いまや「生産性を高める」という触れ込みのツールやアプリが山ほどあります。そのいくつかを試してみたという方も、たくさんいらっしゃるでしょう。

でも、その割には「おかげで生産性が上昇した」という声をあまり聞きません。むしろ、かえって生産性が落ちた人も少なくないのでは?

もしかすると、われわれは何か重要なことを見落としているのかもしれません。

生産性を高める“ソリューション”のほとんどは事態を悪化させる」と指摘するのは、生産性ツールの開発などを行うマイケル・ハイアット&カンパニーの創業者・CEOのマイケル・ハイアットさんです。

ハイアットさんのもとには、多くの起業家・経営者が相談に訪れます。相談者は一様に「生産性とはより多くのことをより迅速に行う」ことだと話します。

しかし、この考え方は、工場で反復作業をするのが主な業務であった時代の話であり、現代の知識労働者にはふさわしくないものだと、ハイアットさんは力説します。

生産性の真の目的は「自由」。その真意は?

ハイアットさんは、生産性の真の目的は、効率とか成功といったものではなく「自由」であるべきだと、著書『フリー・トゥ・フォーカス 究極の仕事術』(長谷川圭 訳、パンローリング)で述べています。

ここで言う「自由」とは、とても重要な仕事にフォーカス(集中)できる自由や、時には何もしないでいられる自由などを指します。

それは、目の前のタスクをひたすらこなすような日々とは異なる世界。

結果的に、「明確な目的を持って一日を始め、満足感と達成感を覚えながら、エネルギーを使い切らずにその日を追える。より少ないことをして多くを達成」することを目指します。

「そんなの理想的すぎて信じられない」と思われるかもしれません。もちろん、たった1つの方法で到達できる話ではなく、多くのプロセスを経て実現可能なものです。

詳細については、本書を読み実践する必要がありますが、ここではその中のいくつかをまとめ、参考にしていただければと思います。

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カギは「生産性の4つのゾーン」。目指すべきはどれ?

「好きなことを仕事にしなさい」とは、以前からよく言われていることです。でも、「好きなことをやっていても、業績・評価は下がるだけだった…」というパターンも、よく聞く話ですね。

これは、何が間違っているのでしょうか?

ハイアットさんは、この疑問について「生産性の4つのゾーン」で説明しています。

ゾーンとは、「根気ゾーン」「無関心ゾーン」「快適ゾーン」「理想ゾーン」のことで、どのようなタスク・仕事も、これらのいずれかに該当します。

生産性の4つのゾーン

  • 根気ゾーン:熱意も感じなければ、実力も発揮できない仕事。
  • 無関心ゾーン:実力は発揮できるけれど、熱意は感じることはない仕事。
  • 快適ゾーン:あまり得意ではないけれど、熱中できる仕事。
  • 理想ゾーン:熱意と実力が交差し、自分の才能を解き放ち、最高の形で貢献できる仕事。
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熱意・実力と各ゾーンの位置づけ(本書をもとに作成)
Image: 鈴木拓也

ハイアットさんは、理想ゾーンこそが「あなたの目指すべき場所」だと力説します。ここに注力することで、少ない時間でより多くを成し遂げることができるからです。

逆に避けるべきは、それ以外のすべてのゾーン。(根気ゾーンは当然ながら)無関心ゾーンと快適ゾーンも含まれます。

前者は、作業自体ははかどり、それなりの収入を得られることもあるため、ついつい多くの時間を割いてしまいがち。

後者は、熱中して取り組めるので時間の経つのも忘れてしまうのですが、実力が伴っていないため、周囲の評価を得られにくいという側面があるのです。

本書には、ハイアットさんのクライアントの1人が、各ゾーンを理解することで劇的にワークスタイルを変化させた例があります。

ルネの会社はプライベートジェットの売買をしている。4つのゾーンの存在について知るまでの人生を、「まるでハムスターの回し車のようで……ずっと働きづめだった」と彼女は語る。

熱意と実力の関係を理解することが、回し車から逃れる鍵になった。

「おかげで理想ゾーンの項目に集中できるようになりました。

『ずっと忙しくしている必要はない。深く考えて、いちばん大切なことにしっかりと取り組む時間ができたのだから』って本当に言えるようになったのです」。

ルネの場合、影響はすぐに現れた。彼女は週60時間から30時間にまで仕事を減らすことに成功したのだが、もっと減らしたいと今も意気込んでいる。

(本書54ページより)

タスクとゾーンの関係性は絶対的ではない

注意したいのは、たとえばある人にとって根気ゾーンにあてはまるタスクが、他の人にとっても根気ゾーンだとは限らないことです。

ハイアットさんは、自分にとって経費報告書の作成は根気ゾーンのタスクですが、逆にこれが性に合っている人もいるでしょう。つまり、どのタスクがどのゾーンに入るかは、絶対的なものではありません

また、「発展途上ゾーン」という別の領域もあり、これは理想ゾーンに近づきつつある仕事のことです。最終的に、熱意と実力が伴う理想ゾーンに入ることもあれば、そうならずに終わることもあります。

これについては、「あるタスクを前にして熱意や実力を育てることができる予感がするなら、その予感を前向きに受け入れるべきだろう」と、アドバイスがなされています。

さて、これらのゾーンを理解したところで、目標とすべきは「理想ゾーンの仕事を増やし、それ以外のすべてを減らすこと」になります。真の生産性は、これによってもたらされるからです。

さすがに、一夜にして実現はできませんが、時間をかけこの道を進むメソッドが、本書には多数盛り込まれています。

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「ノー」と返答することに慣れよう

「NO!」と書かれたプラカードを掲げる様子
Image: cosmaa/Shutterstock.com

誰しも、何か頼み事をされたときや誘われたとき、ついつい「イエス」と承諾の返事をしてしまいがちです。たとえスケジュール帳が埋まっていても「ノー」とは言いづらく、そのせいで後々困ることもあったはずです。

ハイアットさんは、生産性の観点から「イエス」と「ノー」は「強力なキーワード」だと断言しています。

そして、「ノー」と言うことに慣れなくてはいけないとも。自分の理想ゾーンから離れている要求は特にそうです

もちろん、「ノー」の返事が人間関係を損なうものであってはならず、それにはちょっと工夫がいります。

人間関係を損なわない「肯定戦略」のやり方

対応策の1つとして、ハイアットさんは、「肯定戦略」を提示しています。これは、最初に「イエス」と言い、次いで「ノー」と切り返し、最後にまた「イエス」で締めくくるやり方です。

具体的な例として、ハイアットさんは自身の経験を紹介しています。

かつて出版社を経営していたことから、週に何度か作家の卵からコンタクトがあり、手持ちの原稿が出版可能なレベルかどうか尋ねてくるそうです。

ハイアットさんは、原稿を読むいとまがないため、肯定戦略の出番となります。

まず、「イエス」で始める。

「原稿執筆、おめでとうございます! 実際に原稿を書き上げる人はほとんどいません。また、レビュワーとして私を選んでくれたことにも感謝しています」。

次に「ノー」へ移行する。

「残念ながら、ほかの職務があるため、私はあなたの原稿を読むことができません。そのため、お断りさせていただきます」。

このように、しばらくしたら読む時間ができるかもしれない、などとほのめかしたりせずに、はっきりした態度を示す。

断固たる「ノー」を突きつけて、できることとできないことの境界をはっきりさせるのだ。

(本書119ページより)

もちろん、これで終わりではありません。その後で、また「イエス」と答えるのです。

ハイアットさんは、「しかしながら、私はあなたに出版までの道のりをガイドすることができます」と切り出します。

それから、自分のブログにある記事『初出版へのアドバイス』とオーディオ講座の「出版への道のり」のことを教え、相手をただがっかりさせないよう配慮しています。

この、「イエス・ノー・イエス」は、昼食の誘いからプロジェクトの参画まで大抵のことに応用可能です。

ただし、そうした配慮を見せても、相手の失望感を100%予防するのは難しいものです。その気持ちをダイレクトにぶつけられると、こちらとしても辛く感じるはずです。

それでも、ハイアットさんは、「ネガティブな反応が返ってくるのを覚悟しておく」「丁寧に応じて共感を示す」と述べながら、あくまでも「ノー」は貫き通すよう忠告しています。

「メガバッチング」でタスクを一括処理

たくさんのタスクを抱えているときは、あれもこれも同時並行に処理しようとしがちです。

しかし、人間は、そうしたマルチタスクはできないことが脳科学的にわかっています

もし、それに近いことをやろうとすると、タスクを切り替えるたびに思考が途切れ、集中力を回復させるのに余計な時間がかかり、さっぱり効率的でなくなります。

ハイアットさんが教える解決策は、「一度に一つのことだけに集中できるように、仕事を設計し直すこと」。そのための方法が「メガバッチング」です。

バッチング(バッチ処理)とは、データを一定量集めてから一括処理するという意味の、古くからあるコンピュータ用語。それを日常のタスク処理になぞらえ、大きな規模で実行するというものです。

ハイアットさん自身が、メガバッチングを始めたのは数年前。まず手を付けたのは、ポッドキャストの録音作業でした。

私は毎週、新しい話題について調査し、録音することにしていた。

しかし、やる気を出すのに苦労することも多かった。調子のいいときは1時間か2時間で済むのに、まる1日かかることもあった。

そこで、私とチームは事前に準備をしたうえで、2日ほど時間をかけてシーズン全体にカバーする数のポッドキャスト・ショーをまとめて録音することに決めたのだった。

そうすることで、私は毎週の重荷から解放され、時間と資金を大いに節約できたのである。

(本書186~187ページより)

良い感触を得たハイアットさんは、メガバッチングをミーティングにも応用。内部でのミーティングは月曜日、外部のクライアントなどとのミーティングは金曜日にと、週2日に集約しました。

これと似たような手法は、既にやっているかもしれませんね。

ですが、メガバッチングは1日のうち1~2時間を似たタスクにあてるという次元の話でなく、丸1日あるいは数日にわたるものです。そうすれば、仕事の質は劇的に上がり、かつ迅速化がはかられるのです。

日々の活動を仕分けて理想の1週間を目指す

カレンダーに丸を付ける男性
Image: cosmaa/Shutterstock.com

1週間というスパンで、理想的なスケジュールを思い浮かべたことがあるでしょうか?

「毎日バタバタしていたら1週間が過ぎていた。でも、望んでいた成果は得られなかった」というのであれば、再構築が必要かもしれません。

ハイアットさんは、日々の仕事・活動を「フロントステージ(表舞台)」「バックステージ(舞台裏)」「オフステージ(舞台外)」の3種に分けることを、まずすすめています。

フロントステージとは、雇い主や顧客がまさに期待している業務内容。たとえば、営業部門に属しているなら、それはセールス活動やプレゼン会合といったものになります。

バックステージは、フロントステージで成果を出すための諸々の準備が該当します。大概のミーティングや資料の読み込みなどがこれにあたりますが、メールのやりとりからオフィスの清掃まで、かなりのタスクも含まれます。

最後のオフステージは、仕事をしていない時間にすること一切を指します。家族・友人との付き合いやリラクゼーションに至るまで、良好なコンディションでステージに戻るためにも絶対欠かせないものです。

理想的な1週間を構築するステップ

この3つのステージと前述のメガバッチングを念頭に、理想的な1週間を構築していきます。

私の場合、月曜日と金曜日がバックステージの日で、メールやスラック・メッセージの処理、ファイルの整理、調査、新しいスキルや能力の習得、イベントの企画、チームとの協調ミーティングなどを行うことにしている。

(中略)同じように、フロントステージも何曜日でもかまわない。私の場合は火曜日と水曜日、そして木曜日だ。

私はこの3日に、ワークショップやウェブセミナー、あるいは録音録画を行い、クライアントやパートナー、あるいは見込み顧客を個人的にあるいは(多くの場合)小グループで応接することにしている。

(本書199~200ページより)

ハイアットさんは、残る土・日曜日をオフステージの日としています。

曜日にこだわる必要はないそうですが、「できれば週に2日」はオフステージを組み込むようアドバイスしています。

3つのステージを各曜日に割り振ったら、次に行うのは「特定の曜日の特定の時間帯にどのタイプの活動を行うのかを考える」作業です。

ハイアットさんの場合、1日を朝、就業時間、夜と大雑把に分けたうえで、朝の「自分」、日中の「仕事」、夜の「回復」と3テーマを設定し、スケジュールを決めていくそうです。

たとえば金曜日だと、朝は能力の開発、運動、祈りと瞑想といったルーティンにあて、就業時間内は(合間に昼食・昼寝を挟んで)外部の人たちとのミーティングに割き、帰宅後は夕食と家族との団らんになります。

テーマの種類は、自分好みにカスタマイズしてかまわないのですが、ポイントは「1日にすっきりとした形―明確な始まりと終わり―を授ける」ことです。

こうすれば、目の前のすべきことに集中して取り組め、パフォーマンスも高めることができるでしょう。


このように本書には、理想ゾーンの比率を爆上げし、毎日を充実したものとするためのメソッドが豊富に記されています。

新たな1年をまったく新しいものへと変化させたい方には、おすすめの1冊です。

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Image: autumnn, cosmaa(1, 2), 鈴木拓也

Source: パンローリング