販売員に勧められるまま「それ、欲しい!」と思ってしまった。ただ本能的に何かをしてしまった。全く自分らしくない選択をしてしまった...そんな経験があるという方、あなたは相手の考えを頭に植え付けられていたのです。
映画『インセプション』をご覧になった方は、他者の頭に考えを植え付けることなんて難しいと思うかもしれません。しかし、そうではないのです。それは驚くほど簡単で、同時に避けがたいものなのです。どのようににして植え付けが行われるのか、これから見ていきましょう。■上手な「逆心理」の使い方
「逆心理」(望まないふりをしつつも、相手にそのことをするように仕向ける方法)が最も流行ったのは、映画『ジュマンジ』が公開された1995年でしょうか(内容を覚えている方なら、言いたいことがわかると思います)。
ただ、多くの人は「逆心理」を単純に捉えすぎています。例えば、「君が飛行機から飛び降りて命を危険に晒そうが、私の知ったことじゃない」と言って、他者にスカイダイビングを思いとどまらせようとするとします。しかし、これは「逆心理」ではなく「受動攻撃」(真っ向の対立ではなく、むくれる・不服従などの抵抗を示すこと)です。では、「逆心理」とは何なのでしょうか。
あなたのルームメイトが皿洗いの当番であるのに、何もしていないとします。そんな時、こう言ってしまうのが普通でしょう。
「ねえ、お皿洗ってもらってもいいかな? 今日はあなたの番だから」
ところがルームメイトは怠け者。ストレートに頼むのはうまい方法ではありません。では、次のように言ってみたらどうでしょうか。
「ねえ、僕は皿洗いをこの先しないことに決めたよ。全部使い捨ての皿にするつもりなんだ。君もそれで構わないかな? もし、お金をくれるなら、ついでに君の分も買ってくるけど」
この発言では、相手を非難せず、レベルの低い代案を提示しています。こうすることで、ルームメイトの心を非難に向けることなく、代案について考えるように誘導します。これが「逆心理」の効果的な使い方です(本気で言っているように振る舞えば、ですが)。
■外堀を埋めていく何かを「したくない」という相手の考えがわかっている場合には、あなたが「してほしいこと」を相手自身の考えだと信じさせるワザが必要となります。これは特に販売職に就いている人々がよく知るワザです。しかし、言うは易く行うは難し。
相手の頭に考えを植え付けることは、謎を解明する作業にも似ています。薄皮をはいでいくように、あなたの望む結果が訪れるまで、じわじわと相手に「ヒント」を与え続けるのです。ポイントは辛抱強さ。急いで「ヒント」を出し続けたら、あなたの意図がバレてしまいます。「じわじわ」とやることで、自然に、また独りでに、相手の心の中に形をなしていくのです。
例えば、あなたが友人に「もっと健康的な食事を取ってもらいたい」と考えているとしましょう。しかし友人は、カーネル・サンダース中毒で、毎日フライドチキンをバケツ1杯分も食べている強敵です。そんな友人の考えを変えるためには、神の啓示を受けるような瞬間を与えてあげなければなりません。そのために、外堀を埋めるようにして相手の心に迫っていくのです。
ここでは非常に巧妙かつ繊細な作戦が必要となります。「フライドチキンを作るのに、毎年1000万羽のニワトリがアーカンソー州で殺されてるんだってさ」などと言ってはダメ。どうしてそんなことを言っているのかが明らかだからです。目指すのは「チキンは魅力の無いものだ」と相手に思わせること。くしゃみが出たら、「鳥インフルエンザかなぁ」なんて冗談めかして言ってみましょう。一緒にレストランへ行った時には、「僕は鶏肉以外のものを食べるよ」と言い、「鶏肉がどうやって加工されているか、この前知ったんだけど...」と話しましょう。こうしたことを不自然に見えないよう、ある程度の間隔をはさみつつ積み重ねたら、次はもう少しアグレッシブな態度に出ます。
まず、一緒にフライドチキンを買いに行くのを止めます。また、自分が健康に気をつかっている姿勢を相手に見せましょう。具体的にどのような対策をしていて、どれほど良い効果があったかを語るのです。数週間経ってもあなたの友人がフライドチキンに対する考えを改めていなければ、カジュアルに問題に触れてみましょう。きっとそのころには、相手も真剣に聞く耳を持つようになっているはずですから。
■安く見せる「安く見せる」のはおそらくもっとも簡単で、もっとも効果的に他人の頭へ考えを植え付ける方法です。これは「逆心理」の別バージョンですが、レベルは易しくなります。
仮に、あなたがハードディスクドライブの販売員だとします。棚には250GB、500GB、1TBの3種類があります。もちろん、あなたが売りたいのは一番値段の高い1TBのものです。一方、今回やって来たお客さんは「一番安いものがほしい」と思っています。ここで単にお金をもっと使うようにお客さんに言うことは無意味。代わりに相手の望むもの、つまり「安上がりな選択」を提示するのです。
お客さん「この250GBのハードディスクについて教えてもらえますか? これで間に合うか知りたいんです」 あなた「どんなパソコンをお持ちで、どんな用途をお考えですか?」 お客さん「2年ほど使っているWindowsのラップトップです。ハードディスクには写真を入れようかと思って。30GBの写真データがあるんです」 あなた「写真だけを保存しておくなら、250GBで十分だと思います。もし、他にハードディスクに入れておきたいファイルがないのでしたら、これで間に合うかと」最後の言葉を聞いたお客さんの心の中には疑問が芽生えるはずです。さらに「将来的にも安心できるものをお考えでしたら、より大きい容量のハードディスクでもよろしいかと思います」と付け加えても良いですが、ちょっとやり過ぎの感もあります。いずれにしても、ポイントは「お客様の考えが第一」という姿勢を見せること。それができれば、相手に「この人からもっと買いたい」と思わせるのは簡単です。
この記事は、あなたが考えを植え付けられていることを察知するために書いたものです。むやみに他人の頭に考えを植え付けるのは良くありません。くれぐれも、ご注意を。
Adam Dachis (原文/訳:河西良太)