サクセスストーリー

SWAT Mobilityが日本に新たなモビリティ・ソリューションを提供

より少ない資源でより多くのヒトやモノを運び、社会を豊かにする。シンガポールのスタートアップ企業SWAT Mobilityは2016年の創業以来、東南アジアを中心に新たな輸送ソリューションを社会に提供してきた。2020年の日本進出以降は、地方の公共交通のイノベーションという、日本ならではの社会課題に応えるシステムを開発。北九州市での実証事業を皮切りに、長野県や大阪府など、日本各地で実証実験を続けている。SWAT Mobilityはアルゴリズムと技術を使用してオンデマンド車両提供サービスを実現する新しいモビリティ・ソリューションで、日本が進める地方都市のDX推進に貢献している。

SWAT Mobility CEO 兼共同創業者のJarrold Ong氏と、SWAT Mobility Japan代表取締役の末廣将志氏に、海外スタートアップ企業として日本のマーケットで信頼を勝ち得るまでの経緯や、課題解決型ビジネスを日本で展開する意義について聞いた。

設立年月
2020
進出先
東京都・関東

  • デジタル・AI
  • シンガポール

掲載年月 : 2023/05

日本の地域社会を動かし続けるソリューション

国連による最近の調査によると、世界の人口の半分以上が都市部に住んでいるという。これほど多くの人々が都市部で生活するようになった現在、モビリティ・マネジメントはほぼすべての都市で最重要課題となっている。

住民一人ひとりが自家用車を所有することを前提に発展してきた都市では、移動需要が集中すると主要道路において、渋滞が頻繁に発生し、都市部の限られた土地の大部分が駐車場として利用されている。さらに、排ガスによる大気汚染が深刻で、地球規模の気候変動に影響を与えている。一方、従来の大規模大量輸送は、交通渋滞と排ガスの問題を大幅に低減できるものの、どの地域で運行するかを選定する際に、移動需要に合わせた適切な選択を迫られることが多く、計画に誤りがあれば、路線開設に投じた費用に見合うだけの利用者がいないといった事態を招きかねない。

シンガポールに拠点を置くSWAT Mobilityは、ダイナミック・ルーティング・アルゴリズムと呼ばれる高度なAI技術に基づいたデマンド型交通サービスを提供している。これは、限られた時間制約の中でどれだけ多くのヒトやモノを輸送できるかという、車両配置やルーティングの根本的な課題に対して、最も効率的な方法でソリューションを提供するためのシステムだ。SWAT Mobility Japanの代表取締役末廣将志氏は、「我々はこの技術を使って、ヒトの送迎やモノの輸送を効率化するシステムを提供している」と語る。「ヒトの送迎においては、公共交通向けのオンデマンド交通運行システムや企業向けのライドシェア送迎システムを、モノの輸送においては、最少台数で最も効率的に集荷・配送可能なルートを探し出すシステムを提供している。

SWAT Mobility Japan代表取締役 末廣将志氏

変化する都市ニーズに柔軟に対応するソリューションの開発

SWAT Mobilityは、より少ない資源でより多くのヒトやモノを運ぶことで、いかに社会を豊かにするかというビジョンのもと、2016年に創業した。このビジョンを実現するために、企業や交通事業者と連携し、同社の独自技術を使って、より多くのヒトやモノをより低コストで輸送できるよう取り組んできた。同社はわずか数年の間に東南アジア全域でその技術を実用化し、近年では日本でも成功を収めている。

SWAT Mobilityのシステムは、乗客の移動需要を基に最適なルートを導き出し、ドライバーに最新のルート情報を提供する。ヒトの輸送の場合は、1日のうち最も多くの人が行き来する場所にスポットを当てる。ユーザーがアプリ上で乗車予約をすると、同社のシステムが、利用可能な車両が複数の乗客を最短時間で送迎するための最適なルートを計算する。これにより、ユーザーは従来の路線バスよりも短時間で目的地に到着でき、タクシーを利用するよりも低コストで移動することができる。また同社は、少ない車両台数で多くの貨物配送を可能にするルートの最適化を実現する、物流向けのルート最適化のシステムも提供している。

日本への導入

SWAT Mobility のようなテクノロジースタートアップにとって、日本進出は多くの優位性がある。「まず、日本は多くの可能性を秘めた大きな市場である」と CEO 兼共同創業者のJarrold Ong氏は語る。また、「日本には新しいアイデアを提供するスタートアップとの提携を検討している多くの有力企業がある」と彼は言う。「そして、スタートアップにとっては、実績を築くことが不可欠だが、日本のお客様はその高い要求水準で知られている。つまり、ここで成功できれば、自社の評判は日本国内だけでなく世界的にも大きく向上すると言える。」そしてOng氏は、投資が必要なスタートアップ企業にとって、活気に満ちたスタートアップ経済があり、多くの投資家が新たな投資先を探している点を日本進出の4つ目の魅力として挙げた。

日本にはまた、日本ならではの課題も存在する。東南アジアのほとんどの国々が、経済と人口の両面で力強い成長期を迎えている一方で、日本は人口減少が続き、経済成熟期と社会全体の高齢化の段階に達している。「スタートアップ企業であれば、自分たちが解決できる大きな課題を見つけたいと思うものだ」とOng氏は言う。現在、多くの企業が注目している課題は、特に高齢者の公共交通だ。末廣氏によると、ASEAN諸国では、従業員の送迎サービスや相乗りサービスなど、企業向けサービスに強い需要が見られる。「一方で日本では、当社は公共交通機関に新しいモビリティのコンセプトを導入している。ASEAN諸国でも同様のことはしてきたが、日本と東南アジアでは需要の性質は異なっている」。

日本の人口動態を見ると、多くの人が都市部に流入する傾向にあり、地方部のほとんどで人口は減少している。つまり、従来の路線バスは慢性的に利用者数の減少に悩まされており、不採算で持続可能ではない状況にある。だがバス会社がサービスを停止すると、高齢者は買い物、病院への通院、交友などの移動手段を失うことになる。他方、既存のサービス事業者は、課題解決のために利用可能な技術を積極的に活用してこなかった。「日本は人口が多く、経済的にも発達した先進国だ。その一方で、伝統的なやり方を長く守り続けたために、生産性や効率性の面で、十分に改善されていないことも日本の特徴だと言える」と末廣氏は指摘する。近年、日本政府は、特に地方部でのアクセシビリティ改善のために、全国でデジタルトランスフォーメーション (DX) を加速させている。これにより、多くの自治体が実証実験を通じてDX推進のための新たな取り組みに目を向けるようになった。「こうした問題を抱えた都市が日本にはいくつもある」とOng氏は言う。「当社のように、アルゴリズムと技術を駆使してオンデマンド交通運行サービスを実現する新しいモビリティ・ソリューションが、課題解決に役立つことを願っている」。

北九州市 – ソリューションを必要とする地方都市

SWAT Mobilityの日本における初期のプロジェクトの一つが、福岡県北九州市での実証実験だった。同市は、市営バスの運行改善に問題を抱えていた。利用者数は少なく、市内の路線の約 95% が赤字に陥っていた。市営バスを運営する北九州市交通局は、利用実態に応じた時刻表やルートの改正を試みてきたが、担当者のノウハウ頼みの分析作業は膨大な時間を要し、可視化が十分とは言えなかった。SWAT Mobility は、同市の実証実験に参加すると、北九州市営バスの現状を、データを基に分析し、業務改善の提案を行った。

SWAT Mobilityのアプローチは、市内の路線バスの徹底的なデータ分析を実施することだった。「当社のシステムを用いて運用改善をすれば、コスト削減を達成できる可能性が高いこと、利用者の要望に合わせて運行頻度(1時間あたりのバスの運行本数)を改善できることがわかった。さらに、自動分析ツールを提供することで、分析にかかる時間の短縮も実現できた」と末廣氏は述べる。これはあくまでも実証実験であり、SWAT Mobilityの分析結果はまだ実装をもたらしていない。それでも、大幅な改善につながる可能性のある提案ができ、将来の意思決定のためのツールを北九州市に提供することができた。「これまで数カ月かっていた運用改善プロセスをワンクリックで実行できるツールを作成した」と末廣氏は胸を張る。

北九州市でのプロジェクトは、SWAT Mobilityに市営バスのシステムに同社のサービスを適用する機会を提供した。これは海外にはない、日本ならではのものだと末廣氏は言う。「この分析ツールは、当社が日本市場に参入した後に日本向けに新たに開発したものだった」。 北九州市によると、同市は当初、海外のスタートアップ企業を実証事業の対象にすることは考えていなかったが、日本貿易振興機構(JETRO)からの働きかけもあり、試験的に行うこととなった。結果は双方にとって有益なものになった。SWAT Mobilityはこの実証実験で日本での実績を積み、そのポートフォリオにとって貴重なハイライトとなった。北九州市はSWAT Mobility独自の洞察と、将来の投資につながり得る新たな取引先を獲得した。同市交通局の担当者は、「今後もSWAT Mobilityと連携しながら、市民の足であるバス事業の安心・快適なサービスの提供と健全で効率的な運営を目指していきたい」と語る。

日本でのビジネス実績がない外資系企業にとって、実証実験は、補助金だけでなく協業先を紹介する有効な支援制度だと、北九州市スタートアップ支援課の担当者は語る。「北九州市にとっても、他の採択企業の刺激になるだけでなく、海外企業による北九州市への進出や、日本市場参入の一つの切り口になり得る事業と考え、引き続きジェトロ等と連携して外資系スタートアップに広く同事業を紹介したい」。

新たな課題と機会

日本で成功するまでの道のりは、必ずしも平坦なものではなかった。Ong氏は、「最初はコミュニケーションが大きな課題だった」と振り返る。「進出時、我々には日本語を話せるスタッフがいなかった。だが、日本人スタッフと一緒に日本事務所を立ち上げてからは、物事がうまくいくようになった」。 SWAT Mobility が日本で直面したもう一つのハードルは、新たにビジネス関係を築く上で求められる作業や準備の多さだった。「他の国の場合、我々が協力している企業のほとんどが家族経営であるため、ネットワークが非常に重要になる。だが日本は、より実力主義だと言える。当社がビジネスを提案する企業や組織は、我々のソリューションが彼らの要件のすべてを満たしているかを詳細に確認し、国内外の競合他社と比較しどちらが優れているかなど、非常に注意深く我々を評価する」と言う。

苦労があったことに変わりはないが、北九州市での実証実験の恩恵は広範囲に及ぶ。実証実験がもたらした成果は、SWAT Mobilityが新たな潜在顧客にアプローチする際の、同社の評価の確立に貢献した。「多くの自治体にとって、最優先事項の一つは、他の自治体での実績があるかどうかだ」と末廣氏は言う。「北九州市での経験を生かし、大阪府高槻市をはじめ、他の自治体やバス会社と実証実験を始めることができた」。「提案内容を具体的に聞かれるよりも、『北九州でやったのと同じことをやってほしい』とよく尋ねられる」と末廣氏は言う。「私たちが北九州市で達成したことは、それだけ大きな反響を呼んだと言える」。

CEO 兼共同創業者 Jarrold Ong氏

このプロジェクトは海外での事業にも好影響を及ぼした。「日本企業は、要求水準の高さと、注意深くベンダーを選択することでよく知られている」とOng氏は言う。また、日本は世界でも最高の公共交通機関の一つと考えられているため、「日本でモビリティ技術の分野で成功を収めることができれば、他の国のクライアントを見つける際に大きな影響を与えてくれる」と語る。

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