たった5秒思考を変えるだけで、仕事の9割はうまくいく』(鳥原隆志著、中経出版)の特徴は、「思考を加える」ではなく、「思考のムダを捨てる」という観点から仕事の仕方を解説しているところ。「発想しすぎの思考や能力を引く」考え方にシフトし、仕事の成果を変えていくことを提案しているのです。

ちなみに基盤となっているのは、「インバスケット(案件処理演習)」の考え方だとか。第3章「たった5秒で成果が出る『インバスケット』」に目を向けてみましょう。

1.「どう思われているか?」を捨てる

体裁に力を入れすぎると、本来するべき仕事ができなくなるもの。たとえばメールのタイトルに多くの時間をかけても、内容がわかりづらかったり、ファイルを添付し忘れていたりしたら台なしです。大事なのは、体裁よりも内容だということ。(68ページより)

2.「本当に大丈夫か?」を捨てる

なにをするにしても、少なからずリスクが伴うもの。つまり問題は、そのリスクをどう判断するか。だからこそ、「大丈夫か?」と考えるプロセスは重要なポイントだといいます。「大丈夫か?」という前提で仮説を立て、情報を集め、対策を考えて判断するのがインバスケットな方法だとか。

さらに重要なのは、あとから「本当に大丈夫か?」と思っても、しかるべきプロセスを踏んで意思決定したことであれば、大きな環境変化がない限り実行に移すべきだということだそうです。(76ページより)

3.「人脈の"数"」を捨てる

たくさんの人とつながりを持つことは、ビジネスを行なう上で大きな財産になります。しかし意識しておくべきは、知っている人の「数」に価値はなく、価値があるのはお互いにつながって反応し合う「人脈」だけだということ。きっかけが多くても、そのつながりを継続していかなければ、本当の人脈にはならないわけです。

そこで、まずは2年以上つながりのない名刺を捨てる。そして、「出会い」を求めず、「つながり」を掘り起こす。それが大切だといいます。(84ページより)

4.「誤ったコストダウン思考」を捨てる

インバスケットでは、ムダを発見することを「問題発見力」として評価するそうです。ただし、「自分が疲れることはコスト」という考えは思考のムダであり、「パワーをどこに配分するか」と考えることが必要。成果の出る部分にパワーや時間を集中し、疲れを成果に変える考え方が必要だという考え方です。(92ページより)

5.「相手への依存」を捨てる

私たちは自分ひとりで仕事をしているような気持ちになりがちですが、実は依存関係に助けられているもの。しかし、なにかに依存することには、「依存した部分は、自分でしなくなるできなくなる」というリスクがあるとか。

インバスケットでは、組織をうまく使う「組織活用力」と、自ら主体的に取り組む「当事者意識を持つ力」は対角線上にあるそうです。「頼り切る」と「なんでも自分がする」、この均衡をうまく保つのが重要だということ。(100ページより)

6.「ゴールへの意識」を捨てる

毎日の「目標」を達成することも大切ですが、最終的な「目的」を達成しなければ意味がありません。目の前の目標達成をゴールだと思い込むのは、インバスケット的には「洞察力」に問題があるということになるそう。たとえば、ファクスを流す仕事を頼まれたとしたら、送信するだけではなく、「きちんと相手に届いているか確認するまでが求められている仕事だ」と察知することが必要。ゴールだと思っているものは通過点なので、休んでいる暇はないということです。(106ページより)

7.「相手の利益を奪うこと」を捨てる

人が利益を得たとしても、それをうらやむことなく「自分には関係ない」と考えるべき。なぜなら、自分は利益が出なくて苦しんでいるのに、ライバルの利益をいかに少なくするかを考えるのは、ビジネスにおいては余計に損をする行為だから。

むしろ自分の利益と他人の利益を隔離したうえで、自分の利益と他人の利益が両方上がるような方法を考えるべきだといいます。(112ページより)

8.「あらゆる人への配慮」を捨てる

どんなに忙しいときでも配慮ができる人は、対人関係能力が高いといえます。しかし配慮にも限度があり、優先順位をつけず、あたりかまわず配慮してしまうのは思考のムダだそうです。

つまり配慮にも優先順位があるわけで、気をつけるべきは2点。まずは、キーパーソンを認識すること。そして、行動の最終的な目標を認識すること。キーパーソンを見つけて最終的な目標を認識し、配慮を行動に移す必要があるわけです。逆に配慮の仕方を間違えると、かえって誰かを傷つける危険も。(120ページより)

なにがムダかを明確にするため、本書では「がんばっているけれど成果が上がらないキャラクター」を設定したうえで話が進められます。そのため、問題と解決法をわかりやすく理解できるはず。「どうしてこうなるの?」と悩むことの多い方は必読です。

(印南敦史)