2023 年 109 巻 p. 99-116
本稿ではエドワード・サイードの言う対位法的な読解により、北海道文学史を再考する。具体的な作品としては向井豊昭「御料牧場」(一九六五)を中心に扱い、向井山雄や矢沢信明ら作中にて実名で登場する人物との関わりも論じるが、その前段階として北海道文学の嚆矢とされる国木田独歩「空知川の岸辺」ほか戦前の諸作、北海道文学の研究史、さらには「北海道一〇〇年」に象徴される「開拓」イデオロギーを、セトラーコロニアリズム批判の視点から検証していく。そうすることで、「自然との共生」という常套句のもとに不可視化されてきた、アイヌの強制移住に代表される和人の歴史的加害の位置を探り、今なお続く差別と暴力に向き合うための視座を可視化させる。