「十分な睡眠がとれなくて、思うようにパフォーマンスを発揮できない」
「寝不足で、頭がボーッとする」
そんな経験は、誰にでもあるはず。生活が不規則だったり、あるいは悩みを抱えていたりすると、どうしてもそうした状況に陥ってしまいがちです。
そこでおすすめしたいのが、『スタンフォード大学で学んだ睡眠医学の専門家が教える 寝不足でも結果を出す全技法』(西多昌規著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。スタンフォード大学医学部睡眠・生体リズム研究所客員講師である著者が、寝不足の状態でも結果を出すためのさまざまな方法を紹介したものです。
日常的に陥りがちな寝不足はもちろんのこと、人生においてどこかで、睡眠時間を多少削ってでも自分のやりたいことに打ち込んで勝負を賭けなければならない時というのは、必ずあるのではないでしょうか。(中略)そこで、この本ではあえて寝不足も必要悪と捉えたうえで、寝不足でも極力健康を害さず、ハイパフォーマンスを発揮するための方法を提案することに挑戦しました。(「はじめに」より)
寝不足になりがちな社会の構造を、根本から変えていくのは現実的に困難。ならば寝不足から目を背けず、それに打ち克つための秘訣を考えようということ。
ところで多くのビジネスパーソンにとって、「午前中の時間帯をいかに有効に使うか」ということは重要なポイントであるはず。そこできょうは、1時間ごとの具体的なメソッドを紹介した「Program 1 時間帯ごとにベストパフォーマンスを生み出す」から、午前中に結果を出すための技術を抜き出してみたいと思います。
午前7時 太陽の光を体いっぱいに浴びる
人間の体内時間は、地球ときっちり同じ24時間ではなく、(個人差はあるものの)24時間より10分か20分ほど長いことがわかっているのだそうです。そして寝不足気味の朝は、体内時計がまだ眠りについている状態。そこで、本当はまだ眠っていたい脳と体を、無理にでも起こさなければなりません。
著者によれば、体内時計をオンにして、脳も体もいち早くシャキッとさせる最良の方法は、朝に太陽光を浴びること。体内時計のマスタークロックである「視交叉上核(しこうさじょうかく)」という場所が目の後ろ側にあるため、そこが光を感知して体内時計をリセットするというのです。
ちなみに浴びる光は太陽光であることがポイント。部屋の照明程度の明るさでは、体内時計はなかなか目覚めないというのです。具体的には、部屋のなかでは電気をつけても光の強さは1000~2000ルクスですが、夏の太陽光は10万ルクスもあるのだとか。太陽光の明るさは桁が違うわけです。
また朝だけでなく、日中も太陽光の入る明るいところにいるのが、寝不足を克服するコツ。窓際をキープしたり、たまに屋外に出るなど、日光を浴びることで寝不足によるパフォーマンスの低下を防ぐことができるそうです。(14ページより)
午前8時 レモンジュースは欠かさずに
寝不足の朝は、あまり食欲がわかないもの。でも著者は、「寝不足の朝でも、栄養のためにたっぷり食べなさい」というつもりはないそうです。ただでさえ疲れている内臓に大量の食べものを消化させようと無理をさせると、体調を崩してしまうことになるから。
ただし、ここで忘れるべきでないのは、脳だけでなく、胃や腸、肝臓など内臓の細胞にも、それぞれに体内時計があるということ。つまり内臓の体内時計を目覚めさせるためには、適量の朝食を食べる必要があるということです。
したがって、寝不足の1日を乗り切る朝食メニューとして、できるだけ必要な栄養素を少量だけとることが重要。シリアルやナッツ、バナナなどのフルーツがおすすめだそうです。しかし、気持ち悪すぎてそれすらも食べるのがキツいという場合は、柑橘系ジュースを飲むだけでもOK。
ビタミンや糖分が含まれているだけでなく、柑橘類には脳を覚醒させる効果があるからです。特にレモンには脳を覚醒させる効果があるので、レモンジュースは朝だけでなく、眠気がピークになる昼間にも有効だといいます。(16ページより)
午前9時 起きてから2時間後にすべきこと
朝食の後に1杯のコーヒーを飲む習慣がある人は少なくないでしょうが、実際、コーヒーに含まれるカフェインに覚醒作用があるのは有名な話です。疲れて眠くなると脳内でアデノシンという物質が増えていくそうなのですが、カフェインはアデノシンの作用をブロックするため、眠くなくなり目がさめるわけです。
ただしカフェインには依存性があるので、飲みすぎは体に毒。また、多く飲みすぎると効果が次第に薄れてくるので、1日に摂取できるカフェインの量は限られていると考えたほうがいいそうです。だとすれば、その目覚まし効果は、寝不足状態をなんとかしたい朝にこそ使うべき。
カフェインは、口に入ってから1時間以内に99%が吸収されるといいます。そして15分から2時間ほど経つと、血液中のカフェイン濃度が最大に。つまり、カフェインの効果が続く時間は、摂取後およそ2~4時間と考えるべきだということ。そこで午前中にカフェインの効果を持続させるためには、午前9時頃に飲むのがベストだというわけです。
なお、コーヒーを飲むにあたっては注意点が2つあると著者。ひとつ目は、空きっ腹に飲まないこと。空腹でコーヒーを飲むと、脳神経のひとつである迷走神経がカフェインで刺激され、胃酸が出やすくなり、胃が荒れてしまうというのです。そしてもうひとつは、砂糖やクリームを入れすぎないこと。肥満やコレステロールが高くなる危険性があるだけでなく、血糖値を急激に上げてしまうと、やがて急激に下がることになり、脳にも体にも負担になるからです。(18ページより)
起きてから1~~2時間後に、大事な仕事を完成させる
「朝はスッキリしているから、クリエイティブな仕事を」
「寝ている間に記憶が整理されているので、いいアイデアがひらめきやすい」
こうした話をよく聞きますが、このようなノウハウが有効なのは、質のいい睡眠を十分に取った翌朝の場合。寝不足の人はそういうわけにもいかず、ベストといえる状態からはほど遠いわけです。
とはいえ寝不足のときでも、目が覚めてから1~2時間経ったときは、いちばんパフォーマンスの上がる時間帯なのだといいます。そこで、このときに重要な仕事をひとつだけ片づけてしまうことが大切。
なぜ「ひとつだけ」なのかといえば、十分に眠ったときとくらべ、寝不足時はパフォーマンスの持続力がないから。あれこれやっていると、そのうちミスをおかしてしまう可能性が大きいということです。
そうでなくとも寝不足のときは、頭の回転が普段より落ちているか、逆に間違った方向に早くなっているのだそうです。その意味でも、なるべく大事な仕事や作業にしぼって行うべきだという考え方。そして大事な仕事をひとつだけ終えたら、次は日ごろやり慣れている作業から慣らしていくことがポイント。(20ページより)
午後0時 昼食には激辛のカレーを食べる
「寝不足のときにパフォーマンスを落とさない」ことの大前提として著者が強調しているのが、隙を見つけて仮眠をとること。それが、なによりの対策になるというのです。眠りが足りていない状態のとき、眠る以外の工夫には自ずと限界があるもの。したがって昼食のメニューも、仮眠をとるためにベストなものをチョイスしたいと著者は主張しています。
どうしても仮眠をとれない場合は別としても、もし少しでも仮眠をとれるなら、カレーをはじめとしたエスニック料理のような、スパイシーでひと汗かくものがいいというのです。「人間は、深部体温が急に下がるときに眠くなるものだから」だというのがその理由。赤ちゃんが眠りにつくときに皮膚がポカポカしてくるのも、熱が外に逃げて深部体温が下がっているとき。つまりは深部体温を上げることで、眠りやすくなるわけです。
そして深部体温を上げるためには、服を着たり毛布をかけたりするよりも、手っ取り早いのは食事。だから、汗が出るようなスパイシーな昼食が最適。ひと汗かくと、そのあと体温が自然に下がるため、仮眠に入りやすくなるというのです。
ですから反対に、仮眠をとらず、寝不足のまま午後も仕事に耐えなければならないときは、正反対のことをすればいいわけです。そういうときは、ざるそばや冷やしうどんなど冷たいものを食べるか、食後にアイスクリームや氷の入った飲みものなどを飲むといいということ。
とはいえ、仮眠をとるほうが健康にも仕事のパフォーマンスにとっても効果的であることは間違いなし。そう強調する著者は、昼食の直後(もしくは午後4時くらいまで)に、オフィスやカフェで15~20分ほどの仮眠を取れれば理想的だと記してもいます。(22ページより)
他にも「仮眠術」が具体的に紹介されていたり、あるいは寝不足の都市伝説を科学的に検証してみたりと、とても幅広く、そして奥深い内容。寝不足のデメリットから脱出するための第一歩として、読んでみるだけの価値はあると思います。
(印南敦史)