あなたが20代半ば〜30代なら、人生でも最悪の時期を過ごしているかもしれません。アイデンティティーの混乱、間違ったゴール設定、希望の減退...。なかには私のように、喪失感や不安、パニックを感じている人もいるでしょう。「クオーターライフクライシス」とは、人生の4分の1が過ぎた時に訪れる幸福の低迷期のことです。
もし、今のあなたがこの時期にいるなら、あなたはひとりではないし、苦しみを減らすためにできることはたくさんあります。
私のクオーターライフ・クライシス
私が戦っている怪物には頭がたくさんあります。正しいキャリアを歩んでいるだろうか...。あの仕事を辞めるべきではなかったのでは...。将来、自分のキャリアに満足できているだろうか...。こんな疑問がいつも脳内を駆け巡っています。私は高校を卒業してから、IT関連、警備員、大工、金の採掘、ショップ店員、レストランの店員、プロの俳優まで、さまざまな分野で10以上の仕事に就いてきました。
現在はライターをしていて、仕事は気に入っていますが、これが正しいキャリアなのかはわかりません。この1年半のうちに、新しい街に引っ越し、4年続いた恋愛を終わらせ、アパートを3つ変えました。変化を起こすたびに、鏡を見ながら自分に問いかけてしまいます。「俺はいったい何をやっているんだ?」 本当なら今ごろ、「今週の夢の仕事人」になっているはずなのに...。とてもじゃないですが、思い通りの人生を生きてきたとは言えません。
若さが指の間からこぼれ落ちていくような焦燥感を覚える一方で、早く大人としての安定を手に入れたいとも痛切に感じます。ときどき、身がよじれるような恐怖や不安が襲ってきます。とにかく、「大丈夫」な状態になりたいと、息苦しいほどに願っているのに、どうなれば「大丈夫」なのかはよくわかりません。ただ、そう感じているのは私ひとりではないことはわかります。この怪物は「クオーターライフ・クライシス」と呼ばれ、多くの若者にとって非常にリアルに感じられるものです。
あなたも私と同じ感覚に苦しんでいるなら、人生のこの時期がなぜこれほど荒れるのかを理解することが、助けになるかもしれません。Happifyのチーフ・データサイエンティストで、『Ride of Your Life: a Coast-to-Coast Guide to Finding Inner Peace』の著書でもあるラン・ジルカ氏は、世間が20代後半から30代前半の若者をどう扱っているかに原因があると話します。あなたが、学校を卒業したばかりか、社会人になったばかりの人だとします。一人暮らしをして、初めて経済的な自立を果たしました。しかし、あなたがこれほど頑張っているのに、世間からは矛盾したメッセージが送られてきます。年配の人々はあなたを「子供」扱いし、大人として認めてくれません。見下されている感じさえするかもしれません。
世間から一人前の大人として扱ってもらえないなかで、「本物の」大人に移行していくのは簡単ではありません。「詐欺師症候群」のような症状が現れてくることもあります。ジルカ氏が言うとおり、早く本当の大人にならなくてはと焦り続けている状態から抜け出せなくなるのです。そして、無理をしてあれこれ手を出し、ことごとく失敗するはめになります。
心理学者が語るクオーターライフ・クライシス
グリニッジ大学のオリバー・ロビンソン博士は、論文『Emerging adulthood, early adulthood and quarter-life crisis: Updating Erikson for the 21st Century』の中で、人生のこの時期を5つのフェーズに分けることができると語っています。
- フェーズ 1:仕事、恋愛、あるいはその両者において、自分がした選択のせいで、閉じ込められてしまったように感じる。いわゆる「自動操縦」状態。
- フェーズ 2:「ここから抜け出さなければ」と感じ始め、思い切って飛び出せばなんとかなるのでは、という思いが募ってゆく。
- フェーズ 3:仕事を辞めたり、恋愛関係を終わらせたりして、自分を閉じ込めていたと感じるものと決別する。あらゆるものから距離を置き、自分が誰であり、何をしたいのかを見つけるための「タイムアウト」状態に入る。
- フェーズ 4:ゆっくりと、だが着実に、人生を再建し始める。
- フェーズ 5:自分の関心や目標に合致したことに、熱意をもって取り組むようになる。
多くの人は出口を見つけ、ポジティブな心理状態へと移行していきますが、このどっちつかずの時期は苦しく、混乱するものです。ジルカ氏によると、ここ30年を見ると、鬱が始まる平均年齢が、40代後半から、20代中盤へと徐々に若年化しているそうです。心理学者たちは、その原因の1つにクオーターライフ・クライシスがあると見ています。
追い打ちをかけるようですが、ロビンソン博士によると、このジレンマはあるタイプの人に特に顕著に現れるのだそうです。それは、意欲のある人です。もしあなたが成功を追い求め、実現したいアイデアがあり、人生のある時点までにある目標を叶えたいと思っているなら、クライシスに陥る可能性はかなり高いと言えます。あなたが大志を抱いた努力家だからこそ、失望と混乱の渦に巻き込まれてしまうのです。きっと心当たりのある人はたくさんいると思います。
あなたが経験していることは完全に正常です
私はいつも、自分だけじゃないと思うことで助けられてきました。『All Groan Up: Searching for Self, Faith, and a Freaking Job!』の著者であるポール・アンゴン氏が言うとおり、20代後半でこのクライシスを経験することは、ステーキやチーズブリトーを食べた後に、おならが出るのと同じようなものです。つまり、基本的に避けられるものではなく、誰にでも起こるということです。
いま幸福そうに見え、成功している人たちも、同じようなクライシスを経験しています。たとえばあなたの両親も、あなたがいま経験していることをかつて経験したはずです。私も、父が20代後半の頃にどうだったのかという話を聞いてから、気分が落ち込むことが少なくなりました。父も私と同じくらい混乱し、ストレスを抱えていたそうですが、それを乗り越え、今では良好な状態に達しています。多くの人は、自分が成功することは最初からわかっていたと言いたがり、かつては葛藤に苦しんでいたことを話したがりません。しかし、実際はそうではないのです。ワシントンD.C.の心理学者、ネイサン・ゲラート博士は、同じ体験をしているであろう友人たちと話し合うことを勧めています。
行き詰まりや惨めさを感じたときにまず最初にすべきなのは、友人たちと話し合うことです。私も20代の頃、同じような苦しみを経験していました。友人と話すことで、そのとき自分が感じていた「みんなから後れをとっている」という感覚が間違いだということがわかりました。
友人たちとこの話をすると、いつも同じ結論に行き着きます。人生に何を望むのかはわかっているのに、それがいつ、どのように手に入るのかがわからない、だから苦しいのだということです。しかし、こうやって話し合うことで、ひとりではなくチームで戦っている気分になれます。また、成熟した大人たちのなかで迷子になっているのは、自分だけではないことがわかります。ゲラート氏は、仕事とは無関係の、信頼できる人にメンターをお願いすることを勧めています。あなたがどれほど混乱していても、そう感じているのはあなただけではないのです。数え切れないほどの人が同じ経験をし、乗り越えています。あなただってできるはずです。
この嵐を利用してEQを育てる
臨床心理学者のジェフリー・デグロート博士に、この人生の難局を乗り越えるコツを伺ったところ、博士は、このタイプのクライシスの本当の原因は、周囲にではなく自分の中にあるのだと説明してくれました。この問題を解決するためには、自己成長に取り組み、ストレス状況に対処する方法を学ぶとよいとのこと。「こころの知能指数:EQ」の大切さはよく知られていますが、このような脅威にさらされたときに最も力を発揮するのもこのEQです。最近、学術誌『Psychological Perspectives』と『Emerging Trends in the Social and Behavioral Sciences』に掲載された研究でも、この移行期間をくぐり抜けるのに最も有効なスキルがEQであることが示されています。EQは、自制心を失ったり、感情を暴走させることなく、自分の感覚と向き合うことを助けてくれます。
研究者たちは、感情をコントロールする能力は年齢や経験に比例して身につくものだが、集中して取り組むことで、そのプロセスを早めることができると話しています。自分が何を感じているか、周りの人や環境に自分がどう反応しているか、について、より自覚的になることから始めてください。うまくいかないときは、日記をつけて、考えていることや感じていることを書き出すとよいでしょう。私自身、こうやって考えていることを書くことでかなり助けになっています。自分がどんな言葉を使っているかに気づくのも大切です。自分の言動と、それが他人に与える影響に注意を払ってください。あなたはどんな言葉を使っていますか? もし自分にその言葉が向けられたとしたら、どんな意味に受け取りますか? 困難な状況に身を置き、自分がどう対処するかを見てください。人生を健全な目で見つめ、自己を哀れむのをやめ、感謝することのパワーを活用してください。誰にでもストレスはありますが、心を落ち着かせ、すでに受けている恩恵に感謝をすることで、人生は捨てたものじゃないと思えるようになります。自分と自分の感情を同一視しないこと。今、混乱しているからといって、それがあなたのすべてではないし、将来もずっとそうだというわけでもありません。
自分を閉じ込めていると思うものと直接向き合う
人生のこの時期を避けて通れないのと同じく、向き合うべきものと向き合わずにやり過ごすことはできません。ロビンソン氏の言うとおり、クライシスの各フェーズを理解し、受け入れ、核となる問題と向き合うことで、解決プロセスを始めることができます。クライシスの最初のフェーズの特徴は、「閉じ込められた」という感覚です。まず、何が自分を閉じ込めているのかをはっきりさせ、それに取り組む必要があります。デグロート氏は、人生に大きな変化を起こそうとする前に、今不満を感じていることにしっかりと向き合うようにとアドバイスしています。
混乱、不安、意欲の減退を感じている20代の若者たちと話してみると、その多くが、大きな変化を起こせば、人生の目的が見つかり、心が落ち着き、やる気が湧いてくると信じていることがわかる。大きな変化とは、配偶者や恋人と別れる、転職する、別の街に引っ越しするなどのことだ。そうした変化により、有害な環境から抜け出せるケースもあるが、たいていは、変化を起こした後も苦しさはなくならない。
ですので、仕事を辞めてしまう前に、今の仕事を最大限に活かすことを考えてください。もし、これ以上は前に進めないと感じるなら、デグロート氏が言うとおり、ほかの職種を検討してみます。職務内容を確認したり、その職種に就いている人と話したり、マネージャたちにアドバイスを求めてみるとよいでしょう。今いる業界自体が向いていないと感じるときは、いきなり違う業界に飛び込む前に、副業やボランティアをして、肌が合うかどうかを試すようにと、ブログ「Ms. Career Girl」の筆者、ニコール・クリマルディさんは話しています。たとえば、私は、会社の休憩時間に、ブログを書くことから始めました。最初は趣味だったものが、フリーランスの仕事をするようになり、今ではそれで生計を立てるまでになりました。
愛している人との関係に行き詰まりを感じるときは、別れ話をする前に、原因となる問題を解決できないかを探ってみます。デグロート氏は、たいていの場合、問題は自分自身にあり、自分が行動を変えることで前向きな変化が起こせるのだと話しています。たとえば、ガールフレンドが家に引きこもりがちなタイプで、あなたが友人と出かけたり、何が自分の好きなことをしようとすると、いつも嫌がらせをすると感じているとします。デグロート氏は、それは、あなたが独りよがりになっているだけであり、いきなり別れを切り出す前に、自分の気持ちをはっきりと伝え、自分のしたいことをするべきだと言っています。もちろん、どうしても解決できない問題もあります。できるだけの努力をした後でなら、いつ関係を終わらせ、前へ進めばいいかがわかるでしょう。
また、新しい街にいきなり引っ越したりする前に、入念な調査を行い、「隣の芝は青い」症候群に陥っていないかを確かめてください。さもなくば、事態はさらに悪くなる可能性があります。自分を閉じ込めているものの正体がわかれば、フェーズ1からフェーズ3にすみやかに移行し、人生を再建し始めることができます。
他人の人生と比べない
自分を他者、特に目に見えて成功している人たちと比べ過ぎないことも重要です。私はいつもこの罠に落ちてしまうのですが、同じ年や自分より若い人が、自分より成功していることを気にするほど、気分を落ち込ませることはありません。
FacebookやInstagramに投稿される写真を、うらやみながら見て回るのはやめてください。そうしたものは、人生の良い場面だけを集めたものに過ぎません。自分と同年代の、ドキュメンタリー映画に出てくる有名人や、オリンピックのメダリストたちと比較して、自分はまだ何もできていないと落ち込む必要もありません。そうした成功談が自分のモチベーションにならないときは、シンプルに距離を置くようにしましょう。また、友人たちがみんな結婚しているからといって、「運命の相手」を探さなければと思い詰める必要もありません。私もかつては妻を運命の人だと思っていましたが、離婚した今となっては間違った選択だったと感じています。
誰もが自分だけの人生を歩むのであり、他人の人生を気にする前に、自分自身の人生に集中しなければなりません。デグロート氏は、人生のこの時期は、他人があなたに期待することではなく、あなた自身が何に関心があるかをはっきりさせていくプロセスなのだと話しています。他人の期待はできるだけ早く手放すほうが人生はスムーズになります。
非現実的な期待を抱かず、実行可能な計画を立てる
残念ながら、ロビンソン氏とジルカ氏によると、クオーターライフ・クライシスのフェーズは、20代から30代にかけて何度か繰り返されることもあるそうです。ですので、フェース4の再建フェーズまで到達したら、同じ過ちを繰り返さないようにすることが重要です。非現実的な期待を持たないようにしてください。夢を諦めるべきではありませんが、実現可能で柔軟な夢にしてください。「こんな人生を送っているはずじゃなかった」と考えるのはやめ、「今はこれでいいのだ」と考えましょう。私の経験では、ここが一番難しいところです。現状を受け入れることができれば、状況はかなりましなものになります。
今あなたは人生の移行期間にいるのであり、浮き足立たないようにすることが重要です。すべての問題をただちに取り除くことなんてことはできません。根気よく構え、現実的で達成可能なゴールを設定してください。たとえば、あなたが学生ローンを抱えているなら、着実な返済計画を立てることに集中してください。いつか大金が儲かり、すべてを帳消しにできる日が来るなどという幻想は持たないように。この、最大のストレス源を、堅実で実行可能な計画を作ることで乗り越えられれば、将来、同じようなクライシスに見舞われたときにも冷静さを失わずにいられるでしょう。大人への移行期間はつらいものですが、その期間がなければ人生はもっと悪いものになってしまうのだと私は思います。
Patrick Allan(原文/訳:伊藤貴之)
Illustration by Sam Woolley. Photos by Boudewijn Berends, Nicola Sap De Mitri, Heath Cajandig, Aditya Doshi, Steven Pisano, and Gareth Thompson.