オンライン・セキュリティは、もはやジョークでは済まされない重要な問題です。それにもかかわらず、覚えやすいからという理由で、同じパスワードを複数のサイトで利用している人が多いのではないでしょうか。「1Password」のようなパスワードマネージャは、そんな状況を打開するために誕生したアプリです。
1Passwordは、サイトごとにランダムで複雑でユニークなパスワードを生成し、それらを管理してくれるアプリ。数あるパスワードマネージャの中でも、非常に人気が高いものの1つです。先日、新機能とiOS 8対応に合わせて、フリーミアムモデルも導入され、ますます利用しやすくなりました。その1Passwordですが、多くのソフトウェアと同様、当初は内部的なツールとして開発されたもので、商品化の予定はなかったそうです。
有名アプリの誕生にまつわる逸話を紹介する「Behind the App」シリーズ、今回は『1Password』を開発したAgileBitsの開発チームに、アプリの誕生秘話を聴きました。
── 1Passwordのアイデアは何がきっかけで生まれたのでしょうか。あなた自身が直面していた問題の解決策としてなのか、それとも別のきっかけがあったのですか?
他の多くの商品と同じで、1つの問題を解決する中で生まれました。2005年ごろ、当社の共同創設者であるDave TeareとRoustem Karimovが、いろいろな商品アイデアについて議論していました。そのとき、あまりにも多くのサイトにサインインしなければならないことと、それらのパスワードをいちいち覚えておかなければならないことに、だんだん嫌気がさしてきました。そこで、すべてのアカウントにユニークなパスワードを生成して、それらを記憶するツールがあったらどんなに便利だろうかという話になりました。さらに、自動ログインもできればどんなに時間を節約できることか。その時間を、ソフトウェア開発に回すことができるのです。
── アイデアを思いついた後、次にした行動は何ですか?
もともとこのストーリーには、「次の行動」はありませんでした。DaveとRoustemは、自分たち用に、将来「1Password」と呼ばれることになるものを使っていただけだったのです。その後、同業の友人にそれを見せるたびによい反応が得られたため、2人は「ひょっとしてすごいものを創ってしまったのではないか」と気がついたのです。
── ターゲットとするプラットフォームはどのように決定しましたか?
当時、DaveもRoustemも企業から離れ、Macに出会ったばかり。偶然にも、AppleがOS XとiPodを展開している時期で、コミュニティがロケットのように急上昇していました。2人は、新しいプロジェクトの探求のために、OS XとCocoaを学ぶ必要があったのです。そこで、最初の1Passwordのベータ版も、Macで作ってみようということになりました。
── もっとも大変だった点は? それをどのようにして乗り越えましたか?
大変なことはあまりありませんでしたが、とにかく、セキュリティ商品を作るとはどういうことか、その詳細を理解することが不可欠な要素でした。人さまのパスワードやクレジットカード情報などの個人情報をお預かりするわけですから、セキュリティを熟知し、お客様のプライバシーや心配事には十分に配慮しなければなりません。
それは、決して軽く扱うことのできない、ユニークな責任だと言えるでしょう。
── ローンチした時はどのような感じでしたか?
それはもう、感動ものでした。そのひとことに尽きます。オタクしか興味を持たないようなツールを作っていたつもりが、あっという間に多くの人の心をとらえたのです。いくつかのテック系サイトが取り上げてくれ(当時はまだ「1Passwd」という名前でした)、操作方法を説明するチュートリアルまで作ってくれるようになりました。そして、口コミで広がるようになり......それはもう、感動以外のなにものでもありません。
もうひとつ、ローンチが素晴らしかったのは、ユーザーが貴重な意見を寄せてくれるようになったことです。提案、不満、お褒め、感謝など、内容はさまざまでしたが、それはつまり、ひとつのことに要約されると思うんです。皆さんが、1Passwordのことを気にかけてくれている。そして、その一部として、よりよいものを作ろうしてくれている。これもまた、感動以外のなにものでもありませんでした。
── ユーザーの要求や批判にはどのように対応していますか?
当社の共同創設者とCEOは、素晴らしい文化を築いてきました。それは、SNS、批判、フィードバック全般に対して、人と人のつながりを大切にする文化です。私たちは、大陸や言語を超えたサポートスタッフを用意しています。また、「Cerberus」「Google Drive」「Respond.ly」などのコラボレーティブサービスも利用して、お客様との対話やフィードバックの整理に役立てています。実際のバグレポート、ディスカッション、改善点の決定と構築には、「Jira」と「Basecamp」を使っています。
── 現在は「新機能」と「既存機能」の開発に割く時間の比率はどれくらいですか?
新機能と既存機能に取り掛かるタイミングを決めるのは、複雑なダンスのようなもの。不具合が出て多くのお客様から声が届けば、それが最重要課題になります。お客様がいなければ、私たちの存在価値はないのですから。
私たちには、驚くほど活発なベータプログラムもあります(感謝!)。これらのお客様は、1Passwordの修正プログラムや新機能に、貴重な意見を伝えてくれる存在。たとえば、Macプログラムには2万5000を超えるお客様が参加してくれています。
OSのリリーススケジュールなどの外的要素が計画に盛り込まれることもあります。お客様は、OSがアップデートされたその日のうちの1Passwordのアップデートを期待してくれているので、それに答える努力は惜しみません。でもその時に、X.1のアップデートに機能Yを盛り込むかどうかが議論になることがあります。
── 同じような試みをしようとしている人に、どのようなアドバイスを送りますか?
自分や身の回りの友人に影響を与えているような、身近な問題を解決することですね。夜更かししてでも取り組みたいような何かか、気がついたらいつも友達と不満を言っているような何かを見つけてください。見つけたら、既存の解決策の有無を調べ、あったならもっとうまい方法がないかを考えます。どんな日でも情熱を保ちながらいい仕事をするためには、このやり方がベストです。仕事である以上、気分がのる日とのらない日が必ず訪れるのですから。
Andy Orin(原文/訳:堀込泰三)