「mail」と言えば、頭に「G」をつけるのが当然となりました。「Gmail」はいまや、インターネット最強のメールサービスの1つとして広く知られるようになりましたが、Microsoftの「Outlook.com」もここ数年で、手強いライバルになれるほどの実力をつけてきています。今回の記事は、この2大メールサービスのガチンコ対決です。では両者の力量を見ていきましょう。

対決するのはこの2つのサービス

メールサービスは掃いて捨てるほどあり、その中で頭ひとつ抜け出しているのがいくつかあります。「Hotmail」がOutlook.comに移行してからは、GmailとOutlook.comが2大ウェブメールサービスとして君臨するようになりました。ユーザー数は2つ合わせると10億人を超えます。両サービスのメール管理に対するアプローチは似ているとはいえ、機能面では明らかな違いがあります。

  • Gmail:無料のオンラインメールサービス分野では、Googleが先頭を切ってきました。その始まりは2004年のエイプリルフール。「容量1GBの無料サービス開始だなんて冗談では?」と思っていたら本当だったという逸話があります。堅牢なフィルターやラベル、Googleの他サービスと15GBの容量をシェアできる点など、Gmailは、メールの機能について見直すきっかけを与えるのに成功しました。2015年5月現在、Gmailのアクティブユーザーは9億を超えています
  • Outlook.com:Microsoftは2012年、メールクライアント『Outlook』のウェブ版を新たにスタートさせました。その後は、Hotmailの全ユーザーをOutlook.comに移行させています。新生Outlook.comは、ほかでは見られない独自の機能を数多く提供。優先度の低いメールをひとまとめにしてくれる「低優先メール」や、受信トレイの「ルール」、Outlookカレンダーとの統合などです。Microsoftは、Outlookの容量を5GBまでとしていますが、「これはニーズに応じて徐々に調整または増量」されるそうです。Outlook.comは現在、4億を超えるアクティブユーザーを擁しています。当記事に関して注意点を1つ。簡潔にするために、当記事ではOutlook.comをOutlookと呼ぶことにします。ただし、厳密に言えば「.com」をつけないOutlookはデスクトップ用アプリです。Microsoftのネーミングはややこしいですよね。

比較のために、今回はメールクライアントそのものを見ていくことにして、知られていない隠れたサービスは特に取り上げません。技術的には、OutlookにGmailのメッセージをインポートすることもその逆も可能ですが、当記事では、それぞれのサービスが実際にどう機能するのかに目を向けていきたいと思います。

スタンダードセッターはGmail。それを追うのがOutlook

Gmailフィルターの便利さその使い道についてはこれまで広範囲にわたって紹介しており、フィルターはもう「あって当然」といった感じです。Gmailのフィルターは、メールを送信者や、件名ならびに本文内のキーワード、添付ファイル、サイズに応じて自動的に仕分けてくれる機能です。おかげで、メッセージを既読にする、ラベルをつける、定型文で返信する、削除する、などさまざまな作業を自動化できます。さらに、Gmailにはフォルダーの代わりにラベルとスターがあります。メールには複数のラベルをつけられるので、仕分けのシステムを自分の好みにぴたりと合わせて設定できるのです。また、スターを使えば、大事なメールを後で読めるよう別に取っておけます。スマートラベルの機能をオンにすれば、「金融」「旅行」といったラベルにも自動的に仕分けられます。

Gmailには優先トレイ機能もあって、重要だと思われるメールを自動で拾い出してくれます。メールの「重要性」は、送信者、開封するメール、頻繁にやりとりする相手、ならびにその他の条件から判断します。手作業でもメールに重要マークをつけられるので、Gmailの学習を助けてあげることも可能です。

Outlookのメール仕分けに対するアプローチはもう少し複雑です。まず、Outlookの場合、メッセージを仕分けるための主な手段はフォルダーです。初期設定では、左側のパネルにデフォルトのフォルダーが並んでいますが、それとは別のフォルダーを自分でも作成できます。ピン留め機能もあり、ピンがついたメールは必ずフォルダーの一番上に表示されます。Gmailのスターとまったく同じではないものの、かなり似た機能だと言えるでしょう。Outlookには「Clutter」という機能もあり、不要だと思われるメールを見つけ出してClutterフォルダーに移動してくれます。それにより、ジャンクメールを手早く一掃して大事なメールに集中できます。

Outlookではメールにカテゴリを追加することも可能です。これはGmailのラベルとほぼ同じような機能です。カテゴリを選択しておけば、それをそのまま仕分けルールの条件にもできます(ルールに関してはこれから説明しますね)。とはいえ、初期設定ではナビゲーションパネルにカテゴリが表示されません。カテゴリを表示させたいときは、歯車マークの「設定」>「オプション」>「カテゴリの整理」と進み、表示したいカテゴリの横の「フォルダーウィンドウに表示」のボックスにチェックを入れなければなりません。そうしておくと受信トレイがスッキリとして散らかりにくくなる一方、カテゴリの表示設定を見つけるのは面倒でした(カテゴリが見えないほうが良いなら話は別です)。それにひきかえGmailは、個別に隠さない限り、すべてのラベルが表示されます。

Outlookには、Gmailのフィルターに当たる機能もあります。それが「ルール」です(デスクトップ版Outlookからそのまま借りてきた名前です)。ルールを作成しておけば、閲覧時にメールをフィルターにかけられます。ルールの設定もカテゴリと同様、Outlookのオプションに隠れています。設定項目の多くはGmailのフィルターと同じですが、Gmailほどの頼りがいはありません。Outlookではたとえば、フィルターに応じて定型文を使った返信メールを自動送信できるよう設定することはできません。けれども、大部分において、ルールとフィルターはほぼ同じです。

無駄のないインターフェースのOutlookと、あれこれ選べるGmail

良く知られているように、GoogleはGmailのインターフェースをあれこれいじり回すのが好きなようで、ユーザーにはいくつかの選択肢が用意されています。ごく最近では、タブ形式の受信トレイ画面が登場しました。受信メールは種類別に、ソーシャルネットワークからのものは「ソーシャル」に、広告メールや注文確認、請求書などの自動生成メールは「プロモーション」に分類されます。この機能を思わぬ幸運だと思った人もいれば、即刻無効にしてしまいたいと思った人もいます。Googleはまた、Gmail用インターフェースの第三の選択肢である『Inbox』を試験的に提供しています。Inboxはメールを、片づけるべきToDoリストのように扱うため、読み終わったメールは「既読」ではなく「完了」とマークされます。後で読めるようメールをスヌーズしたり、関連したメッセージをバンドルしたりすることも可能です。Gmailでは、Inbox、タブ形式の受信トレイ、優先トレイ付きの通常のインターフェースという選択肢があり、メールの表示方法を複数のオプションから選べるようになっています。

Gmailでは、設定の「Labs」をクリックすると、「Gmail Labs:ちょっと変わったアイデアの実験室」という画面が開き、数々の実験的機能を設定して使えるようにもなっています。便利な機能がずらりと並んでおり、たとえば、メールを開かなくてもボタン1つで既読にできる「Mark as read」や、受信トレイ画面のままメールの中身を確認できる「プレビューパネル」、良く使う文章を入れた「返信定型文」などの設定が可能です。「Labs」には使える機能がたくさんありますが、それらは万人向けというわけではありません。2016年の今になってわざわざ有効にするまでもないような平凡な機能も中にはあります。

一方のOutlookは、必要最小限の3つのパネルデザインから変わっていません。左のパネルにはフォルダーとカテゴリが並んでいて、クリックするだけでナビゲートできます。真ん中のパネルには、選択したフォルダー内のメールが並びます。その中のメールをクリックすると、右側のパネルで中身を読むことができます。Gmail以外のメールクライアントを使ったことがある人なら誰でも、Outlookに親しみを覚えるでしょう。Outlookには、Gmailのようにインターフェースを大幅に変えられるオプションが数多くそろってはいませんが、それが必ずしも悪いことだとは限りません。Outlookでも、基本的な部分に手が加えることは可能です。たとえば、プレビューウィンドウの位置や、Outlookからのメッセージが表示される順番などは変えられるようになっています。

インターフェースについてもうひとつ。OutlookもGmailも、ともに広告が表示されます。ただし、表示のされ方が大きく異なります。Gmailの場合は、プロモーションタブ内に、ごく普通のメールのように広告が並びます。広告を非表示にするには、プロモーションタブを無効にするか、タブ形式を一切やめてしまうか、Inboxを使うかのいずれかを選んでください。Outlookの場合、広告は画面の端のパネルにバナー表示されます。広告を(除去ツールを使う以外に)ブロックするには、年間20ドル(日本では2520円)を払って広告なしのOutlookに変更するしかありません。ありがたいことに、Outlookではターゲット広告のためにメールをスキャンすることはないとMicrosoftは約束しています。

Gmailは拡張機能が少なく、Outlookは盛りだくさん

どんなメールクライアントであれ、単独では機能に限界があります。そこで、GoogleもMicrosoftも、多数のアプリケーションの力を借りてメールクライアントに拡張機能を直接組み込み、機能の強化を図っています。当記事ではややこしくならないよう、GmailやOutlookのタブから移動せずに直接使えるサービスに絞って紹介しましょう。とはいえ両社とも、たくさんの他社アプリケーションに簡単にアクセスできるショートカットがそろっているので、GoogleとOutlookのどちらを使うかの決断は、日ごろから使い慣れているアプリ次第という部分もありそうです。

Gmailでは、「ハングアウト」のチャットウィンドウは画面右下にパネルとして存在していて、チャットをしようとするたびにウィンドウがそのあたりに現れます。メールをチェックしている最中は最小化しておき、チャットに答えるときに開くことが可能です。また、ToDoリストは、左上の「メール」の横にある(タブ形式の場合は「Gmail」の横にある)下向き矢印をクリックすると開き、1日を通じて、基本的なタスクを作成できるようになっています。各タスクに関して、期限を設定したり詳細を記入したりできますが、できることと言えばその程度です。設定の「Labs」で「Googleカレンダーガジェット」を有効にすれば、1日の予定をぎゅっとまとめた「短縮」バージョンが左下に表示されるようになります。ダウンロードすることなくGmailに追加できる拡張機能はこの程度でしょう。

Outlookの場合は、Gmailのハングアウトの代わりに、Skypeでメッセージのやりとりができます。また、タスクを管理するためのカレンダーは、Outlookの左上の角にあるショートカットメニューから開きましょう。Gmailの小さなToDoリストと違い、Outlookならタスクに関する詳しい情報をもっとたくさん書き加えられます。そのタスクにかかる時間の記入や、アラームの設定、タスクへの「OneDrive」のファイル添付などができるようになっています。

それに加えて、Outlookには多数のアドインがあり、受信トレイの機能を拡張できます。たとえば、『Boomerang』を使えば、数時間あるいは数日後にメールをもう一度読むようリマインダーを設定できますし、『Evernote』ならノートブックにメールの保存が可能です。それ以外にも、Officeストアには100種を超えるアドインがあり、Outlookに新しい機能を追加することができます。

勝敗:Gmailはパワーユーザー向き、Outlookはオフィスで働く人向き

ウェブでメールを管理すると言ったら、これまではGmailが事実上の業界標準でした。Microsoftはデスクトップ版Outlookで善戦してきましたが、そのウェブ版が実力をつけてきたのはごく最近になってからです。今では、GmailとOutlookのどちらが優れているかと言われても、それぞれに長所があって、一概には判断できなくなりました。

メールクライアントにひたすら手を加えてあれこれ試すのが好きな人なら、Gmailが合っているでしょう。Googleは、メールの活用術を変えてしまうような、大胆で物議をかもす新たなデザインにも恐れることなく果敢に挑んできました。そういった実験的な取り組みが奏功することもあれば、失敗することもありましたし、好みは人それぞれです。新しいことが好きではない人でも、Gmailのベースとなっている便利なフィルターやカスタマイズ可能なラベル、自動仕分けは頼りになりますし、好きなように受信トレイをいじくりまわす楽しみがたくさんあります。

一方のOutlookは、合理的なワークフローを好む人や、仕事の生産性を向上させるアプリをたくさん使っている人にぴったりです。Outlookは、関連性と重要性がもっとも高いボタンを良く見える位置に配置していますし、やる気のあるパワーユーザーのためのオプションも隠されています。さらに、MicrosoftのほかのOfficeアプリだけでなく、BoomerangやEvernoteなどのプラグインとも密接に連携しています。生産性に関してはGoogleもなかなかのものですが、オフィス環境ではMicrosoftのOutlookがもっともなじみが良いようです。

Eric Ravenscraft(原文/訳:遠藤康子/ガリレオ)