時間や状況に余裕の少ない状況下では、ついついあせってしまいがち。しかし、そんな状態をなんとかしたいと感じている人の気持ちを、『あせらない練習』(斎藤茂太著、アスコム)は楽にしてくれるかもしれません。
歌人・斎藤茂吉の長男であり、医学博士として人々に勇気を与え続けてきた著者(2006年に90歳で他界)が、あせってしまいがちな人の頭と心をスッキリさせるための術を記した書籍。Lesson 1「あせらない自分になるために。時間を上手に使う五つのコツ」に目を向けてみたいと思います。
探し物に費やす時間を減らす五つのポイント
一説によると、平均的なサラリーマンが探し物に費やす時間は年間150時間。労働時間に換算すれば、ほぼ1ヵ月分の休暇をとったのと同じだということになります。この点について著者は、「ありとあらゆるものを整理整頓する」ことこそが唯一の解決策だと主張しています。そして、ポイントは次の5つ。
「あとで片づけよう」ではなく、「いま片づける」
ものの置き場所・しまい場所はきちんと決めておく
とくに仕事の書類は使い勝手に合わせてファイリングしておく
予定に応じて必要なグッズのキットを準備しておく
情報整理はそのとき、その場でやる
(18ページより)
これらを習慣化できれば、間違いなく整理整頓が上手になれるそうです。同時に、これまで探し物にあてていた非生産的な時間がぐんと減り、もっと生産的なことに時間を使えるようになるとか。探し物によるあせりをなくすのは、一にも二にも整理整頓だということです。(16ページより)
気の持ちようで、時間はコントロールできる
時間が足りなくなると、睡眠や食事、遊びなどの時間を「削る」人は少なくありませんが、それはよくないと著者は主張しています。なぜなら、「自分にとって大切な時間を、やむをえず削った」という意識が残り、あせってそれがストレスになってしまうから。
そこで「時間を削る」という言葉を自分の辞書から消し、「自分のしたいことをするための時間を確保する」と考えてみる。仕事が忙しいなら、「仕事の時間を確保して」働く。遊びたいなら、「遊びの時間を確保して」遊ぶ。自分のしたいことをする「時間を確保して」行動すれば、時間を味方につけることができるというわけです。(21ページより)
「遅刻する人」「待たされる人」どちらにもならないための法則
遅刻する人の原因は多くの場合、出かける前の、準備不足からくるあせりにあるといいます。ここに潜んでいるのは、
1.所要時間の見積が甘い
2.支度にかかる時間の見積が甘い
3.外出時に持っていくものの点検が甘い
4.行動の優先順位のつけ方が甘い
(26ページより)
という4つの「甘さ」。しかし1は、インターネットで交通機関アクセスや地図を調べればいいだけの話。2は、支度にかかる時間を計ってみて、プラス10分程度の時間を見積もれば解決可能。3については、あらかじめ「外出キット」をつくっておく。4は時間を守ることが最優先だと自分に言い聞かせ、出かける間際に突発的な用事が入っても後回しにすればいい。たったこれだけのことで、遅刻癖は必ず改善できるといいます。
ただし待たされる人にも「準備」は必要。誰と会うときでも、相手が遅刻することを前提に、読みたい本や書類、空き時間にできる電話やメールなど、待ち時間を空費せずにすむ「防衛策」を打っておけば、待たされてもイライラせずにすむということです。(25ページより)
締め切り前に仕事を仕上げ、プライベートの時間を確保
仕事に締め切りはつきもの。しかしいつも「正式の締め切り」と格闘していては、追われるだけで気持ちがあせり、苦しい日々を送ることになります。そこで著者がおすすめしているのは、「自分だけの締め切り」を決めること。そうすれば、締め切りを追いかける気持ちになれ、ゆとりが生まれる。しかも早く仕事を終えることができ、おのずと余暇時間も増えるといいます。
もちろん「早かろう、悪かろう」では話になりませんが、集中力は仕事の出来をもブラッシュアップするもので、多くの場合、「迅速かつ上質な仕事」を可能にしてくれるそうです。(28ページより)
やれそうなことは、あせらずにどんどん進める
「どうも乗らないなぁ」という時は誰にでもあるもの。そうならないために大切なのは、行動するときに心身のコンディションも考慮に入れること。そのために押さえておきたいのは、次のポイント。
1.体と頭の元気を保つこと
2.使う頭の回路が同じような仕事をまとめて処理すること
(33ページより)
脳のスイッチをいちいち切り替えなければ、効率が上がるというわけです。また体調維持も「時間貧乏」にならないために重要な要素だと著者は言います。(32ページより)
「心の名医」という異名を持つだけあって、著者のアプローチはとても心地よくソフトです。そして押しつけがましさを感じさせないぶん、ひとつひとつの言葉が自然に心に入ってくるはず。ぜひ一度、手にとってみてください。
(印南敦史)