日本茶の輸出拡大、西福製茶に学ぶ
2024年11月25日
福岡県福岡市に本社を構える西福製茶は、1936年に創業した従業員数11人の日本茶メーカーであり、福岡県の八女茶を中心に九州各地の茶の製造と販売をしている。日本茶の輸出が拡大する中、海外販路の開拓にゼロから取り組んできた同社の西宏史代表取締役社長に、これまでの経緯や商品開発の工夫、輸出事業を成功させるポイントなどについて話を聞いた(取材日:2024年11月8日)。
自らの現場感覚を信じる
西福製茶は2007年、香港の日系小売店から注文を受けたことをきっかけに、輸出事業に取り組むようになった。その後、香港で日本茶の販売促進イベントに参加し始めたが、当初5年間は輸出事業を強化しようにも、販路の開拓方法が分からず、手探り状態だったという。海外市場の情報をインターネットで調べたり外部に問い合わせたりしたが、得られる情報は自分の感覚と異なっていた。それ以来、海外市場でしか得られない現場感覚の大切さを知り、海外で開催される展示会や商談会へ積極的に参加している。西社長は「自分の感覚を頼りに市場調査をすすめる過程で、『この商品なら売れるのではないか』、『この市場であれば、勝負できるかもしれない』という思いを持てるようになった」と語る。
現場感覚が生かされた実例として、香港とマレーシアでの販路開拓の経験がある。海外展開をすすめる多くの同業他社がシンガポールやタイに注目し、香港を衰退市場と捉えていた時、同社は実際に香港で販路開拓をすすめる中で「依然として、香港市場の反応は良い」と感じていたため、同地での販路拡大を継続した。また、マレーシアは、同業他社やメディアからさほど注目されていなかったが、一般消費者向けか業務用かを問わず、取引先を通じて商品がよく売れていたため、販路開拓を進めた。いずれの国でも、自分が現地で得た感覚を信じて貫いた結果、販路開拓に成功した。
1杯ずつ楽しめるスティックタイプの抹茶は、抹茶が「MATCHA」として海外で広く認知されている半面、扱いにくさから十分に普及していなかった点に着目し、抹茶を手軽に飲みやすく商品化したものだ。さらに、中華系の消費者は一般的に冷茶を飲まない傾向にあるが、抹茶フラペチーノが香港の街中で流行している様子を見て、緑鮮やかな八女玉露を使った水出し茶を開発した。この商品は現在、欧米諸国でも受け入れられている。
継続は力なり
西社長はこれまでの経験から、輸出事業を成功させるポイントに継続性を挙げる。例えば、海外で行われる展示会や商談会への継続参加(注1)は、その地域に拠点を置くバイヤーとコネクションを維持する機会になり得る。一度の商談で取引が成立しなくても、同じイベントに続けて参加することで、話がまとまったり、新しい展開が生まれたりすることがある。バイヤーと継続して会うチャンスを作っていくことが大切だ。
また、西福製茶は主な輸出形態に間接貿易を採用しているが、商社の理解を得つつ、輸出先の買い手である顧客との直接の交流を大切にしている。継続的な交流を通じて、顧客の課題を解決したり、状況に合った別の商品を提案できたりすることもある。その積み重ねが、相互理解を深め、ウィンウィン(Win-Win)の関係を築くことにつながる。
もちろん、全てが計画通りに進むわけではない。例えば、参加にあたり審査がある展示会や商談会では、採択されず希望どおりに参加がかなわないことがある。しかし、「販路開拓は、継続してこそ結果をもたらす」との考えから、さまざまなアプローチを検討し、新規顧客の獲得や顧客との関係維持を図ってきたという。
継続性に対する意識は、事業者が心に留めておくべき、輸出事業を始める際の1つの要件とみなせるかもしれない。各国の規制を順守したり、認証を取得したりできなければ、輸出事業は拡大しがたい。輸出事業のためには、国内販売のみに注力していれば考える必要のなかった商品開発や設備投資に対し、経営資源を割く判断も求められる。西社長は「継続は成功への近道だ。段階的な成長により、誰しも事業を軌道に乗せることができる。やるべきことを1つずつ計画に落とし込み、実行することで、販路は広がっていくはずだ」と話す。
日本茶文化に誇りを持ち、プロモーション活動を実施
西社長は香港で初めて商品が売れた時、自社の商品力を誇りに思ったが、実際には「他社の商品であっても売れていただろう」と振り返る。後日、「日本の先人たちがお茶を広めたり、日本製品への信頼を築き上げたりしてきた歴史のおかげで、当社は海外で商品を売れている。他人の業績が当社の売り上げを生み出している」という思いに至った。
西福製茶は近年、日本茶文化の普及にも力を入れており、留学生に日本茶の入れ方講座を開いたり、海外でのプロモーション活動に参加したりしている。家業である日本茶の文化を広めることで、先人から受けた恩恵を次世代に引き継ぐためだ。
日本茶の輸出は右肩上がり
財務省貿易統計によると、日本茶(注2)の輸出は、数量、金額の両方で拡大傾向にある。2019年と2023年を比較すると、輸出数量(図1参照)は約1.5倍(5,108トンから7,579トン)、輸出額(図2参照)は約2倍(146億4,200万円から291億8,600万円)に増加している。中でも「粉末状」の伸びが著しく、2023年に占める割合は輸出量で57%、輸出額で74%となった。抹茶は「粉末状」に該当し、リーフ茶などと比べ、輸出単価が高い。農林水産省は「日本食への関心や健康志向の高まりが、日本茶の輸出を後押ししている」との見解を示している(注3)。
- 注1:
- ジェトロが出展を支援する海外展示会(年間予定)は、ジェトロウェブサイトを参照。
- 注2:
- HSコード0902.10〔緑茶(発酵していないもので、賞味重量が3キログラム以下の直接包装にしたものに限る)〕と0902.20〔その他の緑茶(発酵していないものに限る)〕を合算したもの。
- 注3:
- 農林水産省「茶をめぐる情勢」(2024年6月)に基づく。
- 執筆者紹介
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ジェトロ福岡 所長代理
片岡 一生(かたおか かずいき) - 経営コンサルティング会社、監査法人、在外公館などでの勤務を経て、2022年1月にジェトロ入構。調査部米州課を経て、2023年9月から現職。