「人に話して伝える」ことは、ビジネスの現場に必要不可欠です。とはいえ、伝えたいことを的確に伝えるのは、なかなか難しいものでもあります。特に、数あるコミュニケーション手段のなかでもひときわ難しいのは、「論理的に話すこと」ではないでしょうか?

そこでご紹介したいのが、『出口汪の論理的に話す力が身につく本』(出口汪著、SBクリエイティブ)。カリスマ予備校講師として知られる著者が、「確実に伝わる話し方」について解説した書籍です。

「4限目 論理的な話し方に変わる9つのテクニック」から、要点を引き出してみましょう。

テクニック1 本題に入る前に相手の注意を引く

集中してきちんと話を聞いてもらうためには、「これから大事な話が始まるんだな」と思ってもらえるように、相手の注意を引きつけることが必要。そこで、「あまり長くない」前振りを経て本題に入る際には、「ところで、先日お話しした件ですが」「ご相談したいことがありまして」など、相手が話に集中するきっかけとなるサインを送るといいそうです。

そして、「最初に話題を提示する」のも大切なポイント。たとえば「ご相談したいことがありまして」と相手の注意を引いたら、すかさず「◯◯についてですが」と重ねる。そうすれば、相手は考える態勢を整えてくれるわけです。それから、聞き手の注意を引くためには、最初に結論をいってしまうことも重要。(106ページより)

テクニック2 論理的な構成を意識する

相手に自分の話を理解してもらい、納得してもらうには、「論理的な構成」が大切。まず話題を提供したら、それについての自分の結論を提示。次にその意見が正しいことを裏づける具体例やデータを示し、最後に理由づけをする。

このように筋道を立てて話せば、聞き手は話がすんなりと頭に入ってきて理解しやすいということです。(110ページより)

テクニック3 要点は明確であることが大切

話がまわりくどい人や、ことばを連ねる人に共通するのは、「ことば数がとても多い」こと。それは「話せば話すほど相手を説得できる」という思いの表れだといいますが、現実的には相手を混乱させるだけになってしまうので逆効果。自分の意見を伝えたいなら、「私はこう考えます」と簡潔かつストレートにいえばいいと著者は主張しています。その方が印象的で、相手にズシンと響くからです。

また具体例を挙げるときも、たくさん証拠を示すより、自分の主張をしっかり裏づけてくれる例やデータを2つくらい挙げるだけにした方が効果的だといいます。(118ページより)

テクニック4 論理のルールを上手に使う

話をわかりやすく説得力あるものにするには、次の「論理の3つのルール」を使いこなすことが大切だそうです。

まずは「イコールの関係」を使って自分の主張を論証。意見を述べてから、「他社の似た事例ではこんな結果が出ている」というような話し方をするようなケースがこれにあたるといいます。

一方、「対立関係」を上手に使うことも大切。言いたいことと反対の視点を取り上げることで、自分の意見に固執しているのではなく、いろいろな考えを考慮したうえでこの結論に達したという印象をあたえられるわけです。

そしてもうひとつ重要なのが、「AだからB」という「因果関係」だとか。理由づけが「A←(なぜなら)B」であるのに対し、「A→(だから)B」が因果関係。証拠を挙げたり理由づけをするときは、羅列型の話し方になってしまうこともあるもの。しかし因果関係をうまく組み合わせれば、それを防げるということです。(121ページより)

テクニック5 接続語に気をつける

頻繁に使われる接続語は、論理的構成を示す重要なことば。「つまり」が出てきたら、続いて「イコールの関係」が語られると相手は考える。「しかし」なら「対立関係」、「したがって」は「因果関係」、「なぜなら」は「理由づけ」と、論理のルールと接続語は結びついているわけです。

そして接続語を使うことで、話しては聞き手を誘導し、準備してもらうことが可能になるもの。いきなり「対立関係」の話をするよりも、「しかし」と接続語を挟んでからの方がわかりやすいということです。(125ページより)

テクニック6 具体例を挙げただけで満足しない

具体例やデータを挙げると、それだけで証明されたと思ってしまいがち。でも本当は、なぜ具体例やデータが自分の主張の証拠となるかを論証しなければならないといいます。論証してこそ論理的であり、論証されているから説得力があるということ。(129ページより)

テクニック7 主観と客観を混同しない

主観は自分の意見や考えで、客観は事実やデータ。この両者を混同すると、話が論理的に破綻してしまうと著者はいいます。ネットでよくある「炎上」も、主観的意見をあたかも客観的事実のように発信したことが原因で起こるのだそうです。

しかしそれでは、本当の議論は成り立たなくて当然。自分の考えと客観的事実を明確に区別し、具体例やデータなどの客観的事実を使って主観的意見を論証する。そうしてこそ説得力のある主張になり、有意義な議論もできるということです。(132ページより)

テクニック8 ことばの省略に注意する

親しい間柄での会話や、日常的な用を足すためにことばを交わすときなら、ことばは省略も可能。しかし、初対面の人や目上の人に対してことばを省略しすぎると、失礼になってしまうので注意が必要。

そして相手との間柄に関係なく大切な話をするとき、あるいは自分のいうことをしっかりわかってほしいときは、ことばは省略しない方がいいと著者は説明しています。なぜなら省略することで、言いたいことがきちんと伝わらなくなってしまうことがあり、話の筋道も崩れがちだから。

それに、ていねいなことばできちんと話しかけられれば、「真剣に聞かなければ」という気持ちになるものです。(135ページより)

テクニック9 表情、しぐさの表現力を侮るべからず

「目は口ほどにものを言う」ということばもあるとおり、なにかを伝えようとする際には、表情や仕草も大切。聞き手の視線の動きや態度を見れば、相手の集中の度合いや話の理解度を読むことが可能だからです。また同じように、表情や仕草で、こちらの思いや考えを伝えることもできるもの。

ことばの通じない外国に行ったとき、片言のことばと身振り手振りで必死になって伝えると、相手にはなんとなくわかってもらえたりします。大切な話をするときも同じで、身振り手振り、表情で訴えることはかなり重要なのだそうです。逆に表情も変えず、身じろぎもしないで話続けたら、「熱意がない」と思われても仕方がないということになります。

芝居じみていたりオーバーアクションだったりすると相手に引かれてしまいますが、表情や仕草をうまく使えば、自分の思いをより的確に伝えることができるということです。(138ページより)

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実際の本文は、著者と女の子の会話形式で進んでいきます。だから、無理なく読み薦めることができるはず。しかも全般的に「論理的であることの大切さ」を「論理的に」解説しているので、とても説得力のある内容だといえます。

(印南敦史)