せっかく運動をする習慣をつけたはずなのに、気がついたらやめていたというのはよくある話です。運動をしないまま数週間経ち、お酒を飲み続ける日々が続くと、体重計に乗るのが怖くなります。こういうことは、誰しも経験があるのではないでしょうか。
しかし、再び運動を始めて元のペースに戻すのは大変なことです。今回は、運動の習慣を取り戻すための具体的な方法をご紹介しましょう。
ステップ1:失敗はよくあることだと認識する
習慣が続かないのは極めて普通のことで、どんな人も挫折の経験を持っているものです。意思が弱いとか、ダメ人間だというわけではありません。とても人間らしいことです。ですから、もう1度やり直すためにも、自分に思いやりを持つことが大事です。
このような状況でも自分に思いやりを持つために、社会福祉の分野でよく行われている練習をしましょう。バカみたいに思えるかもしれませんが、これで自分の失敗を許すことが上手になります。
自分の中に、次の3つの人格を持った人間がいると仮定します。
- 非難する人:失敗したことを怒る。
- 非難される人:非難する人の言葉に傷ついて、言い訳をしようとする。
- 思いやりのある仲裁者:客観的に見て、今後どのようにすればいいかを解明する。自分の一番の理解者で、思いやりのある友だちに似ている。
まず、失敗を非難する人が言いそうなことを考えてみましょう。それは、体に良いことをやめてしまった自分を責めている、今のあなたの頭の中にある言葉です。それらの言葉があなたを傷つけていたということがわかるでしょう。
次に、非難される人が言いそうなことを考えてみましょう。非難する人の言葉にどんなに傷ついたか、それによって習慣を継続するモチベーションが落ちたというようなことを言っていることでしょう。
最後に、思いやりのある仲裁者の言いそうなことを考えてみましょう。非難された人に、とても思いやりのある言葉をかけるでしょう。ここでは、仲裁者が非難されている人に言い訳をさせるのではなく、置かれた状況をすぐに理解して共感するだろうと気がつくことが重要です。
このようにシミュレーションをしながら、非難する人と非難される人の仲裁をしましょう。非難する人の言い分はおそらく正しいと思いますが、その発言によって言われた人が進歩する能力が阻害されています(仲裁者は両方の味方だということをお忘れなく)。
今後は、同じような失敗を繰り返さないために、非難していた人が納得しそうな行動を考えましょう。客観的に見て、失敗を最小限に抑えられる方法について考えます。
そうすることで、非難されていた人は、自分がしようとしている努力を応援してもえていると感じ、失敗したとしても、人格まで否定されるわけではないということを理解できます。
この練習を続けると、失敗した自分に対して、かなり寛容になれることに気がつくはずです。
ステップ2:失ったものを客観的に見積もる
自分に思いやりが持てるようになって初めて、善悪の基準でジャッジするのではなく、失敗によって失ったものを客観的に見積もることができます。具体的に失ったものは、ざっくりと次の2つに分けることができます。
筋肉や筋力が落ちる
運動をやめていた期間が3カ月以下であれば、おそらくそこまで多くの筋肉を失ってはいません。『Sports-Specific Rehabilitation(スポーツ科学リハビリテーション)』によると、「トレーニングを積んだスポーツ選手は、2週間程度の短期間であれば、運動をしなくても筋力を維持することができ、運動をしない期間が最大で12週間続いても、大部分の筋力(88〜93%)を維持することができる」とあります。
もっと長期間運動をしなかった場合もご心配なく。ボディビルダーや鍛えているアスリートを長期間観察したところ、時には数年間のブランクがあっても、トレーニングを再開することで比較的早く以前の筋力レベルに戻るのだそうです。
これは、筋肉が一度鍛えた状態を覚えている「マッスルメモリー」と呼ばれるものです。衰えた後でも筋肉の中心部には、まだ強さが残っているということが発見された後も、最近まで科学者たちはこの現象について戸惑っていましたが、結論を言えば、筋力はすぐに取り戻せるということです。
脂肪が増える
数年間、いや数週間であっても、好きなだけ食べて飲んでいたら、体重計の数字が恐ろしいことになるでしょう。典型的なクライアントは体重が5%増えます(体重90キログラムの人なら4.5キログラム)。女性のクライアントには体重が8%増えていた人もいます(体重60キログラムで4.8キログラム増えていました)。
しかしこの場合、体重増加のほとんどはおそらく脂肪ではなく水分です。基本的に、体重計はあなたに嘘をついています。3500カロリー余分に摂取すると450グラム脂肪が増えますが、そこまで余分なカロリーを摂取していたと思いますか?
多分そうではないでしょう。ほとんどの場合、増加した体重のほとんどは水分です。1週間、比較的カロリーを20%程度減らして摂取して、それからもう1度体重計に乗ると、客観的な結果が出ます。増えていた水分の分の重さはこの時点で低下しているはずです。
このことを知らずに体重計に乗るのは危険なことです。私はこれまで、自分がまったく進歩しておらず、トレーニングが完全に失敗したと思い込んでいるクライアントを数多く見てきました。実際には、ダメージを取り戻すには1〜2週間しかかかりません。2週間の休暇でこれまでの運動が台無しになったのではなく、台無しになったと思い込んでいるだけということはよくあります。
個人的な経験をお話すると、2006年に私は4カ月で約18キログラムの体重を落とし、ボディビルのコンテストに出場しました。しかし、コンテストが終わって2日間ガツガツ食べまくった後、体重計に乗ったら約11キログラムも体重が跳ね上がっていました。この時に何カロリー摂取したかは定かではありませんが、激しく落ち込んだ結果、そのまま食べ続けてしまい、結局6週間で体重が90Kgになってしまいました(この時に増えたのは、さすがに水分だけではありません)。
このエピソードから得られる教訓は、失敗して元に戻れるかどうかわからない時は大体元に戻れる、ということです。したがって、思い込みで判断をせずに客観的に分析しましょう。客観的に自分を見ることができないと思ったら、経験豊かな専門家やコーチと話をするのがいいです。
ステップ3:がんばってきた自分に感謝する
明日宝くじに当たったとしたらすごくうれしいですよね? 当然です。しかし、その幸せはすぐに消えてしまいます。研究によると、そういう状況になった人は、平均的な人よりも幸せではなくなり、感じる幸福感の程度で言えば、事故で麻痺した人よりも辛うじてマシという結果になることが明らかになっています。
同時に、幸せに関して言えば、人間は驚くほど回復力があり強くもあります。私たちは、常に自分にとっての幸せについて、新しい基準を作ることができます。私のクライアントたちもそうでした。
あるクライアントは、ほんの数カ月でダンベルのチェストプレスが18キログラムから45キログラムに上がりました(これは驚くほどすごいことです。私は3年かかりました)。しかし、少し運動を休んだ後、その人は36Kgしか上げられなくなっていることに愕然としました。
かつてできた自分の姿を頭に浮かべ、事故で麻痺した人と同じように、過去の自分を理想として見てしまうと、挫折や絶望、自己嫌悪の感情を引き起こしてしまいます。
しかし、自分に対して感謝の気持ちを持つと、これを避けることができます。一歩引いて考えてみましょう。そこに辿り着くまでに、いったいどれだけがんばってきたのかを考えてみてください。
ここまで進歩してきた自分に感謝することができれば、45キログラムのダンベルを上げられたピーク時の自分のことは気にならず、18キログラムから36キログラムまで上げられるようになったことに意識が向きます。そうすれば、過去の栄光よりも、成長し続けることに再び意識を向けることができます。
ステップ4:かつての取り戻すためのToDoリストをつくり実行する
かつての自分を取り戻すための週を設けましょう。私は、これを「再起動の週」と呼んでいます。やらなければならないことを具体的に書いたリストをつくります。たとえば、自分がどれだけ衰えているのかがわからず、ジムに戻れないでいる場合は、以下のようなチェックリストをつくりましょう。
【月曜日】- 食事:カロリー制限の目標の前後3%以内
- 運動:運動用のウェアを着る
- 車に乗る
- ジムまで行く
- チェストプレスのダンベルを3セットやる
- 斜めになったチェストプレスのダンベルを2セットやる
- 食事:カロリー制限の目標の前後3%以内
- 運動:運動用のウェアを着る
- 車に乗る
- ジムに行く
- バーベルスクワットを3セットやる
このような感じです。ここで大事なのは、結果のことは考えず、ただリストにあることをやることをこなしていくことです。筋力が完全に落ちてしまっていても、体重計に乗ったらまだ5キログラムも重くても気にしないようにしましょう。とにかくチェックリストにあるものをこなすことです。
かつての自分のことを思い出してしまったら、静かにチェックリストに目を戻して、今やるべきことに戻りましょう。週の終わりになったら、どれくらいの重さのダンベルを上げられたかを測ると同時に、体重とウェストも測りましょう。
ステップ5:昔の自分を超える
これで以上です。「再起動の週」の以前の合計を超えたら、また前進するための準備ができていることでしょう。あとは自分を鼓舞するだけです。
ジムや運動の習慣からしばらく離れてしまうと、もう自分にはできなくなっているような気がして怖じ気づいてしまうかもしれませんが、また元に戻ることができれば、後でさらに自分をほめることができます。あせらずに1歩1歩進んでいきましょう。
Dick Talens(原文/訳:的野裕子)
Image adapted from OpenClips, 2 (Pixabay).