「勇気があるなあ…ボクにはできない」
バニラエアの一件について思うこと

SNSが炎上した。「バニラエアが車椅子の客を這いずり上がらせた」と新聞社が報じたことによって賛否両論、燃え上がった。車椅子に乗った下半身不随の木島英登さんがタラップの下で乗車を拒否された。

いろいろな押し問答の末「じゃ、自分で上がる」っていう具合に両腕の力でタラップを登り席に着いたのだ。

その一報を見たボクの第一印象は「すごい人がいるなあ」。そういう感動だ。ちょっと変な言い方になってしまったかもしれない、車椅子乗りとしては羨望のまなざしにも似たような…もちろんその行為には間違いがあるとは思う。

けれど、その勇気をちょっと羨ましいとも思う。ボクにはできない。やろうともしなかっただろう。まあ、できないんだけど。

ボクはたった6年前に車椅子ユーザーになったばかり。いわば、障がい者の初心者だ。生まれてから車椅子ユーザーになった方、途中から車椅子になった方、ちょっとは歩けるとか、立てるとか、バリバリのアスリートのような方とか…本当にいろいろな種類の車椅子ユーザーがいる。

経験もいろいろ違う。ボクは左半身が麻痺しているので上半身も下半身も半分は動かない。だから、車椅子を降りたとしても這いずることもできない。けれど木島さんのように腕はバシバシ健常という場合もある。

諦めていたけど娘との2人旅は実現!
いろいろと準備は大変だけど、最大級の満足!!

以前、『通販生活』という雑誌の企画で成人式を迎えた娘と沖縄旅行をした。しかも離島の宮古島を選んだ。健常な時から、「息子が成人したら酒場で一杯。娘とは2人旅」。そんな夢を持っていた。ところが、こんなからだになってしまって諦めていたのだ。

雑誌の企画は「車椅子の神足さんが、旅を企画するところから実際に手続きするところもやってみてほしい」と言われた。飛行機の手配や娘と行くためにトラベルヘルパーなんていうものも調べた。

飛行機に乗るのにどのカウンターに行くのか、ホテルはどうなのか…あちらでは車椅子でも、海やプールに入ることはできるのか?調べに調べてやっと実現した。

行ってみれば心配することもなにもなかったぐらいスムーズで、「飛行機なんてかえって車椅子に向いているかもね」。そう話していたぐらいだ。出発カウンターに行けば、事前連絡ですべてがお膳立てしてくれてある。

宮古島からの帰りはタラップを昇るような飛行機だったため、車椅子も飛行機会社のものに乗り換え、特別な方法で登り、席に着いた。なんにも困ることはなかった。

いろいろな準備は大変だけど、それでもこんな遠くまで娘と旅ができたことが嬉しくて、やればできるものだと希望を持った。今のボクの状況では最大級の満足度だった。

ルールだもんね
職員は悪くないと思う!

バニラエアはANA傘下の格安航空会社だ(LCC)。そのバニラエアが奄美空港で「歩けない人は乗れない」として、同行者が木島さんを抱えてタラップを昇るという提案も危険だと判断され拒否。どちらも当時のバニラエアの規約に則ってのことである。

バニラエアにはまだ車椅子昇降機のような装置を奄美には配置してなかった。そこで、木島さんは歩いて上れない人は乗れないという説明に対して、車椅子を降りて両腕の力だけで17段のタラップを登り席に着いた。

当時の規約では、「身体が不自由な方、車椅子の方は、お客様ご自身かお連れ様の補助を得て歩いて昇降できる方は乗ることもできるが、不意の事故を防ぐために事前確認が必要となる」。そのような内容が書かれていた。

木島さんから航空会社への連絡はしていなかった。けれど、事前に連絡をしていたとしても、木島さんの場合は歩行できないので断られていたとのこと。そして今回の事態に至った。

木島さんは、鹿児島県障がい福祉課、大阪福祉室、国土省などに今回のことについて異議申し立ての電話をすぐさましたという。新聞社、テレビ局にも報告して取材も受けた。

結果、バニラエアは今回の不手際を認め早急に改善したという。障がい者差別禁止法にバニラエアは違反をしているという判断になったのだ。バニラエアも謝罪して自治体も動きだした頃に新聞で報道されて大騒ぎになった。

バニラエアの職員の人にはなんの落ち度もなかったと思う。規約で決まっているんだから。それを木島さんが強引に突破した。障がい者差別禁止法によって。でも、大騒ぎにならなければ規約はこうも早くは変わらなかったかもしれないと聴く。

ボクが満員電車に乗ったら…
考えるだけで恐ろしい

ちょっと話は違うが、我が家の階段の昇り降りでは(しかもリフトなんだけど)ヘルパーさんの介助は断られている。大手の事業所で「危険が伴うのでヘルパーさんの介助はお断りしています。」そう言うのだ。

一番手助けしてもらいたいところでダメだと言われる。事業所はヘルパーさんを守らなければいけないからね。そんな不条理な…ちょっと妻に手を貸してもらえれば助かるんだけど、と思っているけど規則だ。諦めてしまっている。

だからこそ、「それ違うんじゃないの?」と表現できる木島さんの勇気にちょっと憧れてしまった。

ボクはいつも、車椅子で迷惑じゃないだろうか?人の手を借りてまで…そんな事ばかり考えてしまう。けれど、車椅子に乗っていたって仕事もしなければ食べてもいけないし、それには移動もしなければいけない。

満員電車に車椅子で乗ったらどうなるんだろうか?ベビーカー論争どころではない。今の自分には恐ろしくてできないけれど、本当は、それが普通にできる世の中が成熟した知性のある世の中なんだと思う。

車椅子ユーザーのエチケットがとても大切だとは思うけど。