99u:仕事のスキルが同じAさんとBさん。2人とも、朝9時に出社して、午後7時に退社します。10時間労働は長すぎるかもしれませんが、どこの会社も似たようなものでしょう。
10時間の過ごし方
Aさんは10時間、ノンストップで働き続けます。デスクでたくさんの仕事をこなし、たくさんの会議に出席して。ランチもデスクで、PCに向かって食べています。そんなAさん、きっとあなたの周りにもいるでしょう。
一方、Bさんは90分間集中して働いたあと、15分の休憩を挟みます。12時15分には仕事を止め、45分間のランチタイム。近所のジムで汗を流すこともあります。午後3時にはデスクでお昼寝。時間はだいたい15分から20分。そして、4時半から5時の間には、15分間の散歩に出かけます。
2人のペース配分
Aさんは毎朝、能力の8割程度で仕事をスタートします。長い1日、ずっと全力を出していては疲れてしまうので、マイペースを保つことが大事なのです。午後1時、少し疲れてきたのか、能力は6割にダウン。勢いが急減します。午後4時から7時の間は、もはや4割程度の能力しか発揮できていません。
経済学ではこのような現象を、収穫逓減の法則と呼んでいます。10時間をならすと、Aさんが発揮できているのは、彼の能力のたった6割。つまり、10時間のハードワークにもかかわらず、6時間分の仕事しかできていないのです。
同じ10時間でも、Bさんは、9割の力で仕事に取り掛かります。なぜなら、定期的に休憩があることをわかっているから。もちろん、少し疲れてくることはあっても、ランチタイムや昼寝などで回復し、最後の3時間でも7割程度の力を発揮できます。
Bさんの10時間のうち、2時間は休憩に充てられています。ですから、実際の労働時間は8時間。その間、平均8割の力を発揮します。つまり、1日で彼が出す成果は、6.4時間分の仕事に匹敵します。都合2時間も休んでいるのに、Aさんよりも多くの成果を出せるのです。
Bさんの方が仕事に集中できているので、Aさんよりもミスをする確率が下がります。帰るときにも余力を残しているので、帰宅後に家族と過ごす時間も楽しむことができるでしょう。
「成果=労働時間」ではない
要するに、私たちが生み出す価値は、デスクに向かっている時間では決まりません。その間、どれだけのエネルギーを注げるかにかかっているのです。
人間は、エネルギーの消費と補給を、リズミカルに切り替えるように設計されています。それが実現できたとき、私たちは最高の能力を発揮できるのです。身体、心、感情、そして精神のエネルギーを維持するには、間欠的な補給が不可欠です。
Bさんのように仕事をすれば、より多くの成果を、短い時間で出せるようになります。仕事の質も高まり、長続きもするでしょう。
職場環境はバランスが大事
経営者たるもの、集中とリフレッシュのバランスを大切に、職場環境を創ることが必要です。そうすることで、社員の生産性だけなく、貢献度も満足度も高まるのです。
休憩やリフレッシュが業績を高めることは、数々の研究で証明されています。
FAA(連邦航空局)が長距離フライト中のパイロットを対象に実施した実験では、あるグループに対してフライトの途中に40分間の昼寝を許可したところ、パイロットらは平均26分間の昼寝をしました。その結果、昼寝後の反応時間が16%短縮したのです。
一方、昼寝をしないパイロットグループに対して、同じ時間帯に試験を行ったところ、反応時間が34%悪化しました。さらに、フライト終盤、2~10秒間のマイクロスリープに、平均22回陥っていたのです。昼寝をしたパイロットの場合、マイクロスリープはゼロでした。
もう1つ、ベルリン・アカデミー・オブ・ミュージックでバイオリニストを対象に行なわれた研究では、トップレベルのバイオリニストは、連続して90分以上の練習をせずに、必ず間に休憩を挟んでいることがわかりました。
さらに、トップレベルのバイオリニストの練習時間は最長でも1日4時間半であり、1週間の睡眠時間は、平均的なアメリカ人よりも16時間も長いという結果も出ました。
筆者の場合、30代から40代にかけて、3冊の本を書きました。毎日、朝7時から午後7時までデスクに向かって書きましたが、集中力の維持が課題でした。最近ではやり方を変えて、バイオリニストと同様、90分に1回はリフレッシュ休憩を挟むことにしています。
昔も今も、執筆にかかる期間は約半年。つまり、最近は最初の3冊を書いたときに比べて、半分の時間しかかけていないことになります。
集中する時はとにかく集中し、食事、瞑想、ランニングなど、リフレッシュする時はとにかくリフレッシュに徹する。そんな方法を習得したのです。
真の敵はストレスではない
職場において、ストレスは敵ではありません。むしろストレスは、能力を伸ばすための唯一の手段。ウェイトリフティングでは、筋肉にストレスをかけた後に回復するというサイクルを繰り返しながら、少しずつ力を付けていきます。仕事の成果に関しても、これと同じことが言えるでしょう。つまり、職場での真の敵は、ストレスではなく、間欠的なリフレッシュが存在しないことなのです。
How To Accomplish More By Doing Less | 99u
TONY SCHWARTZ(訳:堀込泰三)
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