福島市長 木幡浩氏(ビデオ出演)
福島市の復興は着実に進んできたが、今も多くの市民が全国各地で避難生活を送り、東電福島第一原発の廃炉は遠い先で、復興は道半ばだ...▼もっと見る
演題 心の再生と地域の発展~絵本の力を見直そう
演題 震災復興に取り組んだ若者達の10年
絵本『きぼうのとり』読み聞かせ
フラガール
つのだ☆ひろさん(塙町出身) 古関裕而さんの名曲歌う
演題 『ふくしまの未来』へつなぐ~今を知り思いを伝える~
復興の思い結集 主催者・東京新聞 代表 菅沼堅吾
震災から10年の歩みを振り返り、次なる挑戦、復興に結び付けるイベントを開きたいと、城南信用金庫、福島民報社をはじめとする主催者で考え、コロナ禍の中で開催の道を探ってきた。多くの人々の復興に懸ける思いを結集したい一心だ。
絆の大切さを心に刻み、それぞれの立場で東北の復興に、その支援に力を注いできた。10年が経過し、ともすれば震災の記憶が風化してしまうのではないかという危機感がある。コロナ禍に負けず、思いを新たに復興に向けて共に力強く歩み、挑戦を続ける決意を表明する場としていきたい。
各団体代表 復興、減災へ連携誓う
シンポジウムの開催に当たり、関係団体の代表らが被災地の復興と防災・減災意識の高揚に向けて連携をさらに強め、力を尽くしていくことを改めて誓った。
城南信金の川本恭治理事長のほか、県内の信金から、ひまわり信金の台正昭理事長、あぶくま信金の太田福裕理事長、福島信金の樋口郁雄理事長、白河信金の牧野富雄理事長、会津信金の小沢清辰常務理事総務部長らが会場を訪れた。東京新聞の菅沼堅吾代表、福島民報社の芳見弘一社長も出席した。
連携し帰還を促進 環境省事務次官 中井徳太郎氏
環境省は被災地の住民が安心して生活できるよう、環境再生の取り組みを着実に進めてきた。その一方で10年が経過した今も復興は道半ばだ。特定復興再生拠点区域の除染をしっかりとやり遂げるとともに、拠点区域外の対応についても、帰りたいと思う住民が帰還できるよう、8月に決定された政府方針の実現に向けて関係省庁と連携しながら取り組んでいく。
県内の除去土壌などを2045年までに県外最終処分することは国の約束だ。実現のため、除去土壌などの減容再生利用の推進に向け、再生利用の実証事業を着実に進め、必要性や安全性への理解を全国に広げる。福島の復興はこれまでも、これからも、環境省にとって最重要の課題だ。
気持ち一つに前進 福島県知事 内堀雅雄氏
震災と原発事故から10年8カ月が経過した。全国各地からの温かい支援のおかげで着実に復興を進めることができた。しかし、複合災害に見舞われた本県の復興はまだ完了していない。これからも未来に向かって歩み続けていく。
風評被害、風化の加速、台風19号、新型コロナウイルスの感染拡大…。多くの課題が山積しているが、克服するためには挑戦を続けていかなければならない。心が折れそうな時に支えてくれたのがみなさんとの絆だ。
47都道府県のコメで造る日本酒「絆舞(きずなまい)」が完成した。全国各地でそれぞれの困難に向き合っている。絆を一つにして、前に進めるよう気持ちを一つにしていきたい。
県内5市町村 首長リレーメッセージ
業態変換を後押し いわき市長 内田広之氏
いわき市は原発事故に伴い多くの避難者を受け入れるとともに、津波、地震で被災し、住民が市外に避難している地域だ。
市内の若者の多くは高校を卒業すると、首都圏をはじめ都会に出て行ってしまい、その後、なかなか戻って来ていない現状がある。2060年には市の人口が半減する推計もある。東京などの大学で学んだ後、いわきや、浜通りの被災地に戻り、専門性を生かして働ける場所がないのが深刻な課題だ。政府が浜通りに整備する国際教育研究拠点と連携し、地元の中小・零細企業が時代の最先端分野に挑戦する業態変換を後押ししたい。
この10年間、震災や台風、コロナなど、苦難と戦ってきたが、明るい話題も出てきた。歯を食いしばって努力してきた積み重ねが市民の力になっている。前を向き、発展のために力を尽くしていく。
防災体制強化急務 矢祭町長 佐川正一郎氏
矢祭町は東電福島第一原発から離れている場所にある。当時はさまざまな報道などで多くの町民が不安を抱えていた。今も農産物の風評払拭(ふっしょく)に向けた取り組みなどを続けている。正しい情報や安全安心を常に発信していかなければならない。
震災だけではなく、2019年の台風19号でも甚大な被害が出た。久慈川が増水し、町に架かる高地原橋が崩落して住民が一時孤立した。頻発して発生する自然災害に備えた体制強化が急務だ。少子高齢化に伴う人口減少や、農林業の担い手不足の解消に向けた施策なども展開し、町民の命と財産を守る。
困難に直面した時、互いに支え合ったり、温かい言葉を掛け合ったりする姿勢を忘れてはいけない。一つ一つの課題に向き合い、全員の力を合わせて町の発展のために取り組んでいく。
企業誘致 雇用確保 双葉町長 伊沢史朗氏
双葉町は震災と原発事故で全町避難となった。10年8カ月が過ぎた今も全町避難を続けている唯一の被災自治体だ。約7000人の町民が県内を含む全国各地に避難している。町の復興はまだ始まってすらいない。町に戻ってから、ようやく復興がスタートになる。
長期の避難生活を強いられ、戻りたいと思う人は現在、10・8%しかいない。町に戻りたいと思う人の気持ちを忘れず、私たちは復興を遂げなければならない。特定復興再生拠点区域に認定された約555ヘクタールの土地を町民が戻りたいと思える場所にどうつくり変えるかが重要だ。働く場所がなければ、住民が古里に戻れない。中野地区復興産業拠点に企業誘致を進め雇用を確保する。
自然と共生し、災害に強いまちをつくる。町の復興に関心を持ち、ぜひ足を運んでほしい。
担い手に寄り添う 飯舘村長 杉岡誠氏
原発事故に伴い全村避難になった。今も福島市に約7割の村民が避難している。これまでの10年間は挑戦の日々だった。
村の基幹産業である農業と畜産業の再生に力を入れている。村内で100軒ほどが市場に農産物や花などを出荷する「なりわい農業」に取り組んでいる。コメや牛、カスミソウなど種類はさまざまだ。家庭菜園などを楽しむ「いきがい農業」の支援も進めている。現在、村に1500人が暮らしているが、そのうち約190人が震災後に移住してきている。
行政だけでは真の復興は成り立たない。復興の途上にある村は新たな取り組みをしたい人にとって真っ白なキャンバスだ。古里を愛し、楽しみ、その喜びを共にする「ふるさとの担い手」と手を携えて、明日が待ち遠しくなるようなわくわくする楽しい村をつくっていきたい。
災難変革のばねに 福島市長 木幡浩氏(ビデオ出演)
福島市の復興は着実に進んできたが、今も多くの市民が全国各地で避難生活を送り、東電福島第一原発の廃炉は遠い先で、復興は道半ばだ。震災後も台風19号、本県沖地震、農作物被害、コロナ禍と、立て続けに災難に見舞われてきた。これらの教訓を生かし、変革のばねにしてよりグレードアップした地域社会を形成する。決してくじけず、前を向いて進んでいく。風評は安全・安心を強調するだけでは払拭(ふっしょく)できない。品質や魅力を高めることで乗り越える。
震災に加え、コロナ禍で人口減少が加速し、地域の基盤が弱体化している。この流れを変えるため、子育てや教育で選ばれるまちをつくり、生活や環境の安全・安心を高める。将来にわたりやっていける仕事づくりを進め、楽しみを享受できる文化とにぎわいを形成する必要がある。
演題 心の再生と地域の発展~絵本の力を見直そう
触れ合い 感性豊かに ノンフィクション作家 柳田邦男氏
活気のある地域には日常生活の中で地域に住む人たちが互いに思いやりを持ち、何かあれば手を差し伸べ合うつながりがある。
人間が生きる上で何が大事か。安心して赤ちゃんを産み育てられる、子どもが伸びやかに育つ、障害者・病者・高齢者が差別されずに安心して暮らせる、教育・文化・スポーツが盛ん、虐待・いじめ・暴力・犯罪がないー。そういった環境をつくるためには地域経済の再生だけでなく、人々がつながり、支え合う地域社会が必要だ。
親は絵本を読み聞かせしている中で子どもの感性の素晴らしさ、能力に気付く。それまで子どものことを十分に理解していなかったことを知る。読み聞かせをする際に子どもの反応から親が学ぶという姿勢が大事だ。
ネット社会で直接会わずメール、スマホなどのやりとりだけで人間のつながりができると思ったら大間違い。生身で触れ合い、スキンシップなどを通して子どもの心が発達し、感性が豊かになる。
演題 震災復興に取り組んだ若者達の10年
活動通じ教訓伝える 日本青年団協議会常任理事 伊藤加奈子氏
震災で多くの尊い命が奪われた。10年という年月は長いようで短い時間だ。これまで、私たちは「震災を風化させない」をスローガンにさまざまな活動を続けてきた。
震災直後、がれき撤去や街頭募金活動、救援物資の輸送、炊き出しなどのボランティアに取り組んだ。その後は震災と原発事故の記憶と教訓を後世に伝え、防災意識の向上を目指そうと学習会を開いた。実際に被災した青年団員が講演し、当時の状況や備えなどを訴えた。被災した青年団員の生活記録をまとめた冊子を発行したり、展示パネルを作成したりもした。
これからも震災を忘れさせないために何ができるのかを考え、知恵を出し合って行動していく。
『絵本きぼうのとり』読み聞かせ
テレビ朝日アナウンサー
佐藤 ちひろさん(いわき市生まれ、南相馬市育ち)
佐藤さんは震災と原発事故の記憶をつなぐ福島民報社の絵本「きぼうのとり」を情感を込めて朗読した。
大画面に絵本を写し出しながら、本県の置かれている状況や復興への歩み、災害の恐ろしさなどを伝えた。震災を乗り越えて前を向く子どもたちの様子が語られ、涙ぐむ観客の姿もあった。
絵本「きぼうのとり」の公式サイト >>フラガール
いわき市のスパリゾートハワイアンズのダンシングチーム5人は踊りで古里・福島を応援した。華やかな衣装に身を包み、華麗なダンスを披露して花を添えた。
古関裕而さんの名曲歌う
つのだ☆ひろさん(塙町出身)
塙町出身のミュージシャンつのだ☆ひろさんは、自身が編曲し生まれ変わった、福島市出身の作曲家古関裕而さん作曲の「常磐炭礦の歌 我等の力」「応援歌 若きいのち」などを力強く披露した。常磐興産の西沢順一社長らがコーラスを務めた。
演題 『ふくしまの未来』へつなぐ~今を知り思いを伝える~
あさか開成高 宍戸永実さん、中野希瑛さん(いずれも3年) 須藤聖菜さん、大和田麗さん(いずれも2年)
郡山市のあさか開成高の生徒4人は震災と原発事故の風化が懸念される中、県内の現状を発信し続けると誓った。
宍戸さんは双葉郡から郡山市に避難している障害者と就労支援施設で一緒に作業をして交流する中で、「古里に帰りたい」という言葉を聞き、原発事故は終わっていないと思い知らされた。古里を思い、必死に前を向こうとしている人たちを忘れてはならないと話した。
須藤さんは防災・減災意識の向上の必要性を呼び掛けた。震災の記憶をつなぐ福島民報社の絵本「きぼうのとり」を授業で読み、震災の教訓を忘れず、次世代へつなげる使命感が生まれたと発表した。
中野さんは震災を風化させないため、きぼうのとりをデザインしたエコバッグを発案し、浜通りから避難してきた障害者と一緒に作った活動を報告した。きぼうのとりが(私たちを)つないでくれたと振り返った。
大和田さんは福島民報社の「ふくしま復興大使」としての活動で、県産食材を使ったオリジナルの和菓子開発の準備を進めている。(県産品の)おいしさをみんなに知ってほしいと、風評払拭につなげる思いを語った。