丁寧を武器にする』(小山進著、祥伝社)は、「あたりまえのこと」がいかに大切であるかを再認識させてくれる書籍です。著者は開店9年にして約220人のスタッフを抱え、約1500坪の敷地内で6つの店とギフトサロン、お菓子教室を擁する「パティシエ エス コヤマ」のオーナー。

本書が単なる「パティシエが書いた本」を超えたビジネス書としての重みを感じさせる理由は、以下の言葉に表れています。

僕は、ケーキ屋は普通の企業と根本的には変わらないと考えている。スタッフの指導は不可欠だし、商品を生み出し、店や商品をどうアピールするかも考えなければならないし、コストも計算しなければならない。おそらく、普通の企業に勤めるビジネスパーソンと同じことで悩み、同じことで苦労しているだろう。

(「はじめに」より)

そして著者は、「どんなジャンルの仕事であっても、丁寧な力こそ仕事の基礎力になる」「丁寧な力は、自分を助けてくれる」と断言します。以下、本書から役立ちそうな部分を抜き出してみたいと思います。

1本の小山ロールに習熟すると、ものづくりが変わる(64ページより)

「パティシエ エス コヤマ」を有名にしたのが、1日1600本も売れるという「小山ロール」。そして同店ではスタッフが小山ロール部門に配属されると、2年間は異動することがないそうです。理由は、四季のある日本でものづくりをすることの意味を理解してほしいから。

1個の商品を深く掘り下げて考えることではじめて、基礎力がつく。その基礎力のひとつが、『丁寧な力』だ

どんな仕事にもルーティンワークはつきものですが、ルーティンワークをひとつひとつ丁寧にこなすことが基礎力につながるのですね。

エスコヤマには失敗作は存在しない(102ページより)

著者は終礼の際、その日に起きたトラブルや自分がした失敗について、スタッフひとりひとりに発表してもらっているそうです。それは責めたいからではなく、「失敗してもそれをみんなの前で話したら、失敗じゃなくなる」と伝えたいから。仕事に失敗はつきものであり、失敗を教材にして解決策を考えれば、それはむしろ発見の芽になると考えているのです。

絶対に成功しないと言われた土地で、エスコヤマを開いた理由(108ページより)

著者はお店を開くにあたり、候補地を立地診断の会社に審査してもらったそうです。結果、「1日の売上8000円。来店者数8人」という答えが返ってきましたが、それをチャンスだと感じたのだとか。

人通りの多い場所で成功したのは「足りていない時代」の話で、「足りている時代」は人と同じことをしても成功しないと感じたから。自分にしかできないことを表現したからこそ、それが成功につながったというわけです。

ネタを仕込むのではなく、感じることから始まる(159ページより)

アンテナを張り巡らせていれば、いくらでも材料は拾えるというのが著者の考え方。お客様のためにやりたい多くのことが「宿題」として常に頭にあるからこそ、ヒントになりそうなことに出合ったら、「なににどう使うか」というアウトプットまで思いつくことができるといいます。大切なのは、感じることだというのです。

リーダーに必要なのは、自分の足りないところを知ること(166ページ)

人の下になりたくないという思いは、誰しもが抱くことでしょう。しかし、人と競争するのではなく自分自身と闘うのなら、立場が下であっても悔しい思いはしないはず。

「大切なのは自分の発信力を高めることなのだから、人をうらやんでいる時間などない」「自分の役割に気づいていない人は、サインに気づいていないだけ」「まわりの人を責める前に、自分へのサインを見つけるべきだ」と語ります。

パティシエであるという以前に必要な、リーダーとしてのあり方、そして「丁寧に仕事する」ための術が、ここにはわかりやすく提示されていると思います。そして、ひとつひとつのことがあらゆる業種に応用できるはずです。

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(印南敦史)