バイデン米大統領、デジタル資産の研究開発加速を命じる大統領令に署名
(米国、ロシア、ウクライナ)
ニューヨーク発
2022年03月10日
米国のジョー・バイデン大統領は3月9日、各省庁に対して暗号通貨などデジタル資産の研究開発の加速を命じる大統領令に署名した。連邦準備制度理事会が1月にデジタルドルに係る報告書を公表しており(2022年1月26日記事参照)、デジタル資産への関心が高まる中、政権としても戦略の構築が必要と判断した。
デジタル資産の時価総額は2017年に140億ドル程度だったが、2021年11月時点で3兆ドルを超え、米国の成人の約16%(4,000万人)が暗号通貨を取引した経験などを有している。世界100カ国以上がデジタル通貨について調査や試験運用を行っており、特に中国は、北京冬季オリンピックでデジタル人民元の試験運用を行うなど開発が先行している。バイデン大統領は、本大統領令を通じて、米国がデジタル資産のグローバル・エンゲージメントとグローバル・ガバナンスにおいて主導的な役割を果たしていくと述べた。
また、本大統領令では、消費者保護および金融アクセスの拡大、金融システムの安定と不正防止、国際競争力の強化と技術革新が優先事項に掲げられており、具体的には以下の事項に取り組んでいくと記述されている。
- 財務省などはデジタル資産の拡大による金融市場への影響を評価し政策を提言する
- 金融安定監視委員会はデジタル資産の金融システムに対するリスクを特定し緩和する
- 関係省庁は協調して安全保障や不正対策に取り組み、国際的な枠組みの構築に向け同盟国と協働する
- 財務長官は関係省庁と協力して、決済システムの将来について報告書を作成する
- 米国政府はデジタル通貨に関する多国間の取り組みに参加し、国際的なリーダシップを発揮する
今回の大統領令は、世界の中で出遅れた米国政府のデジタル通貨開発を加速させるだけでなく、ウクライナへの侵攻に伴って7つの銀行がSWIFT(国際銀行間通信協会)から除外されたロシア(2022年3月3日記事参照)が、暗号資産経由で海外に送金する可能性があるため、それに対する牽制の目的もある。ロシアによる暗号資産の迂回送金については、EUが同じ3月9日に発表したロシアなどに対する追加制裁の中で、暗号資産の取引も含めて金融規制を行うとしており、ロシアへの国際的な金融包囲網はますます強化されている。
(宮野慶太)
(米国、ロシア、ウクライナ)
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