朝、出社と同時にメールボックスを開くと膨大な未読数があって、貴重なビジネスの時間の多くをその処理に費やしている...という人は、もはや少なくないのでは。せっかくITの時代になったのに、膨れ上がる一方のメールは、紙の時代よりもかえって時間ロスを増やしているのかもしれません。けれども、そんな生活がクラウド型ビジネスチャットツール「チャットワーク」の登場によって、いよいよ変わるかもしれないのです。

従来とは違うこの新しいチャットツールは、ブラウザから使えて、過去のログやファイルはすべてクラウド上にあるサーバーに残されるという仕組み。しかもチャットなのにオンライン・オフラインを気にせず使えるうえに、タスク管理までできるなど、コミュニケーションの質を大きく変えてくれる可能性を秘めているというのです。

キャッチコピーに「メールの時代は終わりました」とあるように、本当にメールの時代は終わりを告げる日が来るのでしょうか?

今回ライフハッカーでは「チャットワーク」の開発担当者であるEC studio山本正喜氏にインタビューを行い、今までのチャットサービスとは何が違うのか、そして本当にコミュニケーションのスタイルを変えてくれるのか、お話を伺いました。

 

■チャットとメールのメリットを融合したのが「チャットワーク」

編集部:チャットワーク」はクラウド型ビジネスチャットツールと銘打たれていますが、従来のチャットとどのような違いがあるのでしょうか?

山本:まず大きな違いは、SkypeWindows Live Messengerといった従来のチャットはアプリをダウンロードして使うのに対し、チャットワークはブラウザからログインして使うので、セキュリティの問題でアプリをダウンロードできない会社でも使えます。ログなどのユーザー情報や送信したファイルデータもクラウドに保存でき、過去に遡ってメッセージを見たり、ファイルストレージ代わりにもなりますし、OSやブラウザが異なる環境でも使えます。

ピアツーピアではないから、相手がオンライン上にいないときでも、メッセージやファイルが送れますし、メッセージの内容を送信した後から編集したり削除することも可能です。つまり、相手を間違ってメッセージを送ったとしても、後から取り消すことができるんです。他にも、従来のチャットにない機能としては、グループチャットごとにタスク(ToDo)を登録できる点です。「マイチャット」という自分宛にメッセージを送る機能にもタスクが作れるので、自分用のToDoとして使うこともできます。

編集部:いったん送信したメッセージの内容を編集したり削除したりできるというのは、確かに今までにはない機能ですね。チャットの操作については何か違いはありますか?

山本:今までにSkypeを使ったことがあれば、ほとんど違和感なく使えると思います。まず、コンタクトを取りたい相手を登録して、マンツーマンかグループでやりとりする。無料版ではコンタクト数は40、グループは14まで設定できて、有料版なら制限はありません。グループへの参加者の追加や削除は管理者が行え、複数の管理者が設けられるようにもなっています。使い方としては、部署やプロジェクトごとにグループを作ってメンバーを登録しておけば、そこでのチャットがそのまま議事録代わりになりますし、ファイルやタスクの設定もグループごとに残せて、後から追加したメンバーも今までの記録を見ることができますから、ML代わりにもなります

編集部:チャットだけれどメールのような使い方もできるようになっていると。

山本:はい。まさしくそうした点も考慮して、メッセージを「引用」したり、未読や返信といったメールのような使い方ができる機能も用意しています。というのも、実は弊社では6年前からメールでのやりとりをSkypeチャットに切り替えてきましたが、チャットならではのスピードによりビジネス効率を高められた一方で、相手がオンライン上にいないとファイルが送れない、グループに途中参加したメンバーが過去のやりとりを見られないといった、いろいろな不便さも感じていました。そこで、それらの問題点を自分たちで解消しようと「チャットワーク」の開発を始めたんです。今や社内コミュニケーションはすべて「チャットワーク」で行っています。


■使いこなすコツは「すぐに返事しなくてOK」というルール

編集部:メールを「チャットワーク」に切り替えるメリットとしてはどんなことがありましたか?

山本:承認した相手だけとのやりとりになるので、まずスパムが来ませんし、送信ミスがあっても取り消しができます。そして相手がわかっているので、メールの冒頭に必ず付けられる「いつもお世話になっております」や「よろしくお願いいたします」といった定型文を送信ごとに付けたり、署名を付ける手間も省けます。

編集部:それはすごくいいですね。メールを何度もやりとりをしてるうち内容の半分以上が引用と書名で埋まっていて、実は伝えたいのは「わかりました」って1行だったりするってことはよくありますから。件名だってRE:だけで埋まって、いったい何の用件だかわからないなんてしょっちゅうですよ。

山本:そこがチャットに置き換わるだけでも、ビジネスのスピードは劇的に変わりますよ。一度、チャットの便利さを経験するとメールがいかに無駄かよくわかります。

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編集部:とはいえ、いきなりメールからチャット中心にコミュニケーションを切り替えるには難しいと思うのですが...。

山本:その点もよくわかります。今はメール中心に動いてますし、相手があってのコミュニケーションですから、いきなりすべてを切り替えられるとは自分たちも思っていません。けれども、プロジェクトの進行とか、一部分だけでもチャットに置き換えていって、その便利さを覚えて使う人が増えてくれば、自然と状況も変わっていくと信じています。また、震災による停電の影響などで、在宅や遠隔勤務など、ワークスタイルも大きく変わる可能性が出てきましたので、そうした時にコミュニケーションの選択肢の一つとして「チャットワーク」を考えてもらうところから始めていただければうれしいですね。

編集部:たとえば、具体的にチャットをうまく使うためのコツのようなものがあるんでしょうか?

山本:まずチャットワークの使い方として提案しているのが、「返事はその場で返さなくていい」ということです。

編集部:ええっ? それはまた通常のチャットとは真逆の発想ですよね。リアルタイムに相手とやりとりができるから、ビジネスがスピーディーになるのでは?

山本:緊急の用件ならチャットより電話を使ったほうがはるかに話が早いですよ。ですから、チャットワークは通常の業務用で、プライベートな雑談はTwitterやFacebookを使うようにするといった、コミュニケーションのレベルに合わせてツールを使い分けるという発想が必要です。そのため、「チャットワーク」では、あえてオンラインにいるかどうかのステータス表示を設けていないんです。相手がオンラインだとわかると、返事を期待して待ってしまうし、返事がなければストレスになりますから。要望があれば追加するかもしれませんが、今のところは必要ないと考えています。

他にも、チャットは最初の頃は慣れるまでやりとりを切り上げるタイミングが難しくてエンドレスになりやすいので、掲示板と考えるほうがいいでしょう。また、「チャットワーク」にはメッセージが送られると、ブラウザ上にポップアップで表示する通知機能があるのですが、こちらは状況に合わせてオン・オフができるようにしています。

送られたメッセージにすぐに対応するかどうかの判断材料としては、チャット一覧にメッセージの未読数が表示されるのですが、そこに自分宛に直接TO:を付けて送られたメッセージの数もわかるようにしています。まずは、自分宛てのメッセージがあるものから対応すると、効率よくチャットを処理していくことができます。

編集部:話をお聞きしてると「チャットワーク」を使っているうちに、自然とチャットやコミュニケーションに対する考え方が変えられるような気もするのですが、これから新しくこうしたツールを使い始める人が付いて行けるかどうかは、まだちょっと心配です。

山本:そうですね。自分の場合は参加しているグループが300ぐらいあるんですが、普通だったらとてもじゃないけれど管理しきれる数ではないと思います。

編集部:300グループですか?!

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山本:最初からそんな数があると破綻してしまいますが、実際にはいきなり増えていくわけではなくて、気がつくとそれだけの数になっていたというだけなんです。また、すべてがリアルタイムで動いてるわけではなく、常にチャットに呼び出されて参加しなければいけないというわけではない。ただし、それがわかるようになるには、慣れというかやはり時間が必要ですし、どうやって使いこなすかは経験を重ねていくしかないところがあると思っています。一番いいのは、誰かが使っているのを見よう見まねで始めてみることなんですが、まずは知りあいにグループに招待してもらって参加するところから始めてみるとかできる場があればいいかもしれません。今後は、そうした場も何かできるよう検討してみたいと思っています。


■Google Waveとの違いは「時間軸の有無」

編集部:山本さんは「チャットワーク」の開発を、いつ頃から始められたんでしょうか。

山本:ちょうど1年前ぐらいからスタートして、その後は社内でブラッシュアップを重ねてきました。その後、弊社で開催している「IT実践会」という勉強会のメンバーに先行してβ版を試してもらい、実用化できると確信できたので、いよいよ3月1日より正式公開しました。

編集部:開発で苦労された点などはありましたか?

山本:ブラウザ上で使うのですが、だからといって重くならないよう、チャットの表示速度はもちろん、チャットルーム(グループ)の切り替えについても十分に早さが出せるようになるまで製品化はしないと決めていました。この点については随分苦労したのですが、ちょっと開発寄りの話をすると、昨年末にGoogleからChannel APIというリアルタイム通信の仕組みが公開されたおかげで、ブラウザ上でもリアルタイムの更新がスピーディーにできるようになりました。こうした部分は開発者としては苦労しつつも、挑戦しがいがあり、楽しいところでもあったりします。

合わせてユーザビリティについても工夫しています。Twitterと同じように、大量のTLから情報を読み取れるようにチャット内のアイコンをできるだけ大きくして、相手が一目でわかるようにしています。後は、ビジネス仕様といえどもチャットのような短いやりとりだとどうしても無機質になりがちなので、エモーティコン(顔文字代わりに使うアイコン)は必須になるだろうと思って用意しています。

編集部:初めて「チャットワーク」を拝見した時に、Google Waveと似ているようなところもあると感じたのですが、何か参考にされたりとかはしたのでしょうか。

山本:Google Waveは一般へのリリース前から、社内のコミュニケーションツールに使えるのではないかと思って試していました。ドキュメント+ディスカッションという使い方になっていて最初はおもしろいと思ったのですが、タイムラインという時間軸の概念がないので、新しい書き込みかどうかがわかりにくいし、不要なログも残ってしまう。仕様書をまとめるなど開発の仕事であれば使えそうだけれど、プロジェクト進行やコミュニケーションには向いていないとわかりました。結果的に、そこで感じた違和感などを「チャットワーク」の開発の参考材料にしたというような感じですね。

編集部:ブラウザからチャットを使うという発想そのものは以前からありそうな気がしますが、どうしてあまり見当たらないのでしょうか?

山本:先ほどもお話ししましたが、ブラウザからチャットを使えるようにするのは処理速度の問題があって開発がかなり難しいんです。また、Skypeをはじめアプリを使ったチャットツールが今は主流のようなところもあるので、今後、チャットのニーズそのものが広がっていけば弊社のようなサービスも登場するかもしれませんね。

編集部:とにかく簡単に使えることは大事ですね。自分でもチャットワークを使ってみようと思って登録してみたんですが、メールアドレスを送ると承認コードが送られてきて、後はログインするだけですぐに使えるようになりました。

山本:登録方法についても、将来的にはGoogle Appsのアカウントからログインできるようにするなど、もっと簡単にしようと考えています。

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編集部:そういえば、自分はプロフィール設定でアイコンの画像を変更しようとしたら、TwitterやFacebookが選べるようになっていました。そこでTwitterを選んだら同じアイコンがすぐに登録できました。

山本:弊社ではすべてのコミュニケーションを「チャットワーク」だけで囲い込むのではなく、むしろ、今まで使い慣れたものや新しい機能をうまく連携させてより良いコミュニケーションにつなげることが大事だと考えていて、取りあえず今の時点では、SkypeやFacebookといった他のサービスとの連携をできるようにしています。その一つに「通話」機能があります。今のところ「チャットワーク」単体での音声やビデオチャットの機能はないんですが、「通話」ボタンをクリックすると、Skypeのアカウントを登録しているユーザーの一覧が表示されて、Skypeから通話ができるようになっています。

他にもサービスの連携としては、アカウントにTwitterやFacebookの登録があれば、ワンクリックで見られるようにしていますが、それ以外にも、タスク管理については、Googleカレンダーと同期したり、マイタスクは別途できるようにしたりといったことを考えています。また、チャットだとタイムラインの情報量は増えてくるので、有料版のみですが近日中に横断検索の機能を追加します。検索は他のSNSサービスもそれほどよくはないと感じているので、この点については今後力を入れていくつもりです。そうそう、大事なこととしては、スマートフォンへの対応を進めていて、iPhone版については早々に公開される予定です。

※iPhone版についてはギズモード・ジャパンにて先行レビューを掲載しています。


編集部:まだ正式サービスが始まったばかりということで、活用方法も今後は提供されるということですが、今までにこんな使い方をされているという例があれば教えてください。

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山本:弊社の社長が講演を行う時に「チャットワーク」のデモを必ず行うようにしているのですが、参加者の方々に招待状を出して「チャットワーク」を使ってもらい、講演の質問を受け付けるといった使い方をしています。また、会社で続けてるイベントに「IT飲み会」というのがあるんですが、イベント終了後も参加者同士が交流できるよう4回以上参加した人をグループに招待しています。

そこではタスクリストを使ってオススメのお店の紹介をしたり、時にはビジネスを依頼するといったこともあります。他にも使い方としては、β版利用者を対象にしたグループを設けてサポートをしたり、機能修正のタスクリストを設けたりといった使い方をしています。

編集部:今後、こんな使い方をしてみたらいいのでは? というアイデアというか希望はありますか?

山本:「チャットワーク」は制作案件の進行管理に向いていると思っているので、そうした使い方の例が増えるといいですね。また、社内ツール以外に、プロジェクトごとに外部の人たちと協力して作業を行う必要があるフリーランスの方たちにも使ってみていただいて、追加して欲しい機能などを提案していただき、できる限りいろいろな可能性にチャレンジしていきたいと考えています。


編集部でも実際に作業に「チャットワーク」を使ってみましたが、チャットとメールのいいトコ取りをしているだけあって、かなり使えそうな感じはしました。すでにメール代わりにTwitterのダイレクトメッセージやFacebookのチャット機能を使うといったニーズも浸透しつつあるので、それに次ぐ新しいコミュニケーションとして定着する可能性はあるかも?! まずはみなさん自身が「チャットワーク」を試してみて、その可能性があるかどうか判断してみてはいかがでしょうか。

チャットワーク

(野々下裕子)