99U:私たちは多くの時間を会議に費やしています。しかし、会議を効果的なものにするのは苦手なようです。Microsoft Officeのユーザーを対象とした2005年の調査で、会社員は週に平均5.6時間も会議に費やしているのがわかりました。ほとんど勤務時間1日分です。また、London School of Economicsの調査によると、企業のCEOたちは週に18時間も会議に費やしているのだとか。
私たちにとって会議はそれほど不可欠なものであり、次のようなアドバイスもよく耳にします:「議題を作れ、時間を短縮しろ、参加人数を絞れ」。こうした有益なアドバイスがあるにもかかわらず、ハーバード大学の研究者よると、会議の約半数は非生産的なのだそうです。
今回は、お決まりのアドバイスを繰り返す代わりに、テック業界で最もパワフルなリーダーたちに注目しました。過去のインタビューから、彼らが話すユニークで実践可能なアドバイスをピックアップします。シリコンバレーのCEOたちが会議を効果的にするために何をしているかを学びましょう。
マリッサ・メイヤー:YahooのCEO
1. データに基いて合理的に意思決定する
メイヤーは、数値と事実が会議を効果的にすると信じています。彼女はデータを優れた平準化装置だと考えています。よって、インターンであれ、副社長であれ、データの裏付けがある意見がより尊重されます。データに基いて意思決定をすれば、見解の相違や社内政治から発生する長くて無用な議論を避けられます。米誌Businessweekが、メイヤーのやり方を解説しています:
メイヤーは、デザイン会議において「好き」というフレーズが出るのを嫌がります。「私はこの画面のルックスが好きだ」などの発言です。そのかわり、メイヤーは「このサイトで行った実験で、彼のデザインのほうが10%優れていることがわかりました」というコメントを聞きたがるのです。
データに基づけば意思決定がスピードアップするとはいえ、感覚的な情報を大切にする社員から煙たがられる可能性もあります。メイヤーは、ウェブページに使う「最適な」色を決めるために、41種類もの青色のバリエーションをテストし、プロジェクトの担当デザイナーを辟易とさせたこともあるそうです。
2. 容赦なく質問する
メイヤーは、容赦なく質問を投げかけ、チームが貧弱なデータや、間違った思い込みに基いて作業をしていないかを確かめます。間違った思い込みに基づいていれば、後からすべてやり直しになります。それは、時間とリソースの浪費であり、さらなる会議を生み出すだけです。メイヤーの世界では、会議に「思い込み」が入る余地はありません。裏付けとなるデータがないなら、意見を述べるべきではないのです。メイヤーは、チームが自信をもって答えることを求めます。米誌Business Insiderによると:
デザイナーやプロダクトマネージャに向かって、メイヤーは次のような質問を浴びせかけます:
どうやって調べたの?
調査手法は?
それを証明できる?
3. マイクロ会議を使う
Google時代、メイヤーは週に平均70もの会議に出席していました。自分の仕事もこなしながらどうやって全部の会議をやりくりしていたのでしょうか?
メイヤーはマイクロ会議を使う:メイヤーが会議に出るのは10分までと決まっています。カレンダーアプリの最低設定単位が30分だからといって、30分間会議する必要はありません。メイヤーのカレンダーで30分もの枠が取られるのはごくまれです。メイヤーと話したければ、すべてを迅速に行う必要があります。
プロジェクト・マネジメントの金言:「仕事の量は、与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」。メイヤーは相手に10分間だけ与え、その間に必要な用件をすべて話すように仕向けます。そうすれば、より短い時間でより多くの人と会合を持つことができます。
イーロン・マスク:Tesla社のCEO、SpaceXのCEO兼CTO
1. 経験ではなく事実に基づき議論する
マスクにとって、意思決定とは経験に基づいて行うものではありません。マスクは、「第一原理」に基いて考えるべきだと言います。問題となる状況を基礎的で根本的な事実まで追いつめ、そこから論理を組み立てます。
「第一原理」思考の一例:マスクは、SpaceX社の最初のロケット製造費用を見積もるとき、既存のロケットを参考にしませんでした。「常識」に基づく意思決定は、第一原理思考とは真逆のものです。そのかわり、チームはロケットに必要な部品をすべて洗い出し、各部品の原材料価格を調べました。その結果、従来のたった約2%の費用でロケットを製造できることがわかり、チームは驚いたそうです。
会議で、事実と第一原理に基いて議論を重ねるのは、より多くの精神的エネルギーを必要とします。しかし、そうするがゆえに意思決定の質を高められるのです。マスクは状況を根本から見直すことで、「そうだね、ロケットの製造費用と言えばだいたい...」とか、「NASAでどうやったかというと...」など、「知的に怠惰」な議論を回避します。
2. チームに完璧な準備を要求する
Tesla社やSpaceX社のような挑戦的な企業のCEOとして、イーロン・マスクは週に7日間働き、すべての事業のすべての段階に関わろうとします。その結果、自社の事業のほとんどすべての議題において専門家となっています。必然的に、会議に出席する社員たちは完璧な準備が求められます。マスクの社員のひとりが、Q&Aサイト「Quora」上で、匿名で次のように話していました:
イーロンに会う時には、完璧に準備する必要がある。準備不足だと、すぐに見破られてしまうのさ。イーロンから理にかなった質問を投げかけられ、もし君が答えられなかったとしたら...。幸運を祈るよ。
マスクは、自らお手本となり、誰もが従うべき基準を設定し、会議をコントロールします。あなたが企業のトップだとして、必ずしも週に7日間働く必要はないでしょう。しかし、あなたの仕事の倫理観を提示し、トップとしての姿勢を見せることで、全社員を引っ張っていかなくてはいけません。あなたが会議でシャープでいれば、社員たちもあなたの指示に従います。
3. 長期的なヴィジョンを思い出させる
SpaceX社のロケット「ファルコン1」の打ち上げが3度目の失敗に終わった後、チームは重苦しいプレッシャーに覆われました。マスクは、ただちに立ち直って、できるだけ早く4度目の打ち上げを成功させる必要があるとわかっていました。
マスクは、過剰労働で疲労困憊し、士気がくじかれ、すっかり意気消沈したチームを呼び集め、2ヶ月以内に打ち上げを成功させるようにとハッパをかけました。なぜそうしたか? 会議の中で、マスクはSpaceX社のゴールをシンプルに繰り返しました:「我々はロケットを軌道に乗せる」。そして、自らの意志をキッパリと宣言することで、チームの勝利を約束しました。「私は絶対にあきらめない。絶対に」。数時間後、チームは問題解決に向けて動き出していました。
これは、まだ若いSpaceX社の歴史の中でも、最も重要な会議であり、最も重大な局面でした。マスクはチーム全員に、自分たちが何のためには働いているかを思い出させ、奮起する活力を与え、前途に広がる困難な仕事に再びフォーカスさせたのです。今、そうする必要があるのを知っていたのです。
大規模なプロジェクトで働いていると、チームが迷走して、今やっている仕事とプロジェクトの全体像との関係を忘れてしまうことがあります。マスクのような賢いリーダーは、いつ会議を招集し、いつカンフル剤を打てばいいかをよく知っているのです。
スティーブ・ジョブズ:Apple社の元CEO
1. 会議を形式張らない定期的なイベントにする
マスクと同じく、スティーブ・ジョブズも自社のすべてのパートを把握したがっていたと、Entrepreneur Magazine誌が報じています。
Apple社では量より質が重視されます。そのため、会議は形式張らないかわりに、目に見える進捗の報告が(毎日と言わないまでも)週単位で求められます。
ジョブズがApple社を「スタートアップ企業みたいに」運営しようとしていたのは有名です。この「週単位の会議」は、マイクロマネジメントのためではありません。ジョブズはビジネスのすべての面を深く理解しておきたかったのです。
実際の会議はどんなものだったのでしょうか:ジョブズは週に一度、会議を開き、ビジネス全体をウォークスルーしました。議題は毎週ほとんど同じ。CNNのインタビューで、ジョブズは次のように話していました。
私は (社員たちが)私より優れた意思決定をするのを期待しています。だから、社員たちにはすべてを知っておいてもらいたいのです。自分の担当部分だけでなく、ビジネスのすべての部分をね。
2. 会議をできるだけ小さくする
ジョブズ氏は参加者が多すぎる会議を嫌っていました。すべての参加者が会議に貢献すべきであり、ただ座っているだけの人間は不必要だと考えていました。
広告代理店との定例会議でのこと。会議室に入ってきたジョブズは、普段見かけない人物が座っているのに気づきました。ジョブズは「あなたは誰か」と尋ねると、無愛想にこう言い放ちました。「この会議に君は必要ない」。そして、何事もなかったかのように議題に戻りました。ジョブズは同じ基準を自分自身にも適用します。オバマ大統領から、ほかのテック業界の有名人たちと一緒に会議に招待されたときのこと。ジョブズは、招待者のリストが長すぎるという理由で、それを断ったそうです。
彼は、見学者の存在を絶対に許しませんでいた。それが自分自身であってもです。参加者全員が会議に重要な貢献をすべきだと考えていたのです。
3. 担当者に公的な責任を負わせる
他の企業と同じく、Apple社の会議にも次のステップがあります。会議でアクションリストが作成されると、それぞれのアクション項目の隣にDRI(Directly responsible individual:直接責任者)が書き込まれます。タスクに対して公的な責任を負う担当者を決めることで、次の会議までにタスクが確実に達成されるよう、プレッシャーを高めるのです。
会議が頻繁に行われ、参加者も少人数だと、タスクに責任を持つ個人にスポットライトが当たり続けます。Apple社にとって、この公的責任制度は、社員にハイレベルのパフォーマンスを出させる方法のひとつとなっています。
責任の所在の曖昧さは、プロジェクトに大損害を与える要因となりえます。大規模で分野横断的なプロジェクトでは特にです。すべてのタスクについて責任者を明確にしておくことで、会議で決定されたすべてのアクション項目が確実に達成される保証となります。
Run Your Meeting Like a Boss: Lessons from Mayer, Musk, and Jobs|99U
David Fallarme(訳:伊藤貴之)
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