例年より早く春がやってきました。ランニングシーズンもそろそろ佳境ですが、ランナーの皆さん、今季の成績はいかがですか?

まだまだ追い込みたい人も、来季に向けてじっくりトレーニングをしたい人も、どちらにもオススメの、ランニングにとても効果的な「ピラティス」を紹介します。

元世界選手権出場ランナーの市河麻由美さん
話をお伺いしたのは、元世界選手権出場ランナーの市河麻由美さん。市河さんは今のようにランニングがブームになる前、当時にしてはまだ珍しい市民ランナーだったお父さまの影響で、走ることに興味をもったそうです。

負けず嫌いな性格から、必死に練習を続けた努力が実り、1999年に世界陸上出場、2001年の名古屋国際女子マラソンでは自己ベスト記録、2時間27分22秒を叩き出しました。2003年に引退された後は、ランニングアドバイザーとして活躍中。そんな市河さんが現在専門としているのが、ランニングに効く「ピラティス」です。

自分の体を知ることでケガが少なくなり、タイムも上がる

ヨガならよく知っているけれど、ピラティスにはあまり馴染みがない、という人もいるかもしれません。

ピラティスとは、第一次世界大戦中に、負傷した兵士を復帰させるリハビリとしてドイツのジョセフ・ピラティス氏が考案したエクササイズです。従来の筋力トレーニングは主に体の外側の筋肉(表層筋)を使うのに対して、ピラティスは一番奥深くの筋肉(深層筋)を多く使います。血流を促し、脂肪を燃焼させて、持久力を高める筋肉を鍛えることができます。

市河さんがピラティスと出合ったのは、現役引退後。正直、もう走りたくなかったけれど、体を動かさないのも気持ち悪くて、何気なく参加したスポーツクラブのレッスンだったと言います。

何だか地味で、初めはどこに効いているのかもよくわからなかったものの、続けていくうちに、だんだんピラティスの良さがわかってきたそうです。

最初は「なんじゃこりゃ!」と思いましたね。現役時代にいかに自分の体を酷使していたかがよくわかりました。ピラティスを続けると、自分の体がよくわかるようになります。ですから、体の歪みや痛みの根本解決ができるんです。

病院に行って治療をしても、それは一時的な解決にしかなりません。本来は、自分の体のことを自分自身が一番よく知り、自分の力で治していくことが大切だと思います。そうすれば、ケガも少なくなりますし、もちろんタイムも速くなります。

しかし、その重要性を理解してもらう事はなかなか難しいのだとか。「走ることとピラティスがどうつながるのかわからない」とか、「走る以外のトレーニングをするくらいなら走った方がまし」と言われてしまうこともあります。

それでも、市河さんのピラティストレーニングを続けているランナーは、効果をしっかり感じています。3時間ちょっとでフルマラソンを走っていた60代の男性は「疲れにくくなった」と言い、その後ハーフマラソンで記録を更新することができました。体重が10kg減った人もいます。

「もちろん個人差はありますが、例えば週に1回のトレーニングなら、最低でも2ヶ月くらいは続けてほしいですね」と市河さん。今は、自分自身が走ることよりも、自分のレッスンを受けたランナーの体つきが目に見えて変わっていくことや、「自己ベストを更新できた!」という報告をしてもらえることに、やりがいを感じています。

ランニングに効くピラティス

今回は、初心者でも簡単にできる、ランニングに効果的なピラティスの型を4つ、教えていただきました。

息を吸う・吐くの順序はあまり意識しすぎず、息を止めなければ大丈夫、という程度に考えてください。

自宅で行うときは、ヨガマットなどを使うのがベターですが、畳や絨毯の上でも問題なし。布団の上は柔らかすぎるのでNG、また、板張りだと硬くて体が痛くなってしまうので避けた方がいいでしょう。

1.体の柔軟性をアップさせ、ケガを減らす

~背骨ストレッチ/スタンディングロールダウン~

すべては正しい姿勢から! まずは、立ったときの基本姿勢をマスターしてください。

立ったときの基本姿勢

  • つま先を正面に向けて足を坐骨の幅に開きます。親指の付け根、小指の付け根、かかとの3点を結んだ三角形が均等に床に着くよう、足裏で床を押すイメージで
  • 頭のてっぺんを天井から引っ張られるように意識して背筋を伸ばします。首が長い状態をキープ。アゴと胸の間は、オレンジが一つ入るくらいのスペースを作ります
  • 鎖骨を真横に開くように、胸を広げます
  • そして、もっとも重要なのが骨盤の状態。写真のように脚の付け根に両手を置き、「コマネチ」の状態から、お腹に三角形を作ります。人差し指が地面に対して垂直になった状態が正しいポジション(=ニュートラルスパイン)です
  • 最後に、ズボンのチャックを締めるようなイメージで、お腹を引き上げます。走るとき、一番意識したいのが腹筋。腹筋を鍛えることで腰痛改善にもつながります

背骨ストレッチ/スタンディングロールダウン

  1. 正しい立ち姿勢ができたら、息を吸って、吐きながらアゴを引き、背骨を上から1個1個丸めていく
  2. 手が床に着くまで曲げたら、息を吸い、また吐きながら今度はお尻から一個一個背骨を戻し、スタートポジションに。頭から一気に戻さないように注意
  3. お辞儀ではないので、できるだけ頭をお腹の中に巻き込むようなイメージで下ろす
  4. 頭と肩は脱力。お腹のズボンのチャック(腹筋)は、しっかり引き上げて力を入れた状態で
  5. ゆっくり3回~5回、繰り返す

2.体幹を強化してももの裏を使った理想的な走りに

~ハムストリング、お尻の強化、骨盤の安定/ブリッジ~

ハムストリング、お尻の強化、骨盤の安定/ブリッジ

次は、あお向けの基本姿勢です。立ち姿勢と同じように下腹部に三角形を作ります。寝ているので、今度は三角形が床と水平になるようにします。マットと背中に手のひら1枚分くらいのスペースをつくります。両足は坐骨と同じ幅に広げます(両足の間にこぶしが1個~1個半入るように)。

つま先はまっすぐ正面に向け、ひざをだいたい90度になるように曲げます。背中と胸は脱力。肩が浮いてこないように鎖骨を真横に開いて、床に沈みこませるイメージで。アゴと胸の間にオレンジ1個分空けます。ここでもズボンのチャック(腹筋)をしっかりと。

ハムストリング、お尻の強化、骨盤の安定/ブリッジ2

  1. 基本姿勢ができたら、手のひらを下にして両手を床につける。息を吸って、吐きながら下腹部の三角形の人差し指側(恥骨)を浮かせ、お尻をひざにむかって持ち上げていく
  2. みぞおちまで浮かせたら、息を吸って、吐きながら背骨一個一個を遠くに伸ばすように身体を戻していく。お腹の力をしっかり入れ、首や肩は脱力。足の裏で膝を斜め前へ押すようなイメージを持って、ゆっくりと。これを3~5回繰り返す

3.外股、内股を矯正する

~中臀筋と内転筋/サイドキック~

内股を矯正するため、中殿筋を鍛えるピラティスです。

中臀筋と内転筋/サイドキック

  1. 横向きに寝る。足先から頭まで一直線になるように、上の手で床を押して身体を支える
  2. 顔は真正面。お腹に力を入れたまま、肩は脱力
  3. 息を吸って、吐きながら上の足を遠くに引っ張られるようなイメージで上げていく。つま先は床の方に向ける。息を吸って吐きながらゆっくり下ろし、スタートポジションに
  4. 反対側も行ない、ゆっくり3回~5回繰り返す

次に、外股を矯正するための内転筋を鍛えるピラティスです。

外股を矯正するための内転筋を鍛える

  1. お尻の高さまで上の足を上げたところからスタート。つま先はまっすぐ伸ばす
  2. お腹に力を入れたまま、肩は脱力
  3. 息を吸って、吐きながらゆっくりと下の足を上の足まで持ち上げる
  4. 指先をタッチするのではなく、両足の付け根をしっかり付けるイメージで
  5. 息を吸って、吐きながら、下の足をスタートポジションに戻す
  6. 反対側も行ない、ゆっくり3回~5回繰り返す

4.ランニングの基本、最も必要な腹筋を鍛える

~腹筋の強化、下背部のストレッチ/ハーフロルダウン~

腹筋の強化、下背部のストレッチ/ハーフロルダウン

  1. 膝を90度に曲げて座り、腹筋に力を入れる。足の幅はこぶし1個~1個半程度開く。肩は脱力。坐骨を床に立て背すじを伸ばす
  2. 息を吸って、吐きながら骨盤を後ろに倒し、尾てい骨を床につける
  3. そのままゆっくりとお尻を落とし、背骨を下から一個一個を落とすようにして背中を丸める。おへそで背中をぐっと押すようなイメージで腹筋を使う。頭から倒すのではなく、お尻からゆっくりと。ひじが伸びるくらいまで背中を丸めたら、止まる
  4. 息を吸って吐きながら、背骨を下から1個1個戻すようにしてゆっくりとスタートポジションに
  5. 足の付け根と肩は脱力。足の裏が浮きそうな人は、誰かに押さえてもらって

動きが繊細で正しくできるまでに時間がかかりますが、続けていけば効果を実感できるはずです。呼吸法などをきちんと習得したい人は、市河さんがランナー向けに行っているピラティス教室や、毎週木曜日の夜に皇居を走る「ピラティスサーキットラン」も気軽に参加できるので、基礎を身につけるのにオススメです。

また、今はランナーではないけれども、これから走ってみたいなと思っている人は、初心者から学べる「ippo~ゼロからはじめるランニング教室」も4月から始まるそうなので要チェック!

ランニングとピラティス、あわせてトレーニングして、ぜひ自己ベスト更新に挑戦してみてください。

市河麻由美 公式ホームページ

(尾越まり恵)

Photo by Thinkstock/Getty Images.
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