きょうご紹介したいのは、『飛び抜けたアイデアを出す人がやっている ブレイクスルー思考トレーニング』(ひもとあやか著、日比野省三監修、日本実業出版社)。前例や先例を前提とした「普通」の思考法から脱出し、「飛び抜けたアイデア」や「突き抜けた発想」を得るためのメソッドを紹介した書籍です。
監修者は、1990年に世界的権威者として知られる南カリフォルニア大学のG.ナドラー教授とともに「ブレイクスルー思考」を発表して世界的に注目を集めたという人物。そしてブレイクスルー思考研究に従事、企業・行政・学会等での講演、研修の講師を務める著者が、その考え方をまとめています。
本書では、いかに賢く考え選択するかを意識的に行い、ブレイクスルーを可能にする賢い選択者たちを、「スマートセレクター」と呼び、彼らの成功の秘訣をご紹介していきたいと思います。(中略)もととなるのは、世界のリーダーたちに影響を与え続け、先進国のみならず、新興国・途上国のビジネス・行政の発展に貢献し続けている「ブレイクスルー思考」という考え方です。(「プロローグ」より)
スマートセレクターの「選択力」について解説された、第I部「『すごい結果』を生み出すための3つの選択力」をチェックしてみましょう。
第1の選択力 セルフメイド選択
上司、親、先輩、友人、歴史上の人物、著名人が、あるいは世間の同世代などがうまくやってこられたのならば、きっと安全に違いない。そのように考え、それを選択の決め手にしてしまうことは決して少なくないはず。ビジネスに置き換えてみれば、「競合他社がうまくいったのなら、きっとだいじょうぶだろう」というような発想にあたるものですが、これは著者の言葉を借りるなら「レディメイド選択」。
いうまでもなくレディメイドとは、もとは既製服を指す言葉。一人ひとりの体型に合わせてつくるオーダーメイドに対する、大量生産の服のこと。本書ではそれを、既存の選択肢、前例や成功があることが決め手となって選択することとして用いているわけです。
たしかに、誰かがやってうまくいったのであれば、それは手っ取り早くて安全なように思えるかもしれません。けれど、実はそこが落とし穴なのだと著者は指摘しています。なぜなら、そう感じる人は「違い」を見落としているから。
誰かがうまくいったとしても、そもそも主役が違い、場所が違い、時が違うのです。だとすれば、結果が異なったとしてもそれは当然のこと。にもかかわらず、「同じような問題だから、同じように解決できるはずだ」と考え、選択してしまうのがレディメイド選択だということです。
もちろん、だからといって必ず失敗するということでもないでしょうし、なんとかなることもあるでしょう。しかしその一方には、落とし穴にはまり込んだまま、気づかない人もいるはず。そこで「努力している割には、一向に飛躍できない」という場合には、この落とし穴に足をとられているかもしれないと考えることも欠かせないということです。特に現代のような時代には、なにごとも変化を前提として考えられる「変化に強い選択力」を身につけることが重要。
しかし対照的に、スマートセレクターは違いを見逃さず、違いを最大限に活かすもの。常に「万物にはユニークな差がある」ことを前提としたうえで選択するわけです。ちなみにこの場合のユニークとは、「独特の」「他に類を見ない」という意味。どんなによく似た状況であっても、それに関わる人が違い、目的が違い、価値観が違い、場所が違い、時が違えば、「似て非なる問題」としてとらえるべきだということ。
しかも、どんな場合にもあてはまる「ほどほどの解」ではなく、特定の場(主役、場所、時)にとって最適な解決策はなんなのかを考え抜いて選ぶ「セルフメイド選択」をするべきだという考え方。持つべきは、「~らしさ」「~しかできない」を大切にし、常に違いを活かし、ぴったりフィットして、最大の成果をあげることを目指す姿勢だといいます。
なおレディメイド選択の問題点は、どこ(物理的場所)、いつ(時間・期間)を特定する「場の設定」が異なっているにもかかわらず、うまくいっている他者(他社)と同じ選択をすること。しかしセルフメイド選択では、場の設定と目的、そして「主役」が誰なのかをしっかり考えてからスタートすることにより、最適の選択が可能になるといいます。(13ページより)
第2の選択力 目的情報選択
ところで私たちはしばしば、「より多くの情報を収集してから分析するほうが、適切な答えを得られる」と思い込みがちです。でも、主役・目的が異なれば必要な情報も異なってくることになるはず。つまり誰が主役で、なんのために情報収集をするのか明確にしないまま、より多くの情報を集めることだけにとらわれてしまうと、結果的に混乱してしまうだけなのです。
その点、闇雲に多くの情報を集めようとするのではなく、問題解決に必要な、解決策に関する情報を"最小限"集めるのがスマートセレクターのやりかた。まずは「セルフメイド選択」で場の設定をし、主役の視点から目的を明確化するところからスタート。そして「その目的のためにはどうあるべきか」を考え、必要最小限の情報を効果的に集めるべきだというスタイルです。これが、スマートセレクターの第二の選択である「目的情報選択」。
さらに、どんな目的にするかによっても差が出てくるもの。そこでスマートセレクターは「目的の目的」を問い、より効果の高い目的に目をつけ、その目的に適した情報を集中的に集め、最小限の労力によって最大の成果を目指すというわけです。(39ページより)
第3の選択 ズームアウト選択
たとえばスマホやカーナビで地図を検索した際、あまりにもズームインしてしまうと、目的地周辺のお店や道はわかっても、現在地からの道順がわからなくなってしまいます。だからそんなときは、ズームアウトして全体を確認することが必要。それと同じことで、全体が見えていない場合は、選択そのものを誤ってしまう可能性があると著者は指摘しています。つまり、必ずズームアウトして、目的性・連動性・全体性を見る必要があるということ。
現代においては会社や職業の存在価値も刻々と変化しているだけに、安全だと思っていたルートがなくなってしまうことも少なくありません。大切なのは、ズームアウトして全体を見渡しながら危険を事前に察知し、柔軟にルート変更できるようにしておくこと。そうでないと人生においても衝突・沈没したり、努力しても行き詰まったりを繰り返してしまう可能性が出てくるわけです。
また、理想と現実のギャップに悩むのも、ズームアウト不足が原因である場合が多いのだとか。理想ばかりにズームインしても、理想と現実の間をわたす架け橋がない限り、理想への近づき方が理解できなくなるということです。しかもズームイン選択の罠にはまって細部にとらわれているうちに、やがて夢や理想を描いても実現できないのが当たり前の体質になってしまうと著者はいいます。
そこで重要な意味を持ってくるのが、まずはズームアウトで全体を把握し、課題を解決する仕組み(架け橋)づくりをすること。そのプロセスが実現への道のりをぐっと近づけてくれるということで、つまりはそれが「ズームアウト選択」。
夢や理想があっても叶えられない人と、次々と実現していくスマートセレクターとの違いはここにあるのだといいます。だからこそ、行き詰まってしまったときは、ズームインしすぎていないかを確認してみる。そしてひとまずズームアウトし、「目的を達成するためには、どんな仕組みが必要なのか?」を考えてみることが大切だというわけです。
そしてズームアウト選択においても、目的を考えるときは必ず「場の設定」をすることが大切。さらに、どんな目的で、どんなアウトプットをするのか、どのような「仕組み」を考えるかが重要になってくるといいます。
ズームアウト選択力を強めるには、「目的の目的」を問い、より大きな目的から考えてみるべき。さらにポイントは、主役にとって「どんな目的を達成することが、より価値を持つか」を考えること。主役がぜひ達成してほしいと思う目的を選ぶことが、長期的にみれば真の成果につながるという考え方です。(59ページより)
本書ではさまざまな個性を持ったキャラクターを登場させ、それぞれの思いや行動にあてはめながら「ブレイクスルー思考」が解説されていきます。なかなか飛び抜けたアイデアにたどり着けないという方にとっては、忘れかけていた重要なことを再確認するという意味でも役立つかもしれません。
(印南敦史)