全国で深刻化している「教員不足」への対応を巡り、財務省は10月11日に開かれた財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の歳出改革部会で、「人手不足は多くの業種の共通課題。数に頼らない教育、効率的な学校運営をしていく必要がある」と指摘した。教員志願者を増やすため、教員になった人の奨学金の返済を免除する制度の「復活」を文科省が検討していることについても、他の職業との公平性などに配慮して廃止された過去の経緯などを強調し、「多くの課題がある」とけん制した。いずれも文科省が8月末に行った来年度予算概算要求に盛り込んだ施策に注文を付ける内容となっている。
全国の学校現場では、産休や育休を取得した教員の代役となる臨時的任用教員を補充できない「教員不足」が多発している。この背景については、教員の長時間労働の実態が広く知られるようになったことで、教壇を目指す若者が減っていることが原因の一つだとする見方が教育界にある。
これに対し、財務省は11日の歳出改革部会で「『教師不足』と言われる要因の1つは、近年の大量退職・大量採用に伴う若手教員の産育休取得の増加」と指摘。2022年度までの10年間で見た時、新卒の教員採用試験の受験者数に限れば、1万7000~8000人の水準を維持しているとして、教員人気が急落しているとの見方に疑問を呈した。また、31年度までかけて公務員の定年が段階的に65歳へと引き上げられることに伴い、「今後は退職者が減少し、採用倍率は改善する」との見通しを示した。
一方、労働力人口の減少について「日本の多くの業種における共通の課題・現象」とした上で、コンビニ業界などが導入しているセルフレジや金融業界が進める支店の統廃合、学習塾業界が展開するタブレット端末を使った授業など、民間企業の経営努力を例示。「ヒトもカネもモノもではなく、持続的・効率的な学校運営」を求めた。
文科省は「教員不足」の解消策の一環として、教員になった人を対象に、日本学生支援機構の貸与型奨学金の返還を免除する制度の「復活」を検討している。これに対して財務省は、「特定の職業だけを返還免除の対象とすることは不公平感を生じさせる」「人材を引き付ける効果は減少している」といった理由で廃止された経緯を改めて強調。日本全体が人手不足なのになぜ教員だけ免除するのか▽人材確保策として有効なのか▽「返還逃れ」を防止できるのか▽他の奨学金政策に回せる原資が減少するのではないか――といった論点を挙げ、「解決すべき多くの課題がある」と注文を付けた。
教員の処遇を巡っては、時間外勤務手当を含めた地方公務員の年収よりも、教員の方が高い年収を得ており、退職金も多くなるとの資料を示し、「教員の待遇は低い」との見方を否定した。負担の大きい主任業務などを任されている教員の手当の引き上げなどには理解を示し、「メリハリのある給与体系」を求めた。
財務省は、文科省が24年度予算の概算要求で全ての公立小中学校に配置することを目指している教員業務支援員の活用法にも「突っ込み」を入れた。公立小中学校の教員を対象とした22年度の勤務実態調査の結果で、平日の在校等時間(勤務時間)が16年度比で約30分の減少にとどまったことなどを根拠として、「外部人材を大幅に拡充してきたにもかかわらず十分な効果が出ていない」と指摘。より効率的な配置や活用を促した。
また、5月の歳出改革部会に引き続き、19年1月の中教審答申に基づいて「学校以外が担うべき」「必ずしも教員が担う必要がない」などと整理されている業務に教員が従事することを強制的にやめさせることを念頭に、「文科省、教育委員会、学校がそれぞれトップダウンで実行すべき」と主張した。
歳出改革部会は非公開で行われたが、終了後に記者会見した土居丈朗部会長代理(慶應大教授)によると、教員の負担軽減に関しては「教員は業務を抱え込み過ぎている」「『働き方改革』のインセンティブが働きにくい構造がある。業務の削減にトップダウンで取り組むべきだ」といった意見が出た。一方で、教職員定数の改善を求める委員もいたという。