Apple原理主義者の大坪です。
さて、GoogleI/O2014参加レポート第2弾。Google I/Oがカバーしている内容は、Googleの事業領域を反映しサーバーサイドからクライアントのデザインから、はてまたロボットにいたるまで非常に幅広い。今日はその中から標題のセッション+別のセッション内容を元に書きます。
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スピーカーはGoogleのシニア User Experience Researcher, Tomer Sharon 氏。まずMITとStanfordのComputer Science卒業生が作った「メモ作成アプリ」を開発したスタートアップ(仮想のものか実在のものかわかりません。少なくとも創業者の写真は別の人がモデルをしていました)がなぜ失敗したかについてその理由を挙げて行きます。
1 They did not fall in love with problem :問題をよく考えていなかった
彼らは自分たちがメモをとるのに苦労しているところから、サービスを考え始めました。実際に他の人も同じ問題を抱えているか確かめるために、サービスのweb siteだけつくってe-mailアドレスをあつめ、そのことにより「なるほど他の人も電子メールのアドレスを登録するくらいには、問題をかかえているんだ」と考えました。しかしそれ以上自分たちが対象としている問題について掘り下げなかった。
2. learned from friends:友達から意見を聞いた
自分たちの問題認識が正しいか、作ったアプリが売れるか確かめるために7人の友達や家族に意見を聞いたとのこと。しかし聞いた相手が友達であるが故にバイアスがかかっていることに気がつかなかった。
3 listened to users:ユーザの言うことに耳を傾けた
ニーズ調査で一番大事なのは「ユーザの言うことを聞かない」こと。そのかわりにユーザを観察するべきだと氏は主張します。
社会心理学の分野では100年も前から「人間は自分の行動を予測するのが下手だ」と知られている。しかしユーザ調査をする時にはこの事実があまりにも頻繁に忘れられます。氏があげた例は以下の二つ。
1937年に行われた実験。まず学生達に「君たちは試験でカンニングするか?」と聞く。それに対して学生達は回答をする。 その後で、実際にカンニングが簡単にできる環境で試験を受けさせる。すると「カンニングするか」という問いに対する答えと、実際の行動の相関はほぼ0に近かったとのこと。つまり全く関係がなかったわけです。
次に挙げた例は2012年に行われた調査。公衆トイレから出てきた人に「手を洗いましたか?」と尋ねる。すると99%の人がYesと答える。 しかし実際にはトイレにカメラがしかけられており、行動が記録されていた。実際には男性:32%/女性:64%の人しか手を洗っていなかった。
彼らは自分たちが作ろうとしているアプリに関して「これを使いたいですか」「いくらまでなら払ってもいいですか」と質問しました。質問する相手が間違っているという事実に加え、そもそも人間は「自分がこう行動するだろう」と予測するのが下手。だからこういう質問には全く意味がない。
4 Didn't test riskiest assumption;一番重要な仮説を検証しなかった
プロジェクトはいくつか仮説を立てて行われるわけですが、その中でも「もしこの仮説がこけると全て駄目になる」というものがあります。それを検証せずにただ製品とかサービスだけ作ってもその仮説が正しくないとわかった瞬間全て駄目になってしまう。
ここで挙げられている例では「スマートフォンの所有者は、メモを取りづらいことが大きな問題であると認識している」というのが最重要な仮説だったわけです。では彼らはそれを検証する努力をしたか?
5 Bob the Builder mentality:自分が得意なことをとにかくやる
彼らは二人ともComputer Science学科を卒業した人間でしたから、とくかくコードを書いてアプリを作るのが得意だった。それゆえ自分たちが何を作ろうとしているのか、あるいはそれが正しい物なのかを検証するより先にとにかくアプリをリリースしてしまった。彼らにとって「創業」とはコード書きの練習だったのです。
6 Perfectly executing the wrong plan:間違った計画を完璧に実行してしまった
彼らは以下の検証を行うべきでした。
Problem:彼らが想定している問題が世の中に存在しているか
Marketing:実際に企業をなりたたせるほど多くの人がその問題を抱えているか
Product:その製品(もしくはサービス)は想定した問題を解決できるか
氏は実際にスタートアップ及びベンチャーキャピタル150社にインタビューをしたそうです。彼らはこうした検証を行う為に何を聞くべきかを「知って」はいたのですが、そのやり方には問題が多かった。
・12%の会社は "user experience"の定義を知らなかった
・86%のスタートアップはは創業者が個人的に感じている「苦痛」からスタートしていた。ちなみにユーザスタディから最初に解くべき問題を見つけていたのは2%.
・そもそも「解くべき問題は何か」というところからスタートした人はほとんどいなかった
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ではどうすれば良かったか?ここで氏は"Lean User Research"を提案し、具体的に三つの手法を取り上げます。
手法その1:experience sampling
1950年代に開発されたPager Study:ポケベル調査が元とのこと。被験者にPagerを配り一日に何回も同じ質問をしてリアルタイムに回答を集める。その回答結果を利用して被験者の行動を理解する。実際に公演中に出された質問は
"What was the reason you recently used a piece of paper to write something down?"
最近紙に何かを書いた時に、なぜそうしたか理由を教えてください
というものでした。もし100人の被験者に対して一日に5回、5日間この質問をしたちすれば、2500の回答が集まることになります。 この際重要なのは質問の仕方で
・はい/いいえで答えられる質問は駄目
・数を聞くのは駄目。その結果を平均しても意味は無い
・「意見」を聞くのではなく、実際の行動を聞く
・一分以内に答えられる質問にする
具体的に良い質問の例は
最近webサイトをアップデートした理由はなんですか?
駄目な質問の例:
過去一時間に何通メールを受け取りましたか?
GoogleではこのExperience SamplingのためにPACOを使っているそうです。 これによってユーザのニーズ、特徴、苦痛に思っていること、うれしいこと等を知ることができる。
手法その2:observation 観察
ここでは観察の手法がいくつか語られましたが、面白いと思ったところだけ。
「問題」というと例えばタスクを邪魔する物とかうっとうしいと思っているものに関して観察すると思いがちですが、氏はDelight:何を楽しいと感じるかを観察することも重要だと強調していました。
またもう一つおもしろいと思ったのが
transitions:具体的には、会議が終わった後、次の会議室に行く間にその人は何をしているか?スマホを開いて何をしているか?こうしたTransitionの最中に何をしているかを観察することは、その人のニーズを知るのにとても有効だと言います。
手法その3;fake doors
あちこちで講演を聴いていると、Webサービスの場合、本サービスができていなくても予告ページだけ作るのは結構よく行われているようです。先ほどのスタートアップでも実際に予告ページを作り「メールアドレスを集める」ことでニーズを推し量ろうとしました。
しかしそうではなく「$5払えば、アプリができたとき真っ先に入手できます」とやるべきであったと。メールアドレスを渡すというのもある程度の「覚悟」を示すものではありますが、それよりは実際に$5払うだけニーズを感じているか調査したほうが遥かに良い、と。
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講演の最後に
「映画にでてくるヘリコプターがどうなるか」
という円グラフが表示されました。100%の確率で爆発する。ほとんどのスタートアップは「ユーザニーズを調査している時間はない」といいますが、間違った計画を立ててしまえば、プロジェクトの運命は映画の中のヘリコプータと同じだ。正しい計画を実行しよう、と強調して講演が終わりました。
この講演の内容を文字にしてみると「興味深い」と思う自分と「それだけでは足りない」と思う自分の両方が存在していることに気がつきます。例えばFake Doorを作って「実際に$5払うことでユーザニーズを確認する」ことはできるかもしれません。
じゃあ例えばiPhoneの宣伝文句だけ書いて「この製品が欲しい人は$100振り込んで」とやってニーズの確認ができただろうか?私のようなApple原理主義者でさえも実物のiPhoneを観る事無しに$100振り込むことはしなかったと思います。そもそもAppleはユーザ調査に時間も金をかけない(らしい)会社ですがその製品は実際に登場すると人々が「こんなのが欲しかったんだ」と思えるものになる(ええ、私は自分の偏見をある程度自覚していますよ)
大ヒットする製品というのは、ユーザが自覚しておらず、「あたりまえ」と諦めている不満を解消する製品ではないか、と最近考えています。はたしてそうした製品のニーズを製品なしに確認することが可能でしょうか?
などとApple原理主義者がAppleを例にとって考えても公平性を欠く。では、Weeblyの成功物語にこの講演の内容はどう適用できるだろうか。とかなんとか考えるネタはつきないわけです。と放り出したところで今回はおしまい。
Lean User Researchのサイトはhttp://www.leanresearch.co
本講演のビデオ(半分)は