有名アプリの誕生にまつわる逸話を紹介する「Behind the App」シリーズ、『CARROT』の創設者ブライアン・ミューラー氏に続く今回は、Mailboxの創設者、ジェントリー・アンダーウッドの登場です。

iOSアプリ『Mailbox』は、最強のGmailアプリです。先日Dropboxに吸収されましたが、徹底的に無駄を排除したデザインと、ジェスチャーベースのインターフェースは健在で、荒れ果てた受信箱を簡単にソートすることができます。メールのクイックアーカイブ、後で対応するための「スヌーズ」メッセージ、ToDoリストとしての利用などの機能も充実しています。

そんな最強Gmailアプリを作った彼に、Mailboxの誕生秘話を聞いてきました。

──Mailboxのアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

アンダーウッド:私たちチームは、日常業務を単純化するツールの創造に意欲を燃やしています。Mailboxは、私たちが2011年に初めてリリースしたアプリ『Orchetra To-Do』の進化形。人々がメールを使って(ひどい方法で)ToDo管理をしていることを知った私たちは、Orchestraにおいて、メールの本文からタスクを抽出してアプリに転送し、そのタスクを皆で共有できるようにしました。当初は広く受け入れられたのですが、人気は持続しませんでした。理由を突き詰めてみると、アプリのヘビーユーザーであっても、タスクが依然としてメールの中に残されたままであることが分かったのです。次第に私たちは、このようなタスクを救うためには、受信箱から変える必要があると考えるようになりました。

──アイデアを思いついたあと、次にとった行動はなんですか?

アンダーウッド:メールアプリを作ることは、それほど難しくないように思えるかもしれません。でも、ひとつひとつの問題を探求し始めると、シンプルなはずだったアイデアが、どんどん複雑になっていきます。そこで私たちは、できるだけシンプルなものにすることを目標に定めました。そのための唯一の手段は、何度も試行錯誤を繰り返すこと以外にありませんでした。

131115Mailbox2.jpg

──ターゲットとするプラットフォームをどのように選びましたか?

アンダーウッド:プロダクト/マーケットフィット(PMF)を目指していたので、プラットフォームはiOS、メールプロバイダーはGmailに集中することに決めました。MailboxはすでにPMFを達成できたと思うので、今は欲しているすべての人にアプリが届くよう、他のプラットフォームやデバイスにも拡張しているところです。

──リリースしたときの気分は?

アンダーウッド:ローンチ前後の記憶はあいまいです。Mailboxの紹介ビデオを12月に発表したのですが、初日に50万ビューを記録し、反応の大きさにとにかく圧倒されたのを覚えています。私たちが作っているものは、多くの人が本当に必要としているものなのだと自信を強めました。

なぜ『Mailbox』に75万ユーザーの大行列ができているのか

メールはミッションクリティカルなので、事業を拡大しても、ロバストかつ信頼性の高いシステムを維持する必要があります。そのために、予約制の導入を決めました。アプリにアクセスできる人数を制限し、徐々に増やしていくことにしたのです。リリースしてすぐに、予約は150万件になりました。とても1日で処理しきれる量ではありません。寝る間も惜しんで対応にあたりました。

──もっとも大変だった点はなんですか? また、それをどのように乗り越えましたか?

131115Mailbox3.jpg

アンダーウッド:規模の拡大が何よりも大変でした。小さなベータ版の新サービスが、たったの数週間で数十万人のユーザーを抱えるわけですから簡単なはずがありません。メールクライアントとしてもっとも重要な資質は、安定性。つまり、信頼性と成長の間の絶妙なバランスが必要なのです。サーバーだけの問題ではなく、カスタマーサービスの処理能力拡大やチームメンバーの強化も必要でした。

──ユーザーの要求や批判にはどのように対応していますか?

アンダーウッド:幸運にも非常にアツいユーザーベースに恵まれたため、常にフィードバックをいただいております。いただいたご意見は、必ず商品決定プロセスにおいて考慮しています。アプリにはフィードバックボタンがあり、私たちはTwitterの助けを借りながら、ユーザーの希望を反映した機能の優先順位付けやロードマップ作成を行っています。もっとも多いリクエストは、プラットフォームの拡大。これに応じるため、できるだけ速やかに、他のデバイスやメールプロバイダーに対応できるように作業を進めております。

──現在は「新機能」と「既存機能」の開発に割く時間の比率はどれくらいですか?

アンダーウッド:今はDropboxの傘下に入ったので、サービスの安定性維持や規模拡大を続けながら、同時に新機能を開発するだけのリソースがあります。

Mailbox買収から見る、Dropboxの今後

これを利用して、メール処理を高速かつ楽しいものにする取組みを行っています。

──同じような挑戦をしたいと考えている人に対して、どのようなアドバイスをしますか?

アンダーウッド:とにかくやり抜け。これに尽きます。製品設計は非常に骨が折れる作業で、粘り強さと忍耐力が必要です。来る日も来る日も、試作と実験の繰り返し。重要なものなど何もなく、ただひたすらスクラップ室の床に、努力の結晶が積もっていくのを眺めるしかないのです。私たちは、UI、ロゴ、コードのすべてについて、文字通り数千回の反復を繰り返しました。その末に、シンプルかつ素朴でありながら、明確なソリューションにたどり着くことができたのです。

Tessa Miller(原文/訳:堀込泰三)