産業保健法学会誌
Online ISSN : 2758-2574
Print ISSN : 2758-2566
3 巻, 1 号
選択された号の論文の27件中1~27を表示しています
大会長講演
  • 林 剛司
    2024 年 3 巻 1 号 p. 2-8
    発行日: 2024/07/19
    公開日: 2024/07/29
    ジャーナル フリー
    「第4次産業革命」により、これまで実現不可能と思われていた社会の実現が可能になり、産業構造や就業構造が劇的に変わる可能性が指摘されている。企業においては、付加価値を生み出す競争力の源泉が、「モノ」や「カネ」から「ヒト(人材)」に移った。そのため、(1)人的資本経営、(2)HR トランスフォーメーション、(3)ジョブ型雇用が企業戦略として注目されている。このような時代背景は、今後産業保健制度にも大きな影響を及ぼし、入社から定年までの手厚い健康管理の意義は薄れ、大企業においても産業医は外注化されるのではないかと思われる。
招待講演1
  • Diana Kloss, 若林 桂, 西脇 巧, 丸山 慧師, 三柴 丈典
    2024 年 3 巻 1 号 p. 9-18
    発行日: 2024/07/19
    公開日: 2024/07/29
    ジャーナル フリー
    本稿は、法制度上、産業医の選任を義務づけていないUK で、法学者として産業医・産業保健制度の形成を牽引してきたDiana Kloss 女史(Occupational Health Law 6th edition. Wiley Blackwell の著者で、MBE の称号を持つ。)による、UK の産業保健に関する講演録である。UK では、政府が産業保健を重視するようになってきている。UK の「勤労者医療」は、一般診療を労働者に提供しようとする使用者の良心ないし福利厚生に淵源があるため、当然に私傷病へのケアも守備範囲に入る。国民保健サービス(NHS)の仕組みの下、かかりつけ医(GPs)がプライマリ・ケアを担っているので、彼らも日本では産業医が担う予防的な役割を担っている。もっとも、国民保健サービス(NHS)による国民皆無償医療制度が確立したことで、産業保健は、業務上の疾病の予防など、独自の意義を追求するようになって来ている。産業医の選任が法的に義務づけられていなくても、彼らが積極的に活用される理由の1つは、UKでは、雇用者の健康管理責任が重いことにある。法制度で産業保健を定めていないことで、ビジネスとしての産業保健が育ってきている(ただし、近年、産業保健制度を法的に義務づけるべきという議論がある)。看護師も重要な役割を果たし、労使双方から敬意を持たれている。また、カウンセラー、臨床検査技師等、関係職種とも連携を図っている。産業医、産業保健看護職等について、民間団体(大学や職能団体)が積極的に研修や資格認定を行っている。GP の負担軽減のため、看護師等が、日本では診断書にも当たるfit note を執筆する権限を与えられていることも特筆される。
招待講演2
  • 山本 勲
    2024 年 3 巻 1 号 p. 19-22
    発行日: 2024/07/19
    公開日: 2024/07/29
    ジャーナル フリー
    AI の普及は労働生産性や賃金、雇用、ウェルビーイングなどに大きな影響を与える可能性がある。AI のデメリットを最小限に抑え、生産性や賃金、ウェルビーイングの向上といったメリットを享受できるように、個人・組織・社会のレベルでAI を活用しやすくする補完的イノベーションを起こしたりすることが重要である。そうした補完的イノベーションには、労働者のリスキリングや従事するタスクの高度化が含まれる。
セミナー
  • ~草の根労働安全衛生活動家として40余年~
    古谷 杉郎
    2024 年 3 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2024/07/19
    公開日: 2024/07/29
    ジャーナル フリー
    全国労働安全衛生センター連絡会議(略称・全国安全センター)は1990年に設立された地域安全センターの全国ネットワークで、イギリスのUK ハザーズキャンペーンやアメリカの全国COSH ネットワークと同様の労働安全衛生NPO である。その設立に至る経過も含めて、筆者が草の根労働安全衛生家として40余年の間に取り組んできたことや考えていることを紹介したい。
メインシンポジウム 第四次産業革命と産業保健制度
シンポジウム1 関係学問の最前線(産業保健)フリーランスの健康確保と法
シンポジウム2
  • 江口 尚, 武林 亨, 高山 博光, 真鍋 憲幸, 中原 浩彦, 半田 有通
    2024 年 3 巻 1 号 p. 72-77
    発行日: 2024/07/19
    公開日: 2024/07/29
    ジャーナル フリー
    自律的な管理を基軸とした新たな化学物質管理に向けて、労働安全施行令等の法令が改正をされ、それに基づいて厚生労働省等から発出されるガイドラインやマニュアル等の各種文書を参考に、関連する企業や事業場においては、随時、企業間、事業場間での意見交換を取り入れながら、手探りで対策が進められている。本シンポジウムでは、そのような現状を踏まえて、今後生じうるであろう化学物質の自律管理に伴う法的リスクについて議論を深めた。
シンポジウム3
シンポジウム4 職場における健康情報の取扱い~法学と産業保健実務の橋渡し~
シンポジウム5
  • 永田 智久, 錦戸 典子, 鍋嶋 洋行, 浜野 慶一, 今井 鉄平, 齋藤 明子, 田中 勇気
    2024 年 3 巻 1 号 p. 106-122
    発行日: 2024/07/19
    公開日: 2024/07/29
    ジャーナル フリー
    本シンポジウムでは、働く人の健康と安全の確保という企業の基本的な義務に焦点を当て、中小企業における「健康経営」の実践とその効果について、経営者を含む多角的な視点で深掘りした。従業員を家族同然と捉え、従業員の健康に取り組む中小企業は増えているが、健康経営を実践しているのは全体の一部に過ぎない。本シンポジウムを通して、健康経営の実践が従業員満足度向上や業務効率の改善に寄与し、経営においてもプラスの効果をもたらすことが確認された。中小企業における健康経営の実践には、産業保健専門職との連携など、さまざまな課題があることが指摘された。今後、専門家の育成やサポート体制の整備が必要であると結論づけられた。
連携学会シンポジウム1(日本産業精神保健学会)
  • 小島 健一, 田中 克俊, 黒木 宣夫, 地神 亮佑, 佐久間 大輔, 吉村 靖司
    2024 年 3 巻 1 号 p. 124-131
    発行日: 2024/07/19
    公開日: 2024/07/29
    ジャーナル フリー
    精神障害の多くは、3年以内に治ゆ、又は症状固定すると考えられているが、労災認定され、休業補償を受けている精神障害患者の場合、治ゆや症状固定と判断されるまでの期間が長い傾向があることが報告されている。こうした課題に対して、復職後の軽易業務による賃金減額に対応する補償を考慮することや、治ゆや症状固定と判断されて支給される障害補償給付と休業補償給付との差を縮小することが対策として挙げられる。また、治ゆや症状固定の判断には、良好な医師患者関係の維持が必要である。
連携学会シンポジウム2(全国社会保険労務士会連合会)
  • 小島 健一, 高野 美代恵, 前園 健司, 奈良井 理恵, 中野 祐子, 榎本 正己, 北澤 邦彦
    2024 年 3 巻 1 号 p. 133-137
    発行日: 2024/07/19
    公開日: 2024/07/29
    ジャーナル フリー
    社会保険労務士(社労士)は、関与する中小企業において、人事労務の専門性を活かして労働者の適正処遇や就業支援を助言する役割も担うことが期待される。しかし、メンタルヘルス不調などによる私傷病休職からの復職支援においては、専門を超える多職種の専門家との連携が必要となる。本シンポジウムに先立ち、社労士が多職種の専門家チームのバックアップを受ける連携体制を、二段階の「リモート」モデルとして構築して運用を試みた。当日は、その試みから得られた気づきとIT 技術を活用する利点なども含め報告を行った。
連携学会シンポジウム3(日本職業・災害医学会) 災害産業保健と法
連携学会シンポジウム4(日本産業ストレス学会)
  • 大塚 泰正, 佐久間 大輔
    2024 年 3 巻 1 号 p. 154-161
    発行日: 2024/07/19
    公開日: 2024/07/29
    ジャーナル フリー
    本シンポジウムでは裁判所が過重負荷ないし違法と認定した/しなかったストレス要因のうちcontroversial なもの(議論の余地があるもの)をピックアップし、多職種でその内容について討議し、問題解決のための方策について論じるシリーズの第3回である。今回は、国・札幌東労働基準監督署長(カレスサッポロ)事件(札幌地方裁判所 平成29年(行ウ)26号令和2年10月14日)を取り上げ、きつ音障害を持つ労働者についての労災認定基準とその判断、および、産業医と人事・労務部門の立場から、発表が行われた。
事例検討 精神障害に係る訴訟事案の検討
模擬裁判 アルコール依存、テレワークへの復職要求
  • 伊東 明雅, 倉重 公太朗, 黒澤 一, 嶋﨑 量, 津久井 要, 瓦林 道広, 彌冨 美奈子
    2024 年 3 巻 1 号 p. 175-183
    発行日: 2024/07/19
    公開日: 2024/07/29
    ジャーナル フリー
    本模擬裁判は、攻撃的性格、習慣飲酒、身体疾患、在宅勤務への復職請求に加えて、表面的な休職理由の消滅と真の根本原因である精神症状の存在疑いについて、どのように扱うかが問われる事案である。本事案における労働者及び会社対応の妥当性、労働者自身の会社指定医診察に対する非協力、休職理由の消滅及び追加などにつき、労働者側弁護士、主治医、会社側弁護士、産業医、総括コメンテーター(産業医)それぞれの立場から討議がなされた。議論を通じ、法学と医学、使用者側と労働者側それぞれの立場の違いから、事案に対する見方や考え方の違いがあることが浮かび上がり、また「より良い産業保健対応」という目的の観点からは、事案の本質を明らかにするための専門家コミュニケーションの重要性が浮き彫りとなった。
判例紹介/判例研究
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