本稿は、法制度上、産業医の選任を義務づけていないUK で、法学者として産業医・産業保健制度の形成を牽引してきたDiana Kloss 女史(Occupational Health Law 6th edition. Wiley Blackwell の著者で、MBE の称号を持つ。)による、UK の産業保健に関する講演録である。UK では、政府が産業保健を重視するようになってきている。UK の「勤労者医療」は、一般診療を労働者に提供しようとする使用者の良心ないし福利厚生に淵源があるため、当然に私傷病へのケアも守備範囲に入る。国民保健サービス(NHS)の仕組みの下、かかりつけ医(GPs)がプライマリ・ケアを担っているので、彼らも日本では産業医が担う予防的な役割を担っている。もっとも、国民保健サービス(NHS)による国民皆無償医療制度が確立したことで、産業保健は、業務上の疾病の予防など、独自の意義を追求するようになって来ている。産業医の選任が法的に義務づけられていなくても、彼らが積極的に活用される理由の1つは、UKでは、雇用者の健康管理責任が重いことにある。法制度で産業保健を定めていないことで、ビジネスとしての産業保健が育ってきている(ただし、近年、産業保健制度を法的に義務づけるべきという議論がある)。看護師も重要な役割を果たし、労使双方から敬意を持たれている。また、カウンセラー、臨床検査技師等、関係職種とも連携を図っている。産業医、産業保健看護職等について、民間団体(大学や職能団体)が積極的に研修や資格認定を行っている。GP の負担軽減のため、看護師等が、日本では診断書にも当たるfit note を執筆する権限を与えられていることも特筆される。
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