創造性を発揮している人々の仕事現場に実際に触れてみると、予想もしていなかった気付きを得られることがあります。

(原文著者の)息子のジャスティンは3Dアニメーションに興味があり、娘のクロエは脚本づくりに興味を持っていました。先日、ピクサー(『トイ・ストーリー』をはじめとする名作を生み出し続けるスティーブ・ジョブズ創立のアニメスタジオ)に勤める一人のアニメーターの好意により、そのアニメーションスタジオの見学に子どもたちを連れていく機会に恵まれました。それは、非常に刺激的な体験となりました。

今回案内してくれたバーンハード・ホックス氏は「キャラクター技術ディレクター」という職種に就いていて、各キャラクターの模型を作り、キャラクター内部の動作を設計しています。

彼の仕事は、言うなれば「ピクサーという巨大なマシンの中の小さな部品」なのですが、同時に他の人の仕事についてもしっかりと把握しています。今回の見学では、企業秘密に関わる工程は見れませんでしたが、ピクサーの非凡さがよく理解できた体験になりました。

そして、予想もしていなかった気付きを得ることができたので以下に紹介します。

1.「継続は力なり」は真実である

ホックス氏は、彼の友人の1人が3年間毎日描き続けた結果、最後には素晴らしい絵を描けるようになったという話をしてくれました。バックス・バニーなどをはじめ『ルーニー・テューンズ』を制作した伝説的なアニメーターであるチャック・ジョーンズ氏の「一枚の良い絵を描けるようになるには、その前に10万枚のへたくそな絵を描かなければならない」という名言も教えてくれました。最初は得意でないことも、粘り強く努力を重ねれば高いレベルにまで上達できると、彼は話してくれました。

2.アートとは、ある視点から現実を解釈し表現すること

アイデアや絵に対する固定観念を手放すことについても話しました。たとえば、友達と一緒に外出した夜について、自分は「外出して、食事をして、家に帰った」と表現するかもしれませんが、友達は自分が気付かなかったような興味深いことについて、おもしろおかしく語るかもしれません。同じ経験をしていても、人によって解釈も、得るものも異なるのです。

3.他人のアイデアを借りる

ピクサーのアーティストがキャラクターづくりをするとき、1人の意見だけが採用されることはありません。メンバー全員でテーブルを囲み、各々が自分のアイデアを元に描いたスケッチをテーブルの真ん中に置いて共有するのです。大量のスケッチが生み出されたあとに、そこからベストを選びます。つまりお互いのアイデアを借りながら、表現を高めていくのです。

もし、才能のある人々と一緒に仕事をする環境に置かれていなくても、このプロセスを応用することができます。魅力的なものをつくっている人を見つけて、その人の表現やアイデアを借り、そして自分が生んだ表現やアイデアも他人と共有するのです。

4.エゴを手放す

すばらしいスケッチが描けたときには、自分の描いたものこそ採用されるべきだと思うでしょう。ですが、多くの才能豊かなアーティストが描いているのですから、実際大方は採用されません。

自分のスケッチこそが採用されるべきだと考えて、そのために必死になっても、それは選考過程の邪魔になるだけです。ピクサーのアニメーターはエゴを手放し、プロジェクトの成功を第一に考えなければなりません。それは、どんなクリエイティブなプロジェクトにも共通して言えることだと思います。

5.メンバー全員で目標を共有する

アニメスタジオの中には、制作業務を海外に委託するところもあります。しかし、そうするとアニメーターが映画の内容について理解していなかったり、プロジェクトの目標に無関心であるという事態が起こりえます。

ピクサーではプロジェクトに関わるメンバーは全員協力して、最高の映画をつくるためにベストを尽くし、誇りを持って仕事に従事するという姿勢が求められます。

全メンバーがそのプロジェクトのために選ばれており、全員が自分の制作している作品に真剣に向き合っているのです。そうした姿勢は、完成した作品にも表れています。

6.多くの素晴らしい仕事をしても、最終的に採用されるのはわずか

ピクサーが『メリダとおそろしの森』 を制作した際、最終作品に使用されなかったシーンを全てつなぎ合わせると実際の映画の5倍になるそうです。採用されなかった「ネタ」も大量にあります。つまり、とてつもない時間が映画制作に費やされており、多くの素晴らしい仕事がなされたにも関わらず、「ベストの中のベスト」しか最終的には採用されなかったのです。

多くの素晴らしい仕事をしても、最終的な形となるのはほんのわずかです。それはつまり、私たちが映画館で観る作品というのは、信じられないほど素晴らしいクオリティの作品であるということです。

7.憧れの存在の近くに身を置く

6年前、ホックス氏がピクサーで採用面接を受けた時、丸一日が面接に使われました。彼を面接した人々の顔ぶれは、まさに彼が憧れていた人々ばかりでした。世界最高レベルの才能を持った憧れの存在が、彼の同僚なのです。これほどワクワクすることがあるでしょうか。こんな幸せな状況に置かれたら、毎朝ウキウキした気持ちでベッドを飛び出すのではないでしょうか。

もちろん、私たち全てがこうした幸運に恵まれているわけではありません。しかし、常に自分の尊敬する人々の作品と身近に接するようにすることで、やる気を高めることができますし、いつか自分が成長した結果、憧れの存在に会える日が来るかもしれません。

8.スタート地点にいる人を応援する

ホックス氏は、今回時間を割いて私たちを案内してくれました。1人のティーンエイジャーがコンピューターアニメーションに興味があるという理由だけで。こんなことは滅多にありません。彼は次のように理由を説明してくれました。

「僕もかつて、今のジャスティンと同じ場所に立っていたことがあります。今の僕が知っていることを伝えられるのは素晴らしいことです。情熱と夢を持つことは、前向きに日々を生きるために大切です」

こうした行動をとれる人がどれだけいるでしょうか。ホックス氏、そして人に感動を与える作品をつくり、エゴを手放し、スタート地点にいる人を応援し、粘り強い努力は報われるということを私たちに示してくれる人々に心から感謝します。あなた方のおかげで、素晴らしい作品を観ることができるのです。

8 Creativity Lessons From a Pixar Animator | Zen Habits

Leo Babauta(原文/訳:佐藤ゆき)