朝、出社と同時にメールボックスを開くと膨大な未読数があって、貴重なビジネスの時間の多くをその処理に費やしている...という人は、もはや少なくないのでは。せっかくITの時代になったのに、膨れ上がる一方のメールは、紙の時代よりもかえって時間ロスを増やしているのかもしれません。けれども、そんな生活がクラウド型ビジネスチャットツール「チャットワーク」の登場によって、いよいよ変わるかもしれないのです。
従来とは違うこの新しいチャットツールは、ブラウザから使えて、過去のログやファイルはすべてクラウド上にあるサーバーに残されるという仕組み。しかもチャットなのにオンライン・オフラインを気にせず使えるうえに、タスク管理までできるなど、コミュニケーションの質を大きく変えてくれる可能性を秘めているというのです。
キャッチコピーに「メールの時代は終わりました」とあるように、本当にメールの時代は終わりを告げる日が来るのでしょうか?
今回ライフハッカーでは「チャットワーク」の開発担当者であるEC studioの山本正喜氏にインタビューを行い、今までのチャットサービスとは何が違うのか、そして本当にコミュニケーションのスタイルを変えてくれるのか、お話を伺いました。
ピアツーピアではないから、相手がオンライン上にいないときでも、メッセージやファイルが送れますし、メッセージの内容を送信した後から編集したり削除することも可能です。つまり、相手を間違ってメッセージを送ったとしても、後から取り消すことができるんです。他にも、従来のチャットにない機能としては、グループチャットごとにタスク(ToDo)を登録できる点です。「マイチャット」という自分宛にメッセージを送る機能にもタスクが作れるので、自分用のToDoとして使うこともできます。
編集部:いったん送信したメッセージの内容を編集したり削除したりできるというのは、確かに今までにはない機能ですね。チャットの操作については何か違いはありますか? 山本:今までにSkypeを使ったことがあれば、ほとんど違和感なく使えると思います。まず、コンタクトを取りたい相手を登録して、マンツーマンかグループでやりとりする。無料版ではコンタクト数は40、グループは14まで設定できて、有料版なら制限はありません。グループへの参加者の追加や削除は管理者が行え、複数の管理者が設けられるようにもなっています。使い方としては、部署やプロジェクトごとにグループを作ってメンバーを登録しておけば、そこでのチャットがそのまま議事録代わりになりますし、ファイルやタスクの設定もグループごとに残せて、後から追加したメンバーも今までの記録を見ることができますから、ML代わりにもなります。 編集部:チャットだけれどメールのような使い方もできるようになっていると。 山本:はい。まさしくそうした点も考慮して、メッセージを「引用」したり、未読や返信といったメールのような使い方ができる機能も用意しています。というのも、実は弊社では6年前からメールでのやりとりをSkypeチャットに切り替えてきましたが、チャットならではのスピードによりビジネス効率を高められた一方で、相手がオンライン上にいないとファイルが送れない、グループに途中参加したメンバーが過去のやりとりを見られないといった、いろいろな不便さも感じていました。そこで、それらの問題点を自分たちで解消しようと「チャットワーク」の開発を始めたんです。今や社内コミュニケーションはすべて「チャットワーク」で行っています。他にも、チャットは最初の頃は慣れるまでやりとりを切り上げるタイミングが難しくてエンドレスになりやすいので、掲示板と考えるほうがいいでしょう。また、「チャットワーク」にはメッセージが送られると、ブラウザ上にポップアップで表示する通知機能があるのですが、こちらは状況に合わせてオン・オフができるようにしています。
送られたメッセージにすぐに対応するかどうかの判断材料としては、チャット一覧にメッセージの未読数が表示されるのですが、そこに自分宛に直接TO:を付けて送られたメッセージの数もわかるようにしています。まずは、自分宛てのメッセージがあるものから対応すると、効率よくチャットを処理していくことができます。
編集部:話をお聞きしてると「チャットワーク」を使っているうちに、自然とチャットやコミュニケーションに対する考え方が変えられるような気もするのですが、これから新しくこうしたツールを使い始める人が付いて行けるかどうかは、まだちょっと心配です。 山本:そうですね。自分の場合は参加しているグループが300ぐらいあるんですが、普通だったらとてもじゃないけれど管理しきれる数ではないと思います。 編集部:300グループですか?! 山本:最初からそんな数があると破綻してしまいますが、実際にはいきなり増えていくわけではなくて、気がつくとそれだけの数になっていたというだけなんです。また、すべてがリアルタイムで動いてるわけではなく、常にチャットに呼び出されて参加しなければいけないというわけではない。ただし、それがわかるようになるには、慣れというかやはり時間が必要ですし、どうやって使いこなすかは経験を重ねていくしかないところがあると思っています。一番いいのは、誰かが使っているのを見よう見まねで始めてみることなんですが、まずは知りあいにグループに招待してもらって参加するところから始めてみるとかできる場があればいいかもしれません。今後は、そうした場も何かできるよう検討してみたいと思っています。合わせてユーザビリティについても工夫しています。Twitterと同じように、大量のTLから情報を読み取れるようにチャット内のアイコンをできるだけ大きくして、相手が一目でわかるようにしています。後は、ビジネス仕様といえどもチャットのような短いやりとりだとどうしても無機質になりがちなので、エモーティコン(顔文字代わりに使うアイコン)は必須になるだろうと思って用意しています。
編集部:初めて「チャットワーク」を拝見した時に、Google Waveと似ているようなところもあると感じたのですが、何か参考にされたりとかはしたのでしょうか。 山本:Google Waveは一般へのリリース前から、社内のコミュニケーションツールに使えるのではないかと思って試していました。ドキュメント+ディスカッションという使い方になっていて最初はおもしろいと思ったのですが、タイムラインという時間軸の概念がないので、新しい書き込みかどうかがわかりにくいし、不要なログも残ってしまう。仕様書をまとめるなど開発の仕事であれば使えそうだけれど、プロジェクト進行やコミュニケーションには向いていないとわかりました。結果的に、そこで感じた違和感などを「チャットワーク」の開発の参考材料にしたというような感じですね。 編集部:ブラウザからチャットを使うという発想そのものは以前からありそうな気がしますが、どうしてあまり見当たらないのでしょうか? 山本:先ほどもお話ししましたが、ブラウザからチャットを使えるようにするのは処理速度の問題があって開発がかなり難しいんです。また、Skypeをはじめアプリを使ったチャットツールが今は主流のようなところもあるので、今後、チャットのニーズそのものが広がっていけば弊社のようなサービスも登場するかもしれませんね。 編集部:とにかく簡単に使えることは大事ですね。自分でもチャットワークを使ってみようと思って登録してみたんですが、メールアドレスを送ると承認コードが送られてきて、後はログインするだけですぐに使えるようになりました。 山本:登録方法についても、将来的にはGoogle Appsのアカウントからログインできるようにするなど、もっと簡単にしようと考えています。 編集部:そういえば、自分はプロフィール設定でアイコンの画像を変更しようとしたら、TwitterやFacebookが選べるようになっていました。そこでTwitterを選んだら同じアイコンがすぐに登録できました。 山本:弊社ではすべてのコミュニケーションを「チャットワーク」だけで囲い込むのではなく、むしろ、今まで使い慣れたものや新しい機能をうまく連携させてより良いコミュニケーションにつなげることが大事だと考えていて、取りあえず今の時点では、SkypeやFacebookといった他のサービスとの連携をできるようにしています。その一つに「通話」機能があります。今のところ「チャットワーク」単体での音声やビデオチャットの機能はないんですが、「通話」ボタンをクリックすると、Skypeのアカウントを登録しているユーザーの一覧が表示されて、Skypeから通話ができるようになっています。他にもサービスの連携としては、アカウントにTwitterやFacebookの登録があれば、ワンクリックで見られるようにしていますが、それ以外にも、タスク管理については、Googleカレンダーと同期したり、マイタスクは別途できるようにしたりといったことを考えています。また、チャットだとタイムラインの情報量は増えてくるので、有料版のみですが近日中に横断検索の機能を追加します。検索は他のSNSサービスもそれほどよくはないと感じているので、この点については今後力を入れていくつもりです。そうそう、大事なこととしては、スマートフォンへの対応を進めていて、iPhone版については早々に公開される予定です。
そこではタスクリストを使ってオススメのお店の紹介をしたり、時にはビジネスを依頼するといったこともあります。他にも使い方としては、β版利用者を対象にしたグループを設けてサポートをしたり、機能修正のタスクリストを設けたりといった使い方をしています。
編集部:今後、こんな使い方をしてみたらいいのでは? というアイデアというか希望はありますか? 山本:「チャットワーク」は制作案件の進行管理に向いていると思っているので、そうした使い方の例が増えるといいですね。また、社内ツール以外に、プロジェクトごとに外部の人たちと協力して作業を行う必要があるフリーランスの方たちにも使ってみていただいて、追加して欲しい機能などを提案していただき、できる限りいろいろな可能性にチャレンジしていきたいと考えています。編集部でも実際に作業に「チャットワーク」を使ってみましたが、チャットとメールのいいトコ取りをしているだけあって、かなり使えそうな感じはしました。すでにメール代わりにTwitterのダイレクトメッセージやFacebookのチャット機能を使うといったニーズも浸透しつつあるので、それに次ぐ新しいコミュニケーションとして定着する可能性はあるかも?! まずはみなさん自身が「チャットワーク」を試してみて、その可能性があるかどうか判断してみてはいかがでしょうか。
[チャットワーク]
(野々下裕子)