ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント』(藤田勝利著、日本実業出版社)の著者は、30歳で経営大学院への留学を決意したという人物。カリフォルニアのクレアモント大学院大学に所属する「ドラッカー・スクール」に単身・私費で進み、ピーター・ドラッカーおよびその思想を受け継ぐMBA教授陣からマネジメント理論を学んだそうです。

そして「ドラッカーの名こそ聞いたことはあるものの、その考え方についてはほぼ無知な状態だった」という当時の著者は、偶然知ったドラッカー・スクールの学校紹介に強く共感したのだとか。

「我々はビジネス・スクールではなく、マネジメント・スクールである」

「Efficient(効率的、手際のよい)であるだけでなく、Effective(効果的、心に残る)である組織のリーダーを育てることが我が校の使命である」

(いずれも2ページより)

そんなドラッカー・スクールの考え方に基づいて書かれた本書の特徴は、マネジメントの本でありながら「セルフ・マネジメント(自分自身のマネジメント)」というテーマが最初にあること。それは「組織のマネージャー」である前に「個」として自分のビジョンや価値観を明確にし、自分自身という希少な資源を最大限に活かすことが大切であるというドラッカーの考えに基づいたものです。そこで、その本質について言及しているChapter 1「『セルフ・マネジメント』から始まる」に目を向けてみましょう。

雇用の強みは"人"

現代は「変化が常態」の時代。市場は飽和しやすく、企業には常に創造的なイノベーションが求められるからこそ、個々のリーダーや人材が持つ「とりわけ強い資質」「深い探究テーマ」「美的感覚」「価値観」が大切だと著者は主張しています。

ローテーションで人材を育成するとしても、会社側が人材の本当の資質上の強みや価値観を考慮して人事決定することが必要。本人の可能性を広げるための新しいミッションも、個人の資質や価値観と接点をもったかたちで設計されるべき。また本人も、新しい環境で自身の強みを失わないことが大切だそうです。(30ページより)

自身の強みの発揮

「強み」とは、もって生まれた、あるいは成長過程で身につけてきたその人の資質。本人すら気づいていないかもしれないこの部分を仕事ぶりや会話から発見していくことも、マネージャーの重要な役割。根源的な強みを発揮できているときこそ、人は想定外の成果をあげたり、独創的なアイデアを生んだりするからです。つまり強みの発揮こそが、組織の生産性を高める第一条件となるわけです。(33ページより)

マネージャー自身の「言葉」

「会社が決めたから」「上長の方針だから」ではなく、「自分は、こう考えるから」という強い軸を持たなければ、部下もついてこず、マネジメントとして成果をあげることができない。

まず自分自身という資源を活かせていると実感することで、主体的に自分の意志や責任意識をみずからの言葉でメンバーに伝える活力が生まれる。そんなマネージャーにメンバーも触発され、ますます組織が生滅的に躍動していくという流れが生まれるということ。(34ページより)

自分の価値観を知る

日々発生するさまざまなジレンマを包含する問題に対し、リーダーが「筋の通った」信念で対処することで、会社や組織の行動規範がしっかりセットされるといいます。社員が一番見ているのは、身を切られるようなジレンマのなかで、リーダーがなにをよりどころに、どう決断するか。短期的な損得を超えた勇気ある意志決定をすることで、社員のやりがいや組織への帰属意識という長期的なメリットが生まれるわけです。(38ページより)

「21世紀のセルフ・マネジメント」

知的社会である現代は、知識労働者がみずから考え、有効な目標を定め、人と生産的に協力していく時代。大切なのは、ますます自分の考えや感情を客観的に見つめ、向けるべき対象に自分の着目点を定めることだそうです。市場、組織、業務、そして自分の内面の「どこに」注目するかによって、得られる成果がまったく違ってくるということです。(41ページより)

たしかに「セルフ・マネジメント」は、現代の組織にとって重要です。

自身の内面にある価値観や強み、考え方、感情を知り、まず自分自身という資源を活かすことが、組織と人をマネジメントしたり、幾多の困難や悩みを乗り越えていくうえできわめて重要なのです。

(44ページより)

この考え方を軸とした以後の章も、興味深いものばかり。ぜひ手にとってみてください。

(印南敦史)

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