ずっとスタンディングデスクが気になっていました。いつも欲しいと思っていました。スタンディングデスクの効能についても、研究や論文をいくつか読んで知っていました。

米国がん協会が、18年間に渡り12万3000人を追跡したところ、1日6時間以上座っている人の死亡率が高いことが分かりました。20万人以上の被験者を対象にした別の研究では、1週間に最低5時間以上運動をする活動的な人でも、長時間座っていると死亡率が高くなることが分かっています。ある会社が実施したテストでも、スタンディングデスクによって、生産性が最大で10%向上していました。

このように、あらゆる研究や実験でイスに座らない方がいいと言われていたので、私の中でスタンディングデスクを試してみたいという気持ちが高まっていたのです。ooomf社が新しいオフィスに移転した時、私は夢の仕事場を作り上げました。その中心はもちろんスタンディングデスクです。

スタンディングデスクを使って何が起こったか

夜遅くに、スタンディングデスクの組み立てが終わりました。IKEAの22ドル分のパーツを使って組み合わせ、ドリルで最後の穴を開けた後は、新米パパが日曜大工をやり遂げたような満足感でした。

初めてスタンディングデスクで仕事をした時は、1時間半で足の裏がヨガマットと一体化しているような感じがしました。とても強くなったような気分です。翌日は、朝から一日会社でスタンディングデスクを使いました。1時間もすると脚が疲れてきて、背中や肩も疲れてきましたが、負けず立ち続けました。肩甲骨を寄せて、さらに強力に感じる重力に抗うように地面を押しながら、がんばって立っていました。

私はそのような苦痛と闘いながらも、これは必要な痛みなのだと思っていました。運動をして筋肉が作られる時に起こる痛みのようなものだと。より良い姿勢にするために筋肉を鍛える、その過程の一部だと感じていました。

約2時間後、私は休憩を取りました。座った瞬間、座ることがこの世で最高の発明のように感じました。回復してから、また立って仕事を始めました。しかし、その後は20分で脚も姿勢も疲れてきました。立ちながらも、背中を曲げてストレッチをしたり、片方の脚を傾けて休ませたりしないと続かなくなったのです。その後の数時間は、座っていないと仕事になりませんでした。

立ち上がることも、スタンディングデスクで少し仕事をすることもできましたが、その日からスタンディングデスクを見る目が変わり始めました。楽しみな場所ではなく、居たくない場所になってきたのです。それでもまだ、これも体がスタンディングデスクに慣れるまでの、トレーニングの一部なのだと思っていました。だから、スタンディングデスクを使い続けました。

2週間後、1日4時間ほど立って仕事ができるようになりましたが、何度も休憩しなければなりませんでした。リフレッシュして、仕事を良いペースで続けるには、1日に何度か休憩は取らなければならないので、それはちょうど良かったです。しかし、スタンディングデスクを使っていると、頭がまだ仕事を続けたいと思っている時でも、脚や体が疲れて強制的に休憩を取らされるようになるのは問題でした。私の場合、立ったままでは仕事の波に乗るのが難しかったのです。

スタンディングデスクは、メールの返信のような特定の作業は集中しやすかったです。しかし、執筆のような頭で考えることに集中しなければならないような仕事の場合は、気が散ってしまいました。書く仕事よりも脚の痛みの方が気になってしまったのです。その痛みが必要な痛みだとしても、これ以上は気を散らすわけにはいきませんでした。痛みが、仕事に支障をきたし始めたのです。

その日、私はスタンディングデスクをやめました。

もっと健康になれたかもしれないし、生産性も向上できたかもしれませんが、私の場合は、スタンディングデスクのお陰で必ずしも良い仕事ができるとは限らない、と気づいたのです。どんな机であれ、良い仕事ができるというのが一番大事なことです

頭に良い言葉が浮かんできている時に、脚の疲れのせいで執筆を中断したくありません。「降りてきた」と思っている時に、腰の痛みが気になりたくはありません。私はただ自分の仕事に集中したいのです。

私は毎日楽しく運動をしています。それで幸せです。スタンディングデスクは私には向いていませんでしたが、他にももっと効果的に体を動かす方法はたくさんあります。

座るのは本当に体に悪いのか?

ここ数年研究者の間では、私たちの世代にとっては、座ることは喫煙と同じようなものだとみなされています。時代背景として、ほとんどの仕事が座り仕事になっていることもその理由の一端としてあります。私たちの世代は、前の世代に比べて、座る時間がかなり長くなっているということです。

しかし、座ること自体は悪くありません。じっと座ったまま長時間動かないのが致命的なのです。事実、どんな体勢であれ長時間同じ姿勢でいるのは健康に良くありません。

座ることが良くないとする多くの研究では、研究者は定期的に体を動かさないことが問題だと指摘しています。体を動かさないと、心臓欠陥の病気になるリスクが増加し、体内の脂肪を燃焼する酵素の生成と関連がある血液の循環も悪くなります。

スタンディングデスクは、座ることによって生じる問題を解決する1つの方法かもしれませんが、体を動かさない問題は解決していません。長時間の場合は、立つことの方が座ることよりも良いとは限らないのです。確かに、多少はカロリー消費が増えるかもしれませんが、長時間立つことで脚の静脈の弁の働きが悪くなったり(静脈瘤)、膝を圧迫したりすることにもつながります。

したがって、立つか座るかの問題ではなく、体を動かすかどうかという問題なのです。

ハードな運動が健康に良いこともありますが、元気で長生きするために必要な基本的な運動というのは、そこまでハードである必要はありません。ナショナルジオグラフィックの研究者であるDan Buettnerさんは、元気で長生きするために、マラソンを走ったり、プロ並みの運動をする必要はないと言っています。

Buettnerさんの研究チームでは、ブルーゾーンと呼ばれる健康的に長生きをしている人たちが多く住んでいる地域の研究をしてきました。面白いことに、この地域に住んでいる人たちは、いわゆるエクササイズ的な運動をほとんどしません。

野菜中心の食生活をして、生涯にわたって互いに頼り合える人たちとの関係を築いているだけで、ジムには行っていません。ランニングマシンに乗って走る代わりに、自分の生活を支える仕事の一部として、激しくない身体的な運動を定期的にやっています。

日本の沖縄のある地域では、大腸がんや肺がんになる確率が5分の1で、アメリカ人の平均寿命よりも7年長生きしています。沖縄は床の上で生活する文化なので、1日に30〜40回立ったり座ったりするのが適度な運動になっているのでしょう。

同じくブルーゾーンのイタリアのサルディーニャ地方では、100歳以上まで生きる確率はアメリカの10倍です。サルディーニャの人たちは2階建て以上の家に住んでいるので、階段の上り下りをしなければなりません。土地が痩せているので、そのような住宅事情になっており、結果的に定期的に激しくない運動をすることになっています。

このようなブルーゾーンの地域では、基本的に移動手段は徒歩です。Buettnerさんは、認知力を保ち低下を防ぐと証明されている唯一の方法は歩くことだと言っています。低レベルの運動が健康的に長生きをするために一番重要な要因なのです

Buettnerさんの発見は、13年以上にわたって300人の被験者を対象に歩行運動を追跡したアメリカの研究によって裏付けられています。たくさん歩く人は、記憶に関する問題が起こる可能性が半分でした。1週間に9マイル(約14km)歩くのが、神経学的には最適な距離だと結論付けています。

ジムに通ったり、運動をするのが好きなのであれば、それは素晴らしいことです。運動によって、体が強くなり、楽しい気分になり、より長く生きることにもつながります。しかし、定期的にきちんとした運動をする時間がない場合や、運動で怪我をするのが嫌な場合は、体に必要な低レベルの基本的な運動をするというのもありです。

座りっぱなしで死なないようにする方法

歩くのが適度に運動を取り入れる1つの方法だというのは分かりました。しかし、いつでも歩くために会社を抜け出せる訳ではありません。天気が悪い日もあれば、締め切り直前でどうにも時間が取れない時もあります。ある仕事を終えるまでは席を外せないこともあるでしょう。

そんな会社から出られない時でも運動をすることができる簡単な3つの方法をお教えします。

1. 仕事中も脚をあげる

1日中イスに座っていても体勢が崩れず、血行にも良いイスに改良するという方法です。座って仕事をしている間に脚を上げていると、脚の血行が良い状態に保てることは証明されています。研究によると、背もたれの角度を135度にすると、長時間イスに座っても腰への負担が軽くなることも分かっています。

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私は、背もたれの角度を135度に変えられるイスと、脚を上げて血流を保つためのフットレストをIKEAで買いました。

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2. スクワットをする

スクワットは、体内で脂肪の生成を分解する酵素を放出したり、脚の血流を良くする最高の方法です。わざわざ運動用の格好に着替える必要はありません。電子レンジで温めるのを待つ間、コーヒーを淹れている間など、時間のある時にできるだけスクワットをするようにするだけです。先日冬季オリンピックが開催されたソチでは、健康促進の一環として、30回スクワットをすると地下鉄の無料チケットがもらえるというキャンペーンをやっていました。

3. お尻の筋肉を伸ばす

私は、ジムでトレーニングを始めた時に、適切な負荷のバーベルを上げることができませんでした。腰が痛くて膝より下に下ろせなかったのです。トレーナーは、私のお尻の筋肉が固過ぎるせいだと言っていました。

どういうことなのか調べてみたところ、お尻周りの筋肉は腰の筋肉組織とつながっていることが分かりました。私のように数年間座っている仕事を続けてきた人は、同じようにお尻周りの筋肉が固くなっており、そのせいで腰痛を引き起こしている可能性があります。

お尻の筋肉が固まっているせいで、腰痛の原因になっていたり、年を取るにつれて動きが悪くなっていることはよくあります。お尻の筋肉を緩める一番の方法は、1日1度はストレッチをすることです。

理学療法士のKelly Starrettさんは、2005年にクロスフィットのジムを始めました。数多くのアスリートとトレーニングを共にし、よく怪我をしたり問題を抱える選手は、スクワットのようなある特定の運動をしようとしている時に問題が起きていることに気付きました。Starrettさんは、体の構造を解明し、怪我をせず運動能力を高める正しい動きのメカニズムを、改めて体に叩き込むためのプログラムを作りました。

Starrettさんは、腰回りの動きを良くするのにこの3つのストレッチを勧めています。私は毎日このストレッチをやっています。1日3分ほどのストレッチですが、これまで悩まされてきた腰痛がかなり良くなりました。

スタンディングデスクが合っているなら、それはすごくいいことだと思います。しかし、もし合っていないと思ったら、無理はしないでください。仕事に悪影響を及ぼしているような場合は特に。仕事中に立っていなくてもいいのです。長時間立っていることが、長時間座っているよりも良いということもありません。

大事なのは、毎日少しでも運動をすること。何kmも走り込んだりする必要はありませんが、仕事の行き帰りに歩くようにしたり、エレベーターではなく階段を使うようにしたり、何かを待っている間にスクワットをしてみたり、それだけで体には十分効果的です。

Mikael Cho(原文/訳:的野裕子)