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子ども食堂で自衛隊が募集広報 防衛事務次官通達に抵触か

長谷川 綾・『北海道新聞』記者|2024年5月28日6:53PM



自衛隊が昨秋、札幌市内の子ども食堂約80カ所に、中学生以上の就職勧誘を打診し、実際に約10カ所を訪れ採用案内を配布した。中学生への募集は保護者または学校の進路指導担当者を通じて行なうと定めた防衛事務次官通達に違反する疑いがある。

寄付サイトで、1月11日の陸自東千歳駐屯地での体験学習を伝える「あかはな子ども食堂」の活動報告から。


 昨年9月上旬、札幌の子ども食堂に、絵文字を使ったメールが相次いで届いた。

「×××(子ども食堂の名前)さまへ

 はじめまして、こんにちは。自衛隊札幌地方協力本部、広報官の■■■■(氏名)と申します。日頃から子ども食堂の活動お疲れさまですm(_ _)m

 今回メールさせて頂いたのは、×××さまに来られる中学生以上の子どもさんまたは保護者さまに対して、自衛隊で勤務するための紹介パンフレットや各種資料のほか、こどもさん向けのグッズなどをお渡しさせてもらえないかどうかの相談でした。

 自衛隊に入隊できるのは、18歳以上33歳未満の方となりますので、お仕事を探されている親御さん等も含め、就職先として自衛隊をご紹介できればと思っています。

 当初「子ども食堂北海道ネットワーク事務局さま」に、私どものこのような活動が、子ども食堂を運営される皆さまにご迷惑がかからないか問い合わせたところ、「募集活動について規制はしていません。それぞれの代表者さんの考えで運営されているので、直接相談してみてください」との回答を頂いたので直接連絡させて頂いた次第です。

 これらの件については日を改めて電話させて頂きますので、ご都合良い時間があれば教えて下さい。今後ともよろしくお願いします(^.^)(-.-)(__)

自衛隊札幌地方協力本部 広報官 ■■■■  090●●●●●●●●(携帯電話番号)」

「子ども食堂に? 協力本部が?」。取材で電話した防衛省報道室の男性官僚が、聞き返してきた。防衛省関係者も驚く活動だったようだ。

札幌地本独自の初の試み

 自衛隊札幌地方協力本部(以下、札幌地本)は筆者の取材に対し、メールの文面は「相手がある」として認めなかったが、広報官がメールを送ったことは認め、こう説明した。

 まず、①札幌地本の職員が市内で子ども食堂を紹介するパンフレットを見つけ、自衛隊を知ってもらう機会を作れないかと考えた、②個別に当たる前に、子ども食堂の団体に問い合わせ段取りを踏んだ、③パンフレットに記載されていた約80カ所に9月頃、送信した、④了解の返答があった約10カ所に広報官が訪れて資料などを配布した──という。

 配布したのは、陸・海・空自衛隊の広報、自衛官募集のパンフレット6種と、空自の曲技飛行隊「ブルーインパルス」などのペーパークラフト(紙で作る模型)、缶バッジ、クリアファイル、ボールペンや消しゴムなどの文房具、ポケットティッシュなどのグッズ5種。

 1月の能登半島地震などを例に災害派遣の話を中心に、国を防衛する役割があることを説明したという。

 防衛省と札幌地本によると、子ども食堂への活動は、札幌独自のもので初めて。根拠法は自衛隊法29条。地方協力本部の仕事について「地方における渉外及び広報、自衛官及び自衛官候補生の募集」などを行なうと定めている。

 「こども食堂北海道ネットワーク」は道内の半数近い152の子ども食堂が加盟する任意団体。松本克博事務局長は「自衛隊から電話があり、それぞれの運営者の判断だ、札幌市のHPに連絡先が載っていると伝えた」と話す。

募集か広報か

 札幌地本は当初、子ども食堂での活動が就職勧誘の「募集」であることを隠さなかった。メールでは、中学生以上の子どもと保護者に対し「自衛隊で勤務するための紹介パンフレットや各種資料」を配りたいと記した。嶋田和央広報企画室長は、配ったパンフレットのうち「3種類は自衛隊募集の総合案内」と述べ、「いきなり募集や採用入隊の話をするわけにはいかないので、しっかりとまずは自衛隊を知っていただくところから話をした」と説明した。

 だが、取材の終盤、筆者が「募集か広報か」と重ねてたずねると「何がなんでも入隊してくださいということではなく、しっかり自衛隊の職業を知ってもらう意味でのパンフレット。今回はあくまで募集ではなく、広報活動だ」と言い方を変えた。

 なぜか。防衛事務次官が陸自、海自、空自の3幕僚長に出した2003(平成15)年4月3日の通達「中学校在校生に対する自衛隊生徒の採用試験に関する募集広報要領等について」(防人2第3441号)は、中学生に対する募集広報は、新聞やテレビなど一般向けは除き、「保護者」又は「学校の進路指導担当者」を通じて行なうと定める。さらに「参考」説明では、「広島地本(筆者注・広島地方協力本部)が中学校3年生本人宛てに、ちらし、ダイレクトメールを投函等した事案に鑑み、規定する」と発出の理由を記し、中学生に「行ってはならない募集広報は、ちらし、ダイレクトメール、メール、街頭での直接勧誘などの本人のみに対して行うもの」と明示している。

 だが、今回の子ども食堂で配ったパンフレットは、募集要領を記した「採用案内」だ。就職勧誘の資料そのもので、通達違反ではないのか。札幌地本は「パンフレット等は興味のある人がいたら渡すよう子ども食堂の職員に依頼したもので、中学生へ直接配布はしていない」、防衛省は「関係規則に則り適切に行ったものと報告を受けている」と回答、違反には当たらないとの認識だ。

小4が基地で戦車乗る

 札幌地本によると、約10カ所を訪問後、子ども食堂の職員1人が、予備自衛官補を志願した。予備自衛官補は、非常勤の特別職国家公務員で、訓練後に有事や災害時に招集される予備自衛官になる。

 また、2カ所からの依頼で基地体験などの「自衛隊の活動の紹介」を行なった。その一つが、札幌市西区の「あかはな子ども食堂」だ。運営NPO代表の鳥井孝将さん(44歳)によると、昨年9月6日に札幌地本からメールが届き、9月8日、広報官ら男女2人が訪れ、タオルなどのグッズを子どもたちに届けた。その際、広報官から「何か協力できることはないか」と問われ、鳥井さんから基地見学を提案。今年1月11日に、陸自東千歳駐屯地(千歳市)の第7師団で1日体験学習を行なった。

 小学4年生(当時)の男子4人が迷彩服に着替え、補給や整備を担当する第7後方支援連隊を見学。戦車に乗って動かしてもらったり、ガスマスクをつけたりしたという。子ども食堂から駐屯地まで車の送迎つきで、参加費は昼食代の500円のみ。子どもたちは帰宅後、「ガスマスクが重かった」「かっこよかった」と興奮した様子で、おしゃべりが止まらなかったという。

 長男が参加した大滝玲香さん(40歳)は「みんな目をキラキラさせて帰ってきた。絶対自衛隊になるぞ、というわけではないけど、サッカー選手とか弁護士とか言っていたのが、一つの(職業の)選択肢として『あるかもね』と言っている。自衛隊について知るいい機会を与えてくださった」と感謝する。

 「臨床道化師」として病院や福祉施設を回る鳥井さんは、道内各地で自衛隊の「頑張る姿」を見てきた。北海道胆振東部地震の時は、被災地で日夜、復旧作業に当たっていた。空知管内長沼町の盆踊りでは、空自長沼分屯基地の隊員たちが仮装して盛り上げていた。コロナ下で実現しなかったものの、テレビで、人気お笑い芸人が自衛隊の体験入隊で実弾を放つのを見て、千歳の空自基地に、子どもたちに見せるための動画撮影を頼んだこともある。「まわりの国がいろいろな力を持って交渉のテーブルに乗っかってくるのに、丸腰のままでいるのか。戦争にしないのは政治家の仕事。いざという時のために、自衛隊は国防を担っているし、災害の時はみんな世話になる。年配の人は戦争体験で拒否反応があるかもしれないが、自衛隊も一つの仕事。知りもせず、反対しているのではないか」

 自衛隊の訪問を受けた別の子ども食堂は「地域の方が自由に出入りする場で、自衛隊だろうが商店街だろうがチラシを置かせてほしいと言われれば拒まない」と話した。

 だが、打診を受けた運営者の多くが、違和感を口にした。

「怖かった。子ども食堂まで(募集に)くるなんて、いずれ徴兵制になるんじゃないだろうか、とふっと思った」。ある女性運営者は、自衛隊からのメールに驚いた。「いろいろな企業から寄付やボランティアの話があるが、子ども食堂に依頼する内容だろうか」と考え、申し出を断った。

 別の子ども食堂を運営する男性はスタッフと話し合い、メールに返信しなかった。「子ども食堂は、なかなか家族みんなで食事をとれない子どもや高齢者も集まって一緒に食事を楽しむ場所だ。趣旨が違うところにつけ込んでくるなんて」と不信感を募らせた。

 自衛隊は国際法上の軍隊、自衛官は兵士(戦闘員)だ。子ども食堂は根拠法がなく、形は多様だが、子どもが安心できる居場所のはず。子どもの居場所で兵士集めをするのか。

札幌、千歳など64市町村で自衛官の募集や広報を行なっている自衛隊札幌地方協力本部=札幌市中央区。(撮影/長谷川綾)

「明白な通達違反」

 札幌地本の「直接配布はない」との主張に対し、自衛隊に詳しい佐藤博文弁護士は反論する。「自衛隊の採用案内は、まさに通達が禁じる募集広報の『ちらし』だ。保護者なしで来る子も多いはずで、子ども食堂の職員が配ろうと、自発的に持っていかせようと、『保護者』『学校の進路指導担当者』がいない直接的な配布に当たり、明白な通達違反だ。小学生や中学1、2年生は、通達が対象とする中3ではないから形式的には通達の範囲外だが、就職勧誘自体、職安法上許されない」

 少年兵撲滅のため、18歳未満の戦闘参加を禁じた、「子どもの権利条約」の追加議定書が02年に発効、日本も04年に批准した。このため、中学卒業後に入る陸自高等工科学校(神奈川県横須賀市)の生徒の身分は、08年度までは国際法上は戦闘員の「自衛官」だったが、09年度から非戦闘員の「生徒」に変わった。

 佐藤弁護士は「子ども食堂は子どもの福祉のための社会公益活動で、企業であれ官庁であれリクルートへの利用は、社会的弱者を狙った一種の『貧困ビジネス』というべきだ」と批判する。札幌地本は「指摘は当たらない」、防衛省は「関係者と相談しながら進めており、問題はない」と答えた。

 自衛官の出身を都道府県別でみると北海道は3万人超でダントツだ。一方、人口が北海道の3倍近い東京都出身は1万人弱。東京の港区や渋谷区の子ども食堂で、自衛隊は同じような募集活動ができるのか。

 米オレゴン州立レイノルズ高校の社会科教員シルビア・マクガーリー氏の論考「学校への軍事的侵略―下級予備役将校訓練課程(JROTC)の役割について」(15年12月『POSSE』29号)は示唆に富む。「高校における軍の圧倒的な存在感は、明らかな教育格差の反映である。ポートランド市街にある経済的に余裕のあるリンカーン高校の校内には大学の広報担当者がいる一方で、レイノルズ高校にはほとんどいない。そのかわりに、軍隊のリクルーター(中略)が、入隊候補者との日常的な接触を確保しようと躍起になっている」

 佐藤弁護士は言った。「自衛隊の子ども食堂への『侵略』をやめさせなければならない」

 武器を持つ組織は強い。丸腰の首相や国会議員を支配しようと思えば簡単だ。日本や世界各国の歴史を見れば、その結末の悲惨さは容易にわかる。だから、武装組織は謙抑の精神を持たなければならない。威張ってはならない。大手を振ってはならない。自重自戒は強者の義務だ。

 血を流すこと、人を傷をつけること、命を奪うことなど知らない子どもたちに、語るべき言葉は何か。語ってはいけない言葉は何か。銃を持つ人々は考えるべきだ。

(『週刊金曜日』2024年5月24日号)

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