第2回 Webでユーザビリティが、なぜ重要か?
前回ご紹介したユーザビリティの定義は、工業製品やソフトウェアなどにも当てはまるものですが、ネットではユーザビリティがよりいっそう重要な要素となります。Webサイトの場合、ユーザビリティが悪いと、商品購入やサービス利用の前にユーザーがそのサイトから去ってしまうからです。そのような機会損失の可能性について、架空の大型家電店の場合を例に解説していきます。
(解説:石田優子)
ネットとリアルの世界の違い:リアルの場合
家電店のビルの入り口にユーザーが立った所からスタートしましょう。彼がほしいのは、DVD-Rです。デジタルカメラで撮影した動画を録画できると聞いて買いに来たのですが、あまり詳しい知識はありません。
家電店の入り口を入るとエレベーターがありました。各階案内には「DVD-R」の文字はありません。どの階かと思っていたら、近くに従業員がいました。聞いてみると、DVD-Rは「4階:サプライ用品」で販売しているとのことです。
商品を選択・購入する際にわからないことがあっても、現実世界の店舗ならば、その場で問い合わせることもできるが……
4階に上がるとたくさんの商品が並んでいて、「DVD-R」と「DVD-RW」があり、さらにそれぞれに「データ用」、「録画用」と記載されていました。DVD-RWの方が高いのですが、こちらの方が品質がよいのだろうか。多分録画用だと思うが、それで良いのだろうか。そう思って従業員に聞くと、DVD-Rは1回限りで、DVD-RWは書き換え可能であること、録画用でよいことを教えてくれました。
そこでDVD-Rの録画用をレジに持って行くと、「ポイントカードはお持ちですか?」と聞かれたので、持っていないと言うと、ポイントカードの特典を教えてくれました。その場で用紙に必要事項を記入してポイントカードを発行してもらい、支払いを済ませて彼は帰ることができました。
ネットとリアルの世界の違い:ネットの場合
同じユーザーが初めて家電店のオンラインショップでDVD-Rを買う場合です。
まず彼はメニューを見ましたが、そこに「DVD-R」はありません。検索窓があるので「DVD-R」と入力して[検索]ボタンを押します。すると1500件の検索結果が表示され、上位はパソコンだけです。パソコンがDVD-RWドライブを搭載しているためですが、彼にはなぜパソコンが表示されるのかわかりません。
途方に暮れていると、[価格の安い順]というメニューが目に止まりました。DVD-Rは安いはずだとそれを選択すると、DVD-Rの一覧に変わりました。ほっとして一番上の商品を見ようとしたのですが、その下にDVD-R(録画用)と書かれた商品があります。一番上はDVD-R(データ用)です。どこが違うのだろうかと、両方の商品詳細ページを見比べると、DVD-R(録画用)には「録画時間:120分」と書かれています。こっちだろうと多少不安に思いながらも[注文]を押します。
すると、いきなりログイン画面が表示されます。なんだかわからないまま[新規登録]を選び、要求される会員情報を入力して[OK]を押します。
ユーザーにわからないことや問い合わせたいことがあったとしても、オンラインショップ上では、その場で受け答えしてくれる従業員はいない
しかし、「住所は全角文字で入力してください。」とエラーが表示されます。番地のハイフンを半角で入力していたのです。全角入力する方法がわかりません。いろいろ試して「1の1の2」と入力した後で、ようやく会員登録終了のメッセージが表示されましたが、元の商品詳細画面に戻ってしまいました。困ったものの、もう一度[注文]を押してみると、購入画面が表示されたので、決済情報を入力して彼はDVD-Rを買うことができました。
Webサイトでよりきめ細かな配慮が必要とされる理由
上記は架空の例ですが、私の実体験に基づいています。リアルの店舗ではわからないことがあれば店員さんに聞けますし、また戸惑った様子だと声をかけてくれる場合もあります。しかし、Webではその場で答えてくれる相手がいません。
もし、このユーザーが検索結果で、あるいは会員登録や最後の注文の途中でくじけてしまっても、誰も気付かないでしょう。そのサイトを見捨てたユーザーは、ほかのサイトに行くだけです。ネットではリアルではあり得ないような理由で、ユーザーを逃してしまうものです。実際、私は購入操作や会員登録でエラーを繰り返したために、サイトを去ってしまった経験が何度もあります。
見えないユーザーに対して、リアルよりも、よりきめ細かな心で対応する。そのための配慮のひとつとして、Webユーザビリティを考える必要があるのです。
次回につづく