『鈴木敏文のセブン-イレブン・ウェイ』(緒方知行著、朝日新聞出版)は、上記の言葉どおり20年前から鈴木氏の取り組みを追跡してきた著者が、セブン-イレブンの「商売・経営のセオリー」を明かした書籍。危機に陥ったアメリカ・セブン-イレブンを独自の手段で立てなおした鈴木氏の強烈なリーダーシップが、さまざまな角度からクローズアップされています。日本におけるセブン-イレブンの創業から今日に至るまで、誰よりも長く、誰よりも深く、セブン-イレブンとそのリーダー鈴木敏文の経営実践を取材・研究し続け、かれこれ二十冊近い著作を世に問うてきている。
(3ページ「まえがき」より)
セブン-イレブンの「基本四原則」
セブン-イレブンの38年の歴史は、要求のレベルを高めてくる顧客のニーズに応えるべく自己革新・進化を続ける歴史そのもの。そしてその根底にあるものは、「基本四原則」を徹底していることなのだとか。以下、27ページより紹介します。
1.フレンドリーサービス
ヒューマンタッチ(人間味)、ハイタッチ(思いやり)の「いい気分のおもてなし」。小売業、飲食、サービス業の競争を左右する大きな要素です。
2.クリンリネス
清潔さ。お客様をお迎えするには、快適な環境が用意されなければならないということです。そしてそれは、いい気分、清掃の行き届いたアメニティ(快適性)の高い店舗空間、衛生上配慮の行き届いた売場、トイレや店頭、顧客からは見えないバックヤードも含めて徹底すべきだといいます。
3.鮮度管理
食でいえば味や鮮度や安全・安心など)。顧客が心を動かされるような魅力のある、満足度の高い価値ある商品が提供されていること。
4.品揃え
欠品のない品揃え。そしてそれは、顧客にとって満足度の高いものでなければならないといいます。つまり「欲しい人に、欲しいモノやサービスが、欲しいとき、欲しいだけ、より望ましい条件(価格・提供方法など)で買える場所であることが求められるわけです。
いうまでもなく日本のセブン-イレブンが成長できたのは、これらを徹底したから。しかし、経営が行き詰まったアメリカ・サウスランド社(セブン-イレブンの総元締)を再建させるにあたっては、国民性の違いをも含めた壁にぶち当たります。たとえばいい例が、鈴木氏が目の当たりにしたハワイのセブン-イレブンの状況。
ある店では、天井に二メートルもの大きな穴が開いているのを、そのまま放置していた。それほどハワイのセブン-イレブンはひどい状況になっていた。
(52ページより)
鈴木氏はそれを見て「これはコンビニエンスストアとしての体をなしていない」と断じ、意識改革の必要性を強調します。サウスランド社の人たちが持っていた常識を覆そうというわけです。たとえば彼が命じたことのひとつは、「ディスカウントを断固としてやめさせる」という点。
「アメリカではコンビニエンスストアもディスカウントを行なっているが、それでは自分たちの本業を見失うことになる」という理由から、ディスカウントを徹底的に排除したのです。
ディスカウントをすると、ディスカウントを求めるお客しか来なくなる。すると、ディスカウントを求めてくるお客が喜ぶものしか売れなくなる。また安く仕入れられるものしか、品揃えしなくなる。しかし、それは本来のコンビニエンスストアが応えなけえばならないお客のニーズとは、どんどん離れていってしまう。そしてコンビニエンスを求めるお客は来なくなってしまう。したがって、コンビエンスアイテムは、置いていても売れなくなるから、どんどんアイテム数は減っていく。そしていつの間にか本来のコンビニエンスのあり方が忘れられ、自己の存在性を失っていってしまう。
(76ページより)
当然のことながら「日本とアメリカでは事情が違う」と反発を買いますが、それでも屈しなかったのは、「日本流もアメリカ流もない。あるのは"お客さま流"だけだ」(94ページ)という思いがあったから。その信念を軸にリーダーシップを発揮し、アメリカのセブン-イレブンを救ったわけです。
これはほんの一例ですが、本書には他にも興味深いエピソードが数多く掲載されています。そしてそこからは、「リーダーシップとはかくあるべし」という考え方が見えてくるはずです。
(印南敦史)