人を説得できるのは、それを試みている瞬間のみ、というイメージがありますが、実は、あとからジワジワ効いてくる説得というものがあるそうです。「スリーパー効果」と呼ばれるこの効果について、心理学者のJeremy Dean氏は、次のように説明しています。

第二次大戦中の1940年代、米戦争省(US Department of War)は、「プロパガンダ映画が実際に機能しているのか?」を調べるため、このような映画が兵士の態度にどのような影響を与えているのか? を実験しました。

 当初、普通の兵士なら、映画によってカンタンに影響されるはずだと考えていたそう。映画の製作者も心理学者も、映画を観終わったあと、兵士の戦争に対する態度は大きく変わるだろうと予測していました。

実際の結果は、予測とは異なるものだったとか。映画は情報量が多く、それまでの兵士の態度をさらに強める面もありましたが、総じて、戦争に対して兵士たちを楽観視させることはなかったそうです(Hovland et al, 1949)。ただ、この結果は、想定外のものではないかもしれません。なぜなら、兵士たちはプロパガンダ映画が、自分たちの態度を変えさせるために製作されたものと知っているからです。彼らは、映画から自分を防御しようとします

しかし、さらなる発見がありました。映画を観てから何ヶ月か経過したのち、兵士にその影響がみられたのです。態度はすぐに変わりませんでしたが、9週間後、微妙な変化が認められたとか。「ブリテンの戦い(The Battle of Britain)」に関する映画を観た米軍兵士は、5日後には、英国に対する特別な共感は示さなかったものの、9週間後、彼らは軟化していました。米エール大学の心理学者Carl Hovland氏らは、これを「スリーパー効果」と呼んでいます。

多くの人々は「スリーパー効果なんて、本当にあるの?」と感じるでしょう。一般的に説得は、そのメッセージが届けられた瞬間、その効果が最大化すると考えられているからです。しかし、スリーパー効果が確実に存在することが明らかになっています(Kumkale & Albarracin, 2004年の英文記事)。

「スリーパー効果」が現れるための条件は、以下の2点です。

  1. 最初のインパクトが大きいこと
    そのメッセージに最初のインパクトがあるときだけ、スリーパー効果が現れる。インパクトが薄ければ、ヒトの意識の中で頑固に居座ることはできない。
  2. メッセージの信憑性が低い
    スリーパー効果には、受け手が信頼できないと感じるよう、メッセージの情報源は信頼できないものでなければならない。

具体的なメカニズムは、こんな具合。ヒトは、メッセージの情報源が信頼できないとわかると、その主張を信じなくなります。しかし、時間が経過すると、情報源についての記憶が薄れていき、それまで抑制されていた説得効果が現れるというわけです。

ジワジワと後から効果が現れる説得がある、という事実は面白いですね。説得にまつわる記事としては、ライフハッカーアーカイブ記事「有名政治家に学ぶ、説得できる話術」などもあわせてご参考まで。

Persuasion: The Sleeper Effect [Jeremy Dean]

Jeremy Dean(原文/訳:松岡由希子)

 

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