かたや、外資系広告エージェンシーでストラテジック・プランナー(アカウント・プランナー)を務めてきた人物。そしてもうひとりは、豊富な経験を持つクリエイティブ・ディレクター。『売れる広告 外資系プロフェッショナルのグローバルメソッド』(前田環、伊東紅一、朝日新聞出版)は、バックグラウンドの異なるふたりの著者による広告指南書です。

左脳的な戦略的考察と右脳的な創造的跳躍。それぞれを専門とするプランナーとクリエイターという、まるで水と油のように性格も発想も異なるふたりが共同執筆することで、ブランドのコミュニケーション戦略からクリエイティブへの跳躍までの一連の思考フローを、どちらかに偏ることなく一気通貫して理解できるように配慮しました。(「PROLOGUE はじめに」より)

著者によれば、プランナーとクリエイターがそれぞれの専門性を基盤として、対等な立場で協力しながら広告コミュニケーションを開発していくのは、外資系の最大の特徴。そして著者ふたりは複数の異なる外資系広告エージェンシーで働いてきた経験を生かし、外資流の戦略プランニングとクリエイティブ開発のアプローチについてわかりやすく解説しているのだそうです。

その一例として「PART 1 戦略 ロジックパートーーコミュニケーションの基本戦略を立てる」のなかから、プランニングについての基本的な考え方を抜き出してみましょう。

プランニングの基本は4つのステップ

ブランドのコミュニケーションを考える際、「いったいどこから手をつけたらいいのかわからない」と困惑した経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

たとえば、「あるブランドは評判がいまひとつで、結果として売り上げも目標に届かない。とにかくさまざまな問題がありそうだ」という場合。「問題はなんなのか」「なにをどうしたら状況がよくなるのか」などと思いを巡らせているうちにマーケットの環境が変化し、さらには競合ブランドが目立つ動きをしたため、対抗策も考える必要に迫られるというようなことも。

同時に数多くのことが頭に浮かぶあまり、焦ってしまったりすることは珍しくないわけです。そんなときに大切なのが、「シンプルなプランニングの4つのステップ」。

ステップ1:現状分析

ステップ2:目標設定

ステップ3:アイディア開発と実施プラン

ステップ4:実施プラン評価

(18ページより)

これら4つのステップはつながっていて、ステップ4「実施プラン評価」が、その時点での現状分析へとつながっていくのだといいます。

しかし、これはブランド・コミュニケーションのプランニングだけに当てはまるものではなく、自分自身の今後の人生やキャリアのプランニングにも適用できると著者。たとえば、仕事や恋愛での悩みや失敗は、「なぜそうなったのか」を分析することからはじめれば、将来を変えるきっかけになるわけです。

つまり、なんにせよ、ステップ1の「現状分析」からはじめることが大切だということ。そんな考え方を軸として、各ステップの要点を見ていくことにしましょう。

ステップ1:現状分析

現状分析の目的は、「ブランドはいまどこにいて、なぜそこにいるのか」を理解すること。そして分析は、4つの「C」の視点で行うと見落としがないといいます。

Culture(カルチャー) ブランドをとりまく社会状況はどうか。

Category(カテゴリー) ブランドが所属するカテゴリーやマーケットの現状はどうか。

Company(カンパニー) ブランドを所有する会社やブランド自体の資産(歴史やストーリー、ブランドが象徴することなど)は何か。

Customer(カスタマー) ブランドに興味を持ってくれる人々やブランドが影響を与えられる人々はだれか。

(19ページより)

まずは、これらの4Cの視点によって、ブランドの現状を書き出して整理。この時点では思いつくものをなんでも書き出すほうがよいそうですが、とはいえ並べることが目的だというわけではないそうです。大切なのは、ステップ2「目標設定」へのヒントを見つけるために、4Cを活用しているという意識を持つこと。

ステップ2:目標設定

目標設定の目的は、現状分析から「ブランドはどこへ行けるのか、行くべきなのか」を決定すること。ブランドをとりまく社会がどちらに向かって変化していくのかを予測しつつ、ブランドの持ち味や強み、誰をターゲットにできるのか、なにを訴求すべきなのかを決定していくわけです。

他のブランドと同じようなスタイルでは差別化できないからこそ、ブランドの中身を吟味し、他にはない、そのブランドならではの潜在的な特長を見つけ出すことが必要となってくるということ。しかもそれは、対象となる人々が求める希望や憧れ、安心などなんらかの気持ちに応えていくことが必要。

(21ページより)

ステップ3:アイディア開発と実施プラン

目標設定の段階で、「誰に対してなにを訴求していくのか」を明確にしたら、次に考えるべきは「どうやってそこに行くのか」。クリエイティブ・アイディアを開発し、実施するためには、どんな方法をとればよいのかを検討するのです。つまり、「どんなメディアを活用するか」「新たにメディア自体を創出するのか」「いつ実施するのが最適なのか」などをプランするということです。

(22ページより)

ステップ4:実施プラン評価

実施プラン評価の目的は、「ブランドはそこにたどり着きつつあるのか」を確認すること。現状分析から目標を設定し、目標に到達するためのアイディア開発を行って実施したあと、「果たしてコミュニケーションは、プランどおりに効果を発揮しているのか」を確認するわけです。また、新たな問題点を見つけ出し、次の手を打つことも目的となるのといいます。このようにステップ4のプラン評価は、ステップ1の現状分析につながっていくわけです。

(23ページより)

実施プラン評価の方法

なおコミュニケーションの観点から見ると、実施プランにはいくつかの評価方法があるのだそうです。

1. 広告評価

意図した内容どおりに人々に受け止められたか。また、人々は広告を見ることで、ブランドの製品やサービスにより興味を持ったのか。購入につながる何らかのアクションをとったか。

2. ブランドイメージ評価

広告などの複数のコミュニケーションを通して、意図したとおりにブランドイメージが人々のなかで形成されてきているか。ブランドに好意や愛着を感じているか。

(24ページより)

多くの外資系クライアントでは広告評価について、広告を実施する前に定性調査(調査対象の人数を絞り、直接質問していくことで意図や真意を深く探る)や定量調査(調査対象を100名以上集め、共通のアンケート項目を用意して回答してもらう)を行い、当該ブランドの製品・サービスについて、メッセージが意図どおりに伝わっているか、内容をシェアしたくなるか、商品を買ってみたくなるかなどを確認するケースが多く見られるそうです。

ブランドイメージ評価については、「ブランドがどのように人々に受け止められているのか」を呈示したさまざまなキーワードから選んでもらったり、自発的に人々に発言してもらう事によって判断するのだそうです。定性調査、定例調査のどちらでも評価は可能ながら、ブランドを中投機的に観察していくためには定量調査でイメージ項目のワードを揃えて行うことが、よりトラッキング(追跡)をしやすくするのだといいます。


たとえばこのように平易な表現によってわかりやすく解説しているため、広告のあり方を無理なく理解することができるはず。情報や通信のテクノロジーが劇的に変化し続ける時代だからこそ、読んでおく価値があるといえそうです。

(印南敦史)