仕事がうまくいかない、家庭で揉め事があった、将来を考えると不安になる…われわれは、こうしたちょっとしたことでネガティブな感情に陥りがちです。
この感情はうまくコントロールできないのでしょうか?
今回は、『ネガティブな自分のゆるし方』(クロスメディア・パブリッシング)の著者である、一般社団法人日本メンタルアップ支援機構の代表理事・大野萌子さんに、そのヒントを伺います。
実は大切な「ネガティブ感情」
――自己肯定感という言葉が流行してから、ネガティブな感情は良くないとされています。これについて、どうお考えでしょうか?
実は、ネガティブな感情は大切です。それをなくそうとがんばるとかえって強化されてしまうこともあります。そして、感情が鈍麻して、結局はポジティブな感情も薄くなってしまうのです。
そもそも感情には、ポジティブとかネガティブの線引きはなくて、自分で良いもの、悪いものと区分けしているだけなのです。また、ネガティブな感情も、視点を変えれば、成長を促す原動力にもなります。
ネガティブな感情を悪いものとみなすから、そうなったときに追い詰められた気持ちになるのです。もし、その感情が湧き上がったときは、まずは「こういう気持ちになっているのだな」と受けとめることが大事です。
過度なネガティブ感情の回避術
著書には、ネガティブ感情との付き合い方だけでなく、不必要ともいえる過度なネガティブ感情の回避術も書かれています。そこで、ビジネスパーソンが陥りやすいケースごとの対策について伺います。
上司からキャパオーバーな要求があった場合
――たとえば上司からキャパオーバーな要求があって、気持ちが沈みこみそうな場合はどうすべきでしょうか?
まず、上司に自分の現状を伝えるのが大事です。
上司は、多忙であると知らず、どんどん仕事を振っているのかもしれません。ですから、こういう理由で今のキャパをオーバーしていると伝えましょう。そこから話し合って、締め切りを1週間延ばすとか、話が発展していくはずです。
特に若手だと、上司の言うことは絶対に従わなくてはならないと考えている人は多いですね。ですが、これは勝手な思い込みです。現状を話すことは、無下に仕事を断るということではありませんので、まずはしっかりとコミュニケーションをはかるようにしましょう。
仕事のモチベーションが高まらない場合
――仕事のモチベーションが高まらずにネガティブな感情に陥ってしまったときは、どうすればよいでしょうか?
モチベーションは、最初からあるとは限りません。小さな目標を立て、小さな成功体験を積み重ねた先にモチベーションが湧くことも多いです。
最終的な大目標だけを念頭に置いてしまうと、そこまでの時間・労力を考えただけで嫌になってしまいがち。モチベーションも湧かないでしょう。
実は、行動とモチベーションは連動しています。とにかく動きはじめると、やる気も出てきます。それも、現在地からかけ離れたことではなくて、「これだったから、すぐにできるだろう」というタスクを自分なりに設定し、それをクリアしていく感覚でこなします。これだけでも、達成感や自己肯定感につながって、モチベーションも上がります。
ちなみに、モチベーションには外発的なものと内発的なものがあります。
外発的なモチベーションとは、これをやったら報酬がもらえる、賞賛を得られるなど、それを目的にして何かをすることです。この場合、報酬や賞賛がマンネリ化したり、なくなればやる気も失います。
対して、内発的なモチベーションは、外部の要因に左右されず、楽しさや達成感など自分の中から湧き上がってくるやる気です。日常業務の中で、内発的なモチベーションが湧くものを増やしてみましょう。
またもう1つの視点として、モチベーションが湧かないのは、単に必要に迫られてない可能性もあります。そのタスクは、実は必要ないとわかったなら、省いてしまってはいかがでしょうか。あるいは必要であっても適任の同僚や部下がいるなら、任せるのも手です。
思うように成果が出せない場合
――モチベーションはあるけれど、思うように成果が出せなくてネガティブな気持ちになってしまっている人に、何かアドバイスはありますか?
10代からスマホになじんでいる若手ほど、成果が出ないとすぐにめげてしまう傾向がありますね。スマホなら疑問点の答えがすぐ出るから、仕事にもその素早さを求めてしまうのでしょう。仕事は、すぐ結果が出るものではないのを認識するのが第一歩です。
また、違った方向に努力のエネルギーを注いでいる可能性も。そうなるとがんばっているのに結果は出ないで消耗していく一方です。ある程度の試行錯誤は必要ですが、成果が出ないままなら、思い切ってやり方を変えることもまた大事です。
「愚痴る」のは意外と効果的
――大野先生ご自身が、ネガティブな感情に囚われたときに実践する対処法を教えてください。
私は、ネガティブな感情が起きやすいタイプです。ですが、冒頭でも申し上げたように、その感情を否定しないでネガティブに思い続けることにしています。
実はこれが、そこから一番早く逃れられる手段なのです。何かで気を紛らわせようとするのではなく、きちんとその感情に向き合うことです。
もう1つは愚痴ることです。もやっとした気持ちを言語化することには、心の浄化作用があります。ただし、愚痴る相手は選びましょう。あとになって、「あの人に、あんなことを言わなきゃよかった」とならないよう、愚痴の内容とはまったく関係ない人にしゃべるようにしています。
あともう1つ効果的なのは、あえてダラダラと無為に過ごすことです。何もしない時間は、ネガティブな感情を和らげていくものです。
大野萌子
一般社団法人日本メンタルアップ支援機構代表理事。公認心理師/2級キャリアコンサルティング技能士/産業カウンセラーの資格を持ち、官公庁や企業などでカウンセリング、講演、研修に携わる。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)、『ネガティブな自分のゆるし方』(クロスメディア・パブリッシング)など多数。『世界一受けたい授業』など、TVにもたびたび出演している。