『冤罪生んだ検事』法廷で「覚えていない」連発 会社を奪われた元社長が国に賠償を求めた裁判 『証言』を強引に引き出す特捜部の実態 「検察は間違いを認められない組織なのかもしれない」と報道デスク 2024年06月17日
21億円の横領事件をめぐり無罪が確定した不動産会社の元社長が国を訴えた裁判。
実は捜査の中で元社長の逮捕を「待ったほうがいい」と進言していた検事がいた。 14日、その検事が証言台に立った。
当時の検察内部で何が起きていたのか。 生々しいやり取りが浮かび上がってきた。
■21億円の横領事件で逮捕のプレサンス元社長 裁判で『無罪確定』 国に賠償求める
14日、大阪地裁で開かれた裁判。
現役の検察幹部らが尋問を受ける、異例の展開となっている。 この裁判で争われているのが「検察の捜査は違法だったのか」という点だ。
大手不動産会社「プレサンスコーポレーション」の元社長・山岸忍さんは5年前、学校法人の土地取引をめぐり部下らと共謀し21億円を横領したとして大阪地検特捜部に逮捕・起訴され、裁判で無罪が確定した。
その後、山岸さんは「違法な捜査で冤罪を作り出した」として国に損害賠償を求める裁判を起こしている。
■「山岸さんは横領計画を知っていた」という証言を引き出すべく実施された特捜部の取り調べ
特捜部は、山岸さんが横領計画を知っていながら『マンション建設の土地欲しさに金を貸した』という見立てをもとに捜査を進めた。
山岸さんの関与を示す客観的な証拠も乏しい中で、特捜部がこだわったのが、事件関係者から「山岸さんは横領計画を知っていた」という証言を引き出すこと。
そこで重点的に取り調べを受けたのが、この土地取引の実務を担っていた山岸さんの部下K氏(逮捕、起訴の後、裁判で有罪判決)だった。
K氏自身は横領計画を知りながら取引を進めていたが、「山岸さんには伝えていなかった」と、取り調べに対して答えていた。
しかし最終的に、K氏は「山岸さんは横領計画を知っていた」と証言を変え、それが山岸さん逮捕の決め手となったのだった。
無罪判決でも言及され問題となったのが、大阪地検特捜部がK氏に対して行った取り調べだ。
■「プレサンスの評判を貶めた大罪人ですよ」
11日には、法廷で日本の司法の歴史上はじめて特捜部の取り調べ映像が公開された。
【田渕大輔 検事】「端からあなたは社長をだましにかかっていったってことになるんだけど、そんなことする?普通」
【山岸さんの元部下K氏】「しないですよね、普通は」
【田渕大輔 検事】「なんで、そんなことしたの。それ何か理由があります?それはもう自分の手柄が欲しいあまりですか。そうだとしたらあなたは、プレサンスの評判を貶めた『大罪人』ですよ」
【田渕大輔 検事】「これ例えば会社から今回の風評被害とか受けて、会社が非常な営業損害を受けたとか、株価が下がったとかいうことを受けたとしたら、あなたはその損害を賠償できます?10億、20億じゃ済まないですよね。それを背負う覚悟で今、話をしていますか」
■無罪判決で強く非難された「検察の捜査」
この検察の取り調べは、無罪判決の中で、真実とは異なる内容の供述に及びかねないと厳しく非難された。
【大阪地裁 坂口裕俊 裁判長(当時)】「必要以上に強く責任を感じさせ、その責任を逃れようと真実とは異なる内容の供述に及ぶ強い動機を生じさせかねない」
■「山岸さんの逮捕は一旦待った方がいい」上司に進言した検事の尋問
そして、裁判の中で注目されているのが、実際に事件の捜査にあたっていた大阪地検特捜部(当時)検事の証人尋問。
14日の午前、証言台に立ったのは、事件関係者Y氏を取り調べたS検事だ。
S検事は、Y氏が供述で山岸さんの関与を撤回したことを受けて、捜査を主導した主任検事に「山岸さんの逮捕は待った方がいい」と伝え、撤回した調書の作成を進言していた。
■「供述の全体の信用性や任意性を担保するために 訂正調書をつくる意味があると考えました」
その理由について14日の法廷でS検事は以下のように語った。
【原告代理人弁護士】「なぜあなたは撤回を調書に残した方がいいと思った?」
【S検事】「Yさんの供述の全体の信用性や任意性を担保するために訂正調書をつくる意味があると考えました」
■元社長の逮捕の方針変えなかった主任検事 法廷で「覚えてない」連発
そして14日午後に行われたのは、当時、事件の捜査を主導する『主任』の立場にあった蜂須賀三紀雄検事の尋問。
S検事の「逮捕は待ったほうがいい」という進言を聞き入れず山岸さん逮捕の方針を変えなかった張本人だ。
【原告代理人弁護士】「『逮捕待った方がいい』ということ言われたことは記憶にない?」
【蜂須賀検事】「はい、本当に覚えてない」
【原告代理人弁護士】「山岸さんの逮捕当日のことで、かなり印象的な場面だと思うが?」
【蜂須賀検事】「『撤回した』と報告された記憶はあるが、逮捕を待ったほうがいいというのは記憶が出てこない」
【原告代理人弁護士】「訂正調書を作った方がいいという指摘は?」
【蜂須賀検事】「覚えてない」
【原告代理人弁護士】「ものすごく不自然ですよ」
■元社長の関与にかかわる供述が変わったことを上層部に報告したか答えず
【原告代理人弁護士】「Yさんが供述を変遷させたことを、上司、上級庁に報告したんですね?」
【蜂須賀検事】「必要な証拠関係を精査し、適切な、、」
【原告代理人弁護士】「していないんですか?」
【蜂須賀検事】「差し控えます」
山岸さんの関与にかかわる供述が変わったことを上層部に報告したかどうか答えなかった当時の主任検事。
18日にも尋問の続きが行われる予定だ。
■無実の人を拘束 人権を侵害した検察組織 法廷で肝心な質問には答えず
14日の裁判での検事の発言を受けて、関西テレビの神崎博報道デスクは「検察は無実の人を拘束するという人権侵害をした。様々な証拠が出ているのに『覚えていない』という検事の発言はおかしい」と指摘した。
【関西テレビ 神崎博報道デスク】「検察という組織は間違いを認められない、認めさせない、組織なのかもしれない。しかしながら、今回の場合は無罪判決が出ています」
「無実の人を拘束し起訴して、裁判にかけているわけです。それだけの人権侵害をしているわけです」
「しかし、そこに及んでこれだけ色んな証拠が出てきたにもかかわらず、検事は肝心なところについて『覚えていない』と発言している」
「この姿勢はやっぱりおかしい。人間は誰しも間違いをおこすので、間違いは認めて謝って正していく、検察という組織にはそういうことが必要だと思いますね」
肝心な質問に「覚えてない」を連発した検事。
検察組織は、法廷で真相を明らかにする意思はあるのか。
今後の裁判が注目される。